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第六章 惑星エブルー周辺域反撃戦 8

 吹き抜けを半球状に覆うホログラムスクリーンに視線を送り背を向け指揮官シートに座すモリスの後ろ姿を眺めつつ、零は総合指揮卓のマルチファンクションテーブルを囲む面々をざっと見渡した。零の左側にはエレノアが右側にはブレイズが座り、その右隣二席にマーキュリーとカーライトが座していた。他には、兵団長が十一名。零の僚友といっていいエレノアやブレイズに契約ファントムのカーライトやマーキュリーと違って、兵団群の行動計画を一応はモリスから聞いても皆怪訝そうな表情をしていた。


 半球状の外部を映し出すホログラムスクリーンと重なり大きなホロウィンドウが正面にポップし、臙脂色を基調とし虹金をあしらった豪華な戦闘礼装を纏ったベルジュラック大公ジョルジュの威圧的な顔が映し出される。


「何用だ、モリス? わざわざこの混戦の中を突っ切って来るとは、余程のことなのであろうな。貴様と麾下の兵団群は、現在我が指揮下にあらず。惑星フォトー、惑星レーン攻略時の分遣群は既に解体されている」


「心得ております、閣下。ですが、閣下に相談したき議は女帝軍全軍に関わることなれば、指揮下云々を言っている場合ではないと愚考した次第」


 丁寧に頭を下げるモリスに、ジョルジュの口調は辛辣なものとなる。


「ふむ。卿の言いたいことは、そこの巡礼者が破壊に失敗した古代兵器運用艦のことだな。みすみす、神の槍の猛威を振るわれてしまったわ」


 零へと視線を送るジョルジュの嘲笑に、零はしれっと胸に手を添え丁寧に頭を下げる。


「恐れ入ります、ベルジュラック大公」


「何だ、その態度は。貴様と麾下の決死隊が惑星ゴーダの任務で失敗したばかりに、女帝軍は出血を強いられておるのだぞ」


 それまで獲物を弄ぶ雰囲気を宿していたジョルジュの激発に、ことの経緯を知っているエレノアが零の弁護をする。


「恐れながら、惑星ゴーダでの任務失敗は、そもそもの破壊対象である古代兵器運用艦がその場に無かった為。在ったのは、ダミー。本物は、試射の後当該恒星系を離れていました。六合兵団は、命じられた任務を果たしたまで。任務失敗の原因は女帝軍の情報不足にあり、六合兵団長に責任を問うのは筋が違うかと」


「言い訳など、何とでも言えるわ。古代兵器運用艦がこの惑星エブルー周辺域にあるのは、そこの腑抜けが失敗したからに決まっておろう」


 一喝するジョルジュに、機嫌を取り繕うようにブレイズが恐縮気味に応じる。


「俺達は、まんまとトルキア帝国・ミラト王国連合軍に填められたわけでして、ことさらミラト王国軍が集結をしていたのも、女帝軍の目をそちらへ向けさせる為。本命は、前皇帝派貴族軍と合流を果たそうと見せかけていたトルキア帝国軍による奇襲」


「捕囚から聞き出しましたところ、情報が流れるようにクロノス・クロックの試射を行ったのも、女帝軍を罠に填める為だったようです。敵の思惑どおり、女帝軍は惑星ゴーダにある古代兵器運用艦に対処した。ここ惑星エブルーから惑星ゴーダとの距離も勘案し、惑星ゴーダの標的がダミー艦と知れたときには既にトルキア帝国軍により女帝軍が奇襲を受け手遅れとなるように。前皇帝派貴族が集結している公星リールに隣接する恒星系の恒星系内移動リングゲート管理者と、惑星エブルー周辺域の恒星系内移動リングゲート管理者を結社アポストルスが買収し、恒星系外の本来繋ぐことのない遙か遠方にあるゲート同士を結び、対峙していたオルデン・エクエスに追撃されることなくトルキア帝国軍は突如ゲートからこの周辺域に現れ女帝軍を奇襲した」


「うーむ」


 このとき初めてことの成り行きを知ったジョルジュは、軽く唸った。


 無理もないと零は思う。不幸な出会いから、ジョルジュとは犬猿の仲の零だったが、よくもまぁ、他国の領土にあってそこまでの策が仕掛けられる。これも、神代から連綿と存在する結社アポストルスが銀河に張り巡らせ続けた、ネットワークのなせる技だろう。十二国時代に封じられた古代兵器まで復活させ、到底予測不可能な周到な策に填まってしまったのだから。


「遅ればせながら敵の目論見を知ったわたくしめは、トルキア帝国軍により奇襲をボルニア帝国軍が受けた戦場に到着し、女帝陛下に当座の身の安全を図って頂きました。そもそも、結社アポストルスが古代兵器を使用するのも、女帝陛下の御身を狙ってのこと。現在、陛下は総旗艦アルゴノートには無く、補給船団があるエリアの恒星貨物船オーガスアイランド号にあり、そこより我が軍の指揮を執っておられます。惑星ゴーダでの任務失敗のせめてもの穴埋めに、帝国の為わたくしに尽くせることをした次第」


 へりくだってみせる零に、ジョルジュは満更でもなさそうだ。


「殊勝な物言いではないか。始めから、そうしておればいいのだ。不忠な物言いをしおって」


 七道教アークビショップたるルナ=マリー自身の急使で、結社がヴァージニアの身を狙っていることは知れている。正確には、ヴァージニアに生体刻印された世界の門の封印の証を。そして、この大軍がぶつかり合う中、皇帝を失えばどうなるか。女帝軍は瓦解してしまう。ジョルジュの態度は、帝国軍の一端に身を置く者として今すべき最良を零が成したからでもある。根っからの武人であるジョルジュは、何が重要かは当然知っているのだ。


 ジョルジュの様子を見定め、零は口調をやや感傷じみさせる。


「それにしても、先日映像で古代兵器運用艦ギガントスによって神の槍クロノス・クロックが振るわれる様を見たとはいえ、こうして使われると現実味がないものでございます」


「現在、常世たる我らが世界に存在するインテリジェンスビーングは、オーディナリー、スーパー、ウルトラの三種。だが、今でも創造世界(ミユートロギア)にはそれを越えるハイパー級やメガ級が存在する。だからこそ、その化け物共が治めた神代の兵器――神の槍なのだ。その威力は、伝説の如く伝わるのみ」


 普段零に接するより幾分柔らかな雰囲気のジョルジュに、零の口調は悲嘆めく。


「あんな物を使われては、いかな精強無比なボルニア帝国軍とはいえどうにもなりますまい」


「ふん。戦いもせぬうちに。相も変わらず、怯懦なことよの」


 途端ジョルジュは精強さを纏い、再び侮蔑の混じった視線を受けながら零は首を振る。


「そう仰られますが、あんな物をどうにか出来る者など我が軍にはおりますまい」


「貴様、帝国を愚弄するか。帝国に人無き、だと」


 錆色の双眸に瞋恚を宿し睨め付けるジョルジュに、零は痛切さを滲ませる。


「しかし、誰があのような脅威に挑もうというのです? わたくしでは、とてもあのような物と戦う己など想像もできませぬ」


「俺の戦いをよく見ておくことだ。そして、刻め。貴様の世界などいかに狭いかを、な。貴様に、英雄の戦いが如何様なものか見せてやろうではないか。恒星貨物船オーガスアイランド号におられる女帝陛下に繋げ」


 AI(マザー)サポート通信担当官に、ジョルジュは命じた。

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