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第六章 惑星エブルー周辺域反撃戦 16

ボルニア帝国総旗艦アルゴノートを巡る罠で主戦場の外に新たに出現した戦場で交戦が開始しされた後出撃した六合(りくごう)、リザーランド、リュトヴィッツ三兵団は、敵味方が戦闘を繰り広げる戦域を避けつつ古代兵器運用艦ギガントスを目指した。敵味方の総勢は、グラディアート五百万体強。


 主力兵団同士のぶつかり合いを尻目に、三兵団の主将格を任された零は呼び掛ける。


「三時間は、クロノス・クロックを使用出来ない。その間に、脅威を取り除く。決死隊にとって、これが最後の試練になる」


「極力、敵との戦闘を避け標的艦撃沈に専念せよ、基本、交戦は零やブレイズとこのエレノアが担当する」


「神の槍クロノス・クロックさえ使用不能に出来れば、こちらは強国ボルニア。この戦は、俺達の勝ちだ。各位、脇目を振るな」


 エレノアやブレイズもそれぞれ標的との接触前の訓示を与え、再び零が継ぐ。


「以降、情報感覚共有(iss)リンクシステム機動」


 戦域を突っ切り、古代兵器運用艦ギガントスの巨影が刻々と迫る。最初は点のような他艦艇と変わらなく見えていたそれが、その巨大さを嫌でも伝えてくる。


 と、そのとき――。


 随伴する大型強襲母艦ラージアタツクキヤリアーから中隊規模の新型グラディアート中隊と二千程度の兵団が出撃。フリーで接近中の三兵団一千五百強に気づいようだ。


 ――あれは――


 その中のアンティックゴールド色のグラディアートを見付け、零は呟くように高速情報伝達に合成音声を乗せる。


【アヴァロン】


【厄介だな。だが――】


 ブレイズが言葉を途切れさせ、新型機中隊が真っ直ぐ向かってきた。二千の兵団はその場に留まり、アヴァロンは下方へと宙を賭けた。


 強敵に懸念が生じ迷いを感じつつも、零は振り切るように方針を伝える。


【味方を誘導する。ブレイズとエレノアであの中隊を頼めるか?】


【気を付けろよ】


【了解したが、くれぐれも注意するんだ。アヴァロンが出てきた。零はその機体だ。交戦は避けろ】


【分かってる】


 ブレイズとエレノアの注意に零は応じ、三兵団に随伴する。


 ブレイズのランスールとエレノアのファブールが、新型多次元機関ディメンシヨン・エンジンを搭載していると目される新型機の中隊へと向かった。


 タンデム式シートの背後のカプセルに収まったエイラが、汎用コミュニケーター・オルタナを通し警告を発する。


【兵団頭上に敵機。アヴァロン】


【目的はこちらか】


 ポップしたホロウィンドに、アンティックゴールド色の機影が映し出された。リュトヴィッツ兵団の頭上から下方へと、琥珀色の閃光が駆け抜けた。ほんの一瞬の交差。だが、その刹那で十二体が撃破された。


 零の中で、戦慄が沸き起こる。


 ――くっ。アヴァロンとファントム・エリーシェ。あの機動。新型機関(エンジン)を搭載していないのに、化け物じみてるな。


 サブリナの高速情報伝達による合成音声が、響き渡る。


【各機、隊列を乱さずギガントスへ】


 再びアヴァロンが向かってきた。それも、殲滅の光弾(アニヒレート)ランチャーを有するグレヴィ分隊へ向かっている。


 その同行に、零はサブリナへ注意を喚起する。


【マークの奴、殲滅の光弾(アニヒレート)ランチャーに気付いた。サブリナ!】


【了解。不味いわね】


 兵団の隊列が組み変わる。グレヴィ分隊を隠すように。


 そうするしかないと思いながら、零の中で焦燥が湧く。


 ――不味いな。一度なら凌げるかも知れないけど。


 ギガントス撃沈に、絶対不可欠な兵装を失うわけには行かない。


 トクン――。


 高鳴った心臓に、零は咄嗟に驚く。


 ――冗談だろう。


 と。そして、苦笑する気配が毫の思考に満ちる。


 ――って、昔の俺なら思うだろうな。敵を見て緊張するなんて、って。こんな大きな戦場に居るせいか、昔のように錯覚しちまった。


 アヴァロンが通過。サブリナが分隊を守るように兵団を配置した為、十体ほど撃破されたが殲滅の光弾(アニヒレート)ランチャーに損害は出なかった。


 高速で、零の思考が回転し始める。


 ――奴を放っておけば、あのデカ物は堕とせない。けど、この装備でマーク・ステラートを阻めるか。


 過去が蘇る。惑星ゴーダを離れてから、追い払っていた過去の亡霊が。


 かつての敵――災厄の姿が朧気に脳裏を掠め、明確な像を結ばぬように少なからぬ苦労を零は要した。根源的な恐怖が、零の奥底から湧き上がる。


 零は、手を見た。震えている。


 ――戦士じゃない俺が、こんな場所に居るだなんて間違いなんだけどな。逃げちまいたい。


 奥歯をギリッと零は噛み締め、アヴァロンを見詰める。


【サブリナ、行け!】


【アヴァロンを相手にするつもり? ゲレイドと人形(プーパ)で? 無謀よ。相手は伝説のグラディアート・アヴァロンに、殲滅姫エリーシェ。零、あなた自分が琥珀色の騎士(アンバーナイト)よりも強いって錯覚してない?】


 戦士の心を捨てた己だ。逃げてしまいたい。嵐が吹きすさぶ心の内奥にサブリナの言葉が染み入り激しさを増すが、しかし次の瞬間、アヴァロンを見詰める零の心は凪いだ。


 ふっと笑む。


【悪い? いいじゃないか錯覚したままで】


 零は白昼夢のような幻を幻視し、一拍置くと続ける。


【最後まで錯覚できたなら、十色の騎士(イクス・コロルム)だって倒せるだろう。何せ錯覚し続けたら最後まで俺の方が強いんだから】


 麗貌に凶悪さがどこかしら漂う笑みを刻み、朧な輪郭をとろうとする敵を零は切り伏せた。


 ゲレイドを零は疾駆させる。

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