第1章 惑星ファル地表拠点奪還戦 10
「こちら惑星ファル駐留軍、ファラル城塞は陥落、奪還に成功せり。城塞の制御AIの優先権コードは、ボルニア帝国惑星ファル駐留軍を最上位に設定し直した。城塞に残っていた城塞指揮官のボーアの部将は討ち取り、既に亜空間航路封鎖は解かれ情報運搬超光速艇を進発させている。ボルニア帝国軍の援軍が到着するのは、時間の問題。トルキア帝国軍は、無駄な抵抗を止め降伏、もしくは撤退せよ」
中天に近づく陽光に照らされた、広大な地表を見晴るかすタワー最上階。指揮管制ルームの中央卓近くに立つ零は、オープン回線で惑星ファルと周辺域へ呼びかけた。
駐留軍グラディアート兵団群二万と戦っていたトルキア帝国グラディアート兵団群三万にすぐさま動きがあった。そして、ファラル城塞の裾野に広がる宇宙港から、トルキア帝国軍の大小恒星戦闘艦が次々と離脱を始めた。トルキア帝国グラディアート兵団群は駐留軍グラディアート兵団群から俄に距離を取り防衛線めいたものを構築すると、順次戦場を離脱し始める。
ほっとした声を、零の傍らに立つブレイズが落とす。
「やったな。これで俺たちの勝ちだ。トルキア帝国軍も馬鹿な真似はしない。交戦中の駐留軍二万と、城塞を奪還した得体の知れない兵団群と敵さんが思ってる俺たち。二つを相手に戦って、すぐに到着するだろう亜空間航路を通過してやってくるボルニア帝国軍と戦闘になれば敗北は必至。ここは、逃げの一手だ」
「ああ。ここで、血迷ってファラル城塞をさらに奪還しようとトルキアにやって来られたら、グラディアート二機と機械兵ユニット群五千ほど度の俺たちではどうしようもなかったな」
やや人の悪い笑みを去って行くトルキア帝国軍を映し出すホログラム映像へと向ける零に、ブレイズは笑みを向ける。
「しかし、さっきの残像攻撃といい、零、おまえクリエイトルだったんだな。いやー、すっかり忘れてたよ。城塞の制御AI――汎用人工知能の優先権コードを突破できなきゃ、この城塞は俺たちのもににならず、亜空間航路封鎖も解けなかった。専門家を連れてこなかったから、インテリジェンス・ビーング管理局が汎用人工知能に組み込む優先権コード・インターフェースをクラッキングできず、城塞を奪取したなんて嘘を吐いてもすぐばれるから、せっかくこのルームまで辿り着いても無意味だった」
「まーな」
素っ気なく興味なさげに答える零は、あまり詮索されたくなかった。
キャバリアーの超技に属する残像攻撃は、レアな技なのだ。使える者は、限られている。残像を残し攻撃する技で、効果は幻惑。不完全な次元移動を実は秘超理力により行っており、直線的に移動しながら実体は前後に出現しているのだ。それを可能にするには特殊な演算が必要で、一二国時代の終焉に生み出された常人を越えた知能と直感を有する新たな人種、創造者である必要があるのだ。
束ね左肩に垂らした髪を弄ぶ零のあからさまに誤魔化すような態度に、ブレイズは軽く訝るものを思慮のある藍色の瞳に浮かべるが、軽く首を振ると無理に聞き出すような真似はせず陽気に話題を変える。
「おっしゃー。俺は、これでボルニア帝国軍の正式な臣下だ。それも、平の兵団員からのスタートじゃなくて、兵団長からの。手柄を立てたからな。それに、これだけの功績だ。もしかしたら、それ以上の報償だって得られるかも知れない」
「欲を掻くなよ。モリスを騙してるんだ。命令違反を言い立てられたら、それこそ一番下っ端の仮採用の俺たちじゃ一巻の終わりだ。ここはモリスを立てて奴の手柄ってことで通して、奴の口利きに期待するんだな。ま、それはともかく俺の目的はクリアだ。短い付き合いだったなブレイズ。達者でな」
ひらひら手を振る零の首にブレイズは腕を回し、言いくるめるように説得し始める。
「おい、おまえ本当に辞めちまうのかよ? あれだけの腕とモリスを出し抜いて城塞を奪取するだけの才幹だ。もったいねーって。な、考え直せ。俺と仲良く、今後もやってこーぜ。おまえ言ってたよな。戦いでは何も解決しないって。けど、どうだ? おまえが難儀してた亜空間航路封鎖が解けただろう?」
回されたブレイズの腕を引き剥がし、零はにやりと笑う。
「ああ。お陰で俺は先へ進める。おまえと、こんな無駄な議論をしなくて済むよ」




