第六章 惑星エブルー周辺域反撃戦 14
「良かろう。アルゴノートを囮に使うタイミングは、そちに任せると約束しておった。クロノス・クロック使用のインターバルが知れれば、やりようがある。後はこちらの仕事だ。大義であった」
グラディアート機乗服姿のまま吹き抜けの中空のホロウィンドウに現れたヴァージニアは反撃戦への意欲から覇気に満ち、進言した零は指揮官シートの前に立つモリスの左隣に並び女帝の突き放した物言いに一片氷心の隙の無い身ごなしで姿勢を正す。
「は。ベルジュラック大公には、申し訳ない仕儀となってしまいましたが」
「ふん、心にも無いことを申すな。貴様の心底など見え透いておるわ」
久方ぶりに――一夜を共に過ごしてから初めて伝説級位階のキャバリアーとしての胆力を見せるヴァージニアに、零は内心ほっとしつつも細心さを持って願い出る。
「つきましては、女帝陛下にお願いがございます。我が麾下の決死隊は、三度目の試練として古代兵器運用艦ギガントスの無力化を仰せつかり果たせずじまいでございます。ギガントス攻略に、我が兵団を加えて頂とうございます」
「ふむ。功名の機会が欲しいと申すか? それは神妙なことよの、零。惑星ゴーダから戻るなり、オーガスアイランド号に予を移乗させた手筈といい、ボルニアの臣としての自覚が出て来たのではないか。それなれば、今後のそちの処遇を考えぬでもない」
「今、わたくしが居る場所は戦場でございますれば、今更巡礼の旅に戻りたいなどとは申しませんが、手柄をさほど立てたいとも思いませぬ。それでも、部下に持った懲罰部隊に少しでも希望を与えてやりたいとは思っております。どうか、試練に臨む機会をお与えください」
ヴァージニアから反撃の気迫に霞んでいた己に対する興が垣間見え、零は危ないと用心しつつ怒らせない程度に牽制した。
凜々しく妖艶な美貌を傲岸にするヴァージニアは、煌めく貴石の如き双眸を零のそれに絡めてくる。
「煮え切らぬな。お前は、予の元に戻ってきたのだぞ。ならば、そのように回りくどく考えるな。今後のボルニアでの立身をこそ思え。部下に持ってしまえば、確かに情は移るだろうが。謀反人共と馴れ合うのも問題だ」
「決してそのようなことは。三度敵の矢面に立ち生き延びれば助命される。残るは最後の試練のみ。果たす機会を、この大戦で与えてやりたいだけでございます」
「ふむ。ドゥポンよ、そちの兵団群も古代兵器運用艦ギガントス討伐に加わりたいか?」
神妙に答える零から、ヴァージニアはモリスへと視線を移す。
「は。是非とも、栄誉を得る機会を頂きとうございます。麗しき女帝陛下」
「良かろう。爺、ドゥポン兵団群を古代兵器運用艦ギガントス討伐の戦力に組み入れよ」
丁寧に頭を下げるモリスにヴァージニアは、傍らの老人に命じる。
「承知致しました。ドゥポン兵団群を積極的に用いることを前提に、策を講じまする」
老宰相ブノアは熱のないやや疲れたようなそれでいて聞きやすい声で答え、ヴァージニアは頷くと再びモリスへと視線を戻す。
「六合兵団の使いどころは、モリス、貴様に任せる」
「御意」
「宜しい」
一つ頷くと、ヴァージニアの赤い双眸はモリスを挟んで零の反対側に立つエレノアへと向かう。
「エレノアよ、惑星フォトー、惑星レーンと手柄をそちは立ててきた。十分に予に対する忠誠は示された。此度でそれを不動のものとせよ」
「は。肝に銘じまして」
胸に拳を当て最敬礼するエレノアに満足げな顔をすると、ヴァージニアはエレノアの右隣に立つブレイズへ視線を走らせる。
「リュトヴィッツ、国境惑星ファルから始まりエレノア同様惑星フォトー、惑星レーンと卿も手柄を立て続けた。更なる武勲を上げよ。それなりの座を用意してやる」
「ありがたき幸せ」
感極まってその場に跪くブレイズに苦笑すると、ヴァージニアは一段と声を張る。
「では、各位、ギガントス討伐に備えよ」
「は」
重戦艦ポトホリの艦橋エリア総合指揮所・発令所に参集する総員の声が、一つに重なり唱和した。




