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第六章 惑星エブルー周辺域反撃戦 13

 宮殿の一角を連想させる貴族趣味が強いベルジュラック大公旗艦オンフィーアの艦橋エリアと比べると、一般的なショッピングモールを連想させるドゥポン兵団群旗艦ポトホリの艦橋エリアは機能美に満ちていた。それぞれキャバリアー用とファントム用のグラディアート機乗服を纏った零、モリス、エレノア、ブレイズ、カーライト、マーキュリーと兵団群の主立った兵団長等は、ベルジュラック大公国領邦軍・西方鎮守府軍連合軍が古代兵器運用艦ギガントスを攻略する様子を総合指揮所・発令所のマルチファンクションテーブルとなった総合指揮卓に座り、吹き抜けを覆うように半球状に投影されたホログラムスクリーンでその推移を見守っていた。


 零の左隣に座すエレノアが、艶やかな薄紅色の唇からメゾソプラノを紡ぎ出す。


「ベルジュラック大公は出し抜かれたか。一方的に味方が殲滅させられる様を見ずに済んだのは、幸いだが」


「当然だな。これで仕留められるようなら、苦労なんてしやしないさ。やはり、結社の九鼎(きゆうてい)には琥珀色の騎士(アンバーナイト)様が張り付いていたな」


 口調に億劫そうな様子を滲ませ頷く零に、モリスはおどけるように呆れて見せる。


「いやはや、クロノス・クロックにあんな使い方があったとはね。使ってくることは分かっていたが、意表を突かれたよ」


「時を止める古代兵器を発動させたまま敵中を突っ切るなんて、反則ってもんですよ。普通。あんな超現象を生み出す兵器を使ってたら、動けないって思うもんでしょう。使うだけで、あんな馬鹿げた図体の艦艇を用意しなけりゃならなかったんですから」


 同意するブレイズは、冗談じゃないとばかりに捲し立てた。


 古代兵器運用艦ギガントスが駆け抜け、神の槍クロノス・クロックの影響範囲から抜け出した途端、ベルジュラック大公国領邦軍・西方鎮守府軍連合艦隊が急激に陣形を変えた。


 半球状のホログラムスクリーンに重なり戦術情報を映し出すホロウィンドウに表示された敵味方を表す赤青の輝点の動きに、ブレイズは何を想像したのか口調に恐ろしげなものを混じらせる。


「ベルジュラック大公、ありゃ、相当頭に血が上ってますね。神の槍にまんまと囚われ恥を掻かされた。もう、進発してる。なりふり構ってませんね。怒り心頭って感じで」


 順次、小艦隊の纏まりごとに古代兵器運用艦ギガントスを、ベルジュラック大公国領邦軍・西方鎮守府軍連合艦隊は追い始めた。その様は首を縮める様子を見せたブレイズの推察を物語るように、ジョルジュから発破を掛けられた麾下の焦りのようなものが伝わるものだった。


 痛烈な様子で口を開くエレノアは、手厳しく指摘する。


「なし崩し的に追撃するつもりか。闇雲に突っ込んで神の槍を使われたら、取り返しのつかない損害が出かねないぞ」


 横目で武将としてジョルジュを批判するエレノアにちらりと視線を走らせつつ、零は落ち着き払って口を開く。


「いや、あれが正しい、というより、あれでいい。俺でもそうする」


「公に零君が希望する意図があるとは思えないが、確かにああして貰えなければ意味が無い」


 茶色い双眸に理解を浮かべるモリスに、エレノアはあのジョルジュの行動の先に何があるか思い当たった様子だ。


「なるほど。ギガントスを丸裸にするという奴か」


「ああ。今、古代兵器運用艦で判明したのは、クロノス・クロックの影響範囲(レンジ)。駐泊中も航行中も範囲に変動はなかった。恐らく、影響範囲(レンジ)の調整は出来ないと見るべきだな」


「んでもって、このままベルジュラック大公が怒り心頭で追撃してくれれば、クロノス・クロックを連続使用できるか判明する。なりふり構わず攻め掛かれば、数でベルジュラック大公麾下の大公国領邦軍・西方鎮守府軍連合軍は圧倒している。使えるなら、使う筈だ」


 そもそもジョルジュを焚き付けた目的を具体的にする零の後をブレイズが継ぎ、エレノアも古代兵器運用艦ギガントス攻略を具体的に思い描いたようだ。


「連続使用出来ないとしても、あの琥珀色の騎士(アンバーナイト)マーク・ステラートが守っている。援軍を呼び込むまで、持ち堪える可能性が高い。膠着し、インターバルを終えれば再びクロノス・クロックを使用してくる。そうすれば、こちらに必要な情報が揃う、か」


 零達がベルジュラック大公旗艦へ注意を払う中、鈴のように涼やかな声が響く。


「古代兵器運用艦ギガントス及び随伴の大型強襲母艦ラージアタツクキヤリアーが停止したようね」


「おっと、集結を待たずにベルジュラック大公国領邦軍・西方鎮守府軍連合軍は戦端を開いたか」


 マーキュリーの喚起に吹き抜け下方に浮かぶ球形の戦域図の古代兵器運用艦ギガントスを示すマーカーへ視線を走らせたモリスは、その近くの小さな赤いマーカーと味方の青いマーカーが明滅を始めた様に、やや高めのわざとらしさのある声を幾分緊張させた。


 遠方の戦域とのデータリンクで送られてくる映像情報を兵団群旗艦ポトホリのAI(マザー)が選別統合し、下方の戦域図から線が空中へ伸びそこへ新たなホロウィンドウがポップし古代兵器運用艦及び大型強襲母艦ラージアタツクキヤリアーとベルジュラック大公国領邦軍・西方鎮守府軍連合軍との戦闘が映し出された。味方小艦隊からグラディアートが出撃し、標的に随伴する大型強襲母艦ラージアタツクキヤリアーからも迎撃にグラディアートが出撃して行く。そのそばからベルジュラック大公麾下の兵団群の小艦隊は続々と到着し、戦力の逐次投入の愚を無視し順次グラディアートを出撃させ時間経過と共に戦闘は激しさを増していった。


 首を振るようにカーライトが、そのなりふり構わぬ様子にやや口調を呆れさせる。


「もし、クロノス・クロックを連続使用出来れば、ベルジュラック大公連合軍兵団群は、壊滅しかねませんね。是が非でも、ベルジュラック大公は勝負を決したいようで」


 矜持を傷つけられたジョルジュの怒りが、麾下の殺気だった様子で伝わってきた。


 ARデスクトップを弄っていたマーキュリーが、はっとなった様子で他者から不可視なAR情報を見詰める双眸が鋭さを増す。


「あの古代兵器運用艦が逃げ込んだ戦域は……」


「周辺に、ボーア・エクエスの軍団群が居るわ。伝説級キャバリアー、ボーア・エクエス副司令マティアス・ファン・シェインデルの直卒軍団群」


 ポトホリのAI(マザー)と汎用コミュニケーター・オルタナを通しマーキュリー同様情報解析を行っていたカーライトがはっとなった様で告げ、舌打ちする零は甚だ遺憾そうだ。


「マークの奴、抜かりがないな。もし、連続使用出来ないなら、力尽くで沈めて貰えれば楽だったのに。ベルジュラック大公の俺への覚えも、悪くなく終わるんだがな。そうはいかないらしい」


「そのくらい、考えるだろう。あのデカ物はトルキア帝国にとっても虎の子の筈だから、結社が関与している事を差し引いても、全力で守る筈だ。それにあいつを決死隊も加わって沈めないと、後から難癖を付けられて付け込まれるだけだぜ。楽することばかり考えないことだ」


 何を今更といった様子のブレイズは、零に立場を忠告した。


 ――そんなこと分かっている。三度目の試練を乗り越えなければ、決死隊は次こそは殺される。


 吹き抜けの下方に浮かぶ球形の戦略図にベルジュラック大公旗艦オンフィーアが戦場に到着する様を零が睨んだとき、ボーア・エクエスのアップルグリーン色をした超重量級のフォルネルが十軍団向かい、オクシデント・エクエスの長春色のケルビムが迎撃に現在ジョルジュの麾下にある敵とほぼ同数が出撃し迎撃した。


 吹き抜けにホロウィンドウがポップするのと同時、マーキュリーの声が響く。


「アヴァロン率いる中隊の戦果が突出しているわ」


「ま、そうだろうな。何しろ十色の騎士(イクス・コロルム)が率いているんだから」


「いいえ、中隊が使用するグラディアートがパルパティアを圧倒しているわ。ボルニア帝国のデータベースにはない。結社の機体かしら。恐らく、一年前公開された新型次元機関ディメンシヨン・エンジンのベーシックオープンソースを元にしたエンジンを搭載した新型よ。それまで一つの次元から得ていたエネルギーの供給ラインを一つ増やした。デュアル・ディメンション機関」


 憮然としたブレイズの言葉を否定するカーライトの推測に、エレノアの声音に驚愕の響きが混じる。


「もう、実戦投入に漕ぎ着けたのか? 主要メーカーから、試験的にほぼベーシックオープンソースそのままの機関を積んだエントリーモデルが販売され始めたばかりだっていうのに。ボルニアも、まだ手探り状態だ」


 アンティックゴールド色の琥珀色の騎士(アンバーナイト)マーク・ステラートが駆るアヴァロンに率いられたアッシュグレー色をした機体をルナ=マリーなりヘザーが見れば、あの遺跡を襲撃したグラディアートと色こそ違え同型機であると断じたことだろう。各アーマーのエッジの合わせが立体感のある、先鋭な結社アポストルスの新型だ。それが、数で勝るボルニア帝国主力グラディアート・パルパティアを圧するように、戦場を我が物顔で駆け抜けていた。


 幾分鼻白みながらモリスが、ウィンドウに繰り広げられる勇者かくあらんといった映像を振り切るように口を開く。


「とはいえ、押しているね。ベルジュラック大公自身は麾下のオクシデント・エクエスと共にボーア・エクエス軍団群を後方で押さえ込み、古代兵器運用艦攻略に他の味方を送り出している」


「すぐに、クロノス・クロックを使ってきませんでしたからね。好機(チヤンス)と捉えたんでしょう」


 頷くブレイズは、そう言いながらも戦況を見る目は懐疑的だった。


 三時間経過。古代兵器運用艦ギガントス駐泊エリアに到着していたポトホリの前面で、淡い光が走り抜けた。戦場の時が止まる。


 シートに預けていた身を起こすと、零はマーキュリーとカーライトに視線を送る。


「使ったか。三時間七分で、間違いないな」


「凄い、正確ね。零」


「三時間六分三十八秒。これが、古代兵器運用艦ギガントスがクロノス・クロックを連続使用するインターバルとみて間違いないわ」


 感心するマーキュリーの後をカーライトが継ぎ、零は架空頭脳空間(オルタナ・スペース)で多重クロックを調整すると念押しする。


「よし。各位、今の発動時間から次の発動時間を覚えておいてくれよ」


 その後、ベルジュラック大公国領邦軍・西方鎮守府軍連合軍兵団群は三割の損失を被り、先ほどと同様古代兵器運用艦ギガントスとその随伴艦は戦場を後にした。

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