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第3章 犠牲の軍隊後編 7

「ブレイズ、マーキュリー。二人が生きていたのは、僥倖だ。何しろ戦力が足りなくて、猫の手でも借りたい状況だからな。強者(つわもの)は、大歓迎だ」

 地上に降りた輸送型機械兵(マキナミレス)ユニット群の近くの岩場に寄り掛かり、エレノアが美貌に艶っぽさが不思議と滲む雄々しい笑みを浮かべた。

 取り残された敵地で偶然遭遇し互いに敵と誤認した為生じた戦闘は、互いの正体が知れ終わった。今は情報交換を兼ねて、小休止をしていた。


 藍色の丸みを帯びた騎士甲冑(ナイトアーマー)の胸甲を開け寛ぎ地べたに腰を下ろすブレイズは、恐縮した様子で答える。

「そちらこそ。まさか決死隊が生き残るとは、思っていませんでした。さすがは、リザーランド卿。ま、無事なのは本兵団群を襲ったマーク・ステラートがそんなことを言ってたから分かってたんですが」

「へぇ。あの琥珀色の騎士(アンバーナイト)と話したのか? っていうか、よく生き残れたな。本兵団群三万は全滅したんだ。残った敵を逃すとは思えないが。こちらはエレノアと俺が共闘してどうにか凌いだよ。奴は、あからさまに陽動の動きを見せる決死隊を窺いに来ただけだから、無理せず退いてくれた。マーキュリーも居るとは言え、奴には第一エクエス・ストレール百強の連隊と兵団群三千が一緒だった筈だ。退く理由はなさそうだけど?」

「話したわけではないけど、圧勝が見えて敵の不甲斐なさに憤り驕る彼の独り言を聞いたわ。わたしとブレイズは、琥珀色の騎士(アンバーナイト)の大技を突然喰らって混乱に陥った本兵団群がストレールの奇襲を受けて機能を失い為す術がなくて、情けない話だけど地に斃れ重なった味方の骸に紛れてやり過ごしたの。そのとき、たまたま彼が近くに来てそれで」

「味方が狩られていく様を、俺達はこそこそ隠れてどうすることも出来なくて只指を咥えて見ていた。バロアン卿も奇襲で討ち死にし、どうしようもなかった。そうやって、卑怯に生き残ったのさ」

 あの銀河に名だたる十色の騎士(イクス・コロルム)の一人琥珀色の騎士(アンバーナイト)とどうブレイズが戦ったのか興味が湧いた零の問いに、マーキュリーが閑雅な美貌を曇らせ応えブレイズが忸怩といった態度で口調に屈辱を滲ませた。


 凜々しく引き締まった声を凜と鳴らし、並んで腰を下ろすブレイズとマーキュリーへ、金髪のローポニーテールを揺らし向き直るとヴァレリーが清楚な美貌をキリッと引き締める。

「それは、決して卑怯でも卑劣でもないわ。琥珀色の騎士(アンバーナイト)一人でも、難敵。そこに、ミラトの第一エクエス・ストレール連隊に三千の兵団群。混乱し機能を失った兵団群では、どう抗おうとも負けは確実。出来るのは、逃げて捲土重来を期すことのみ。生き残りを図ることは、正しいことよ。手段はどうあれ」

「今こうしてここに居ることが、正しいやり方だった証拠だわ。味方が恐慌状態だったに違いない状況で、ただ逃走を図るでは逃げ切れるものじゃない。確かに屈辱だろうし褒められないけど、そんなの一時の汚辱に過ぎない」

 主筋であるヴァレリーの隣に立つサブリナが、煌めきのある榛色の双眸に思慮を浮かべ彼女らしいプラグマチックな結論を付け足した。

 円になるように集まっているのは、零、エレノア、ブレイズ、マーキュリー、ヴァレリー、サブリナの他決死隊から十六名。残りは、輸送型機械兵(マキナミレス)ユニット群に待機していた。


 精悍さのある端正な面に自嘲を刻み、皮肉な口調でブレイズは吐き捨てる。

「ざまーねーな。決死隊は生還できない死地に送られ全滅必至とか憐れんでいながら、こちらはほぼ全滅。何温いこと考えてたんだって話だな」


 首を振ると気持ちを切り替えるように、ブレイズは零へと向き直る。

「が、まだ死地を逃れたわけじゃない。零、おまえらはどうする?」

「ああ。今まさに、その死地とやらを逃れるために行動しているところだ」


 水を向けられ零は形のいい眉を軽く持ち上げ不敵さを口調に刻み、ブレイズは怪訝ながらも量るような視線を向ける。

「どうにかなる状況か? 国境惑星ファルではおまえの悪知恵で切り抜けたが、今回は前回以上に不可能に思えるぞ」

「これからわたし達は、恐らく健在な囮兵団群と合流するつもりなの」


 勝ち気を宿した明眸に強い意志を宿したヴァレリーの応えに、マーキュリーが難しい表情を閑雅な美貌に浮かべる。

「味方は増えるけど、焼け石に水だわ。囮兵団群は、三千。決死隊の生き残りが、四百三名。その半数近くが、キャバリアーではない。この戦力差では、状況に変化はないわ」

「逃げ回ることを考えたなら、な。わたし達は、ガーライル基地を囮兵団群を加えた戦力で奪還するつもりなんだ」


 勇ましげになると艶っぽさが増すエレノアが断言すると妖気じみた色香が迸り、ややたじろぐブレイズは及び腰だ。

「そりゃ、無茶ってもんじゃ……」

「当然、今見込める戦力でガーライル基地へ向かっても全滅するわ。だから一人で戦場を支配しかねない厄介な敵琥珀色の騎士(アンバーナイト)とミラトの精鋭ストレール百強を、こちらの戦力を二手に分け陽動側が引き付ける」

「そして、もう一方がその間に基地を奪還する。陽動に対処する為半数以下になっているだろう基地防衛兵団群が守るガーライル基地なら、マーク・ステラートとストレールさえ居なければ、攻略の難易度はぐんと下がる。幸い、こちらにはソルダ位階第二位伝説級のエレノアが居る。数千の兵団群が残っているといっても、どうにかできないわけじゃない。基地奪還の人員は、第二エクエス以上のキャバリアーが多少は居る決死隊から優先的に割り振るつもりだ」

 怜悧さを美貌に閃かせサブリナが大まかな作戦を示し、この場に居る決死隊に視線を送り零が後を継いだ。


 美貌を幾分困り顔にするエレノアの口調は、どこか拗ねたような響きがあり素っ気ない。

「伝説級位階以上は、わたしだけじゃないだろう。零やブレイズも居るし、マーキュリーも強力だ。この作戦で一番危険に晒されるのは、陽動側だ。圧倒的に戦力の質が異なる中、全滅せずに敵を引きつけ続けなければならないんだからな」

「上手くいきますかね? かなり厳しいと、俺は思いますが」


 確信を持てないようで顎に手をやり言葉を濁すブレイズに、零は普段は静謐さすらある麗貌を悪そうに笑ませ開き直ったように口にする言葉は珍しく大味だ。

「何もやらないより、増しだろう? それに、決して不可能ってわけじゃない。敵主力さえ拘束し続けられたら、勝ちが見える。基地を攻略し殲滅の光弾(アニヒレート)砲さえ黙らせてしまえば、味方の艦隊が惑星に降下できるんだから」

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