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第六章 惑星エブルー周辺域反撃戦 8

 既にボルニア帝国・トルキア帝国双方のグラディアートが出撃しての敵味方入り乱れる混戦が開始されてから、三時間が経過していた。零率いる六合兵団は、初戦で味方の兵団の救援を行った後は、大小の敵兵団と味方と共闘しながら連戦した。


 麾下兵団の損失は、グラディアート二十二体。戦闘回数を考慮すれば、これは僅かな損耗と言えた。零の指揮が優れていたことと兵団の陣頭指揮を執るサブリナの実力、そして、大隊長に第一エクエス相当のキャバリアーを擁していたからこそ通常の主力兵団に対して優位だった為だ。戦闘続行不可能に陥ったグラディアートに搭乗していたキャバリアーは、機体共々回収型機械兵(マキナミレス)ユニットによって救助された。グラディアートのカプセルとなったコクピットブロックはハイアダマンタイン製で、破壊することが困難なことから勝者の捕虜になることはあってもグラディアート戦による戦死者はなかなか出ないのだ。


 今も六合兵団は三百と二百の敵二兵団と交戦し、少数兵団をグレヴィ分隊と共に零の小隊が拘束、その間数とキャバリアーの優位を活かしサブリナが三百の兵団を楽々と蹴散らしつつあった。


 と、そのとき――。


 俄に、広大な戦場の一角に淡い光が走り抜けた。それを、零は以前総旗艦アルゴノートの艦橋エリアで見たことがあった。惑星ゴーダから届いた、戦闘映像として。戦場の一角に広がった光は、別世界から導かれた力。神の槍、クロノス・クロックが振るわれたのだ。


 焦燥めいた声を情報感覚共有(iss)リンクシステムを介さず、零は直接発する。


「アルゴノートは! 何の策も仕掛けぬ内に、虎の子を見破られたら意味が無い」


【総旗艦アルゴノートは、座標X=一二六、Y=〇二二、Z=三二五にあり、未解明現象範囲外の周辺域にて健在】


 零の周囲を半球状に覆う球面モニタの上にホロウィンドウが現れると、クロノス・クロック推定効果範囲とアルゴノートの現在位置が表示され、エイラが答えた。


 推定効果範囲近くの戦闘艦やグラディアートのセンサが捉えたデータリンクを通して中継共有される映像を、エイラとゲレイドが抽出し続けて表示してきた。その場は、異変に満ちていた。全てが停止している。ボルニア帝国軍・トルキア帝国軍共々、その推定効果範囲の軍勢が時を止めていた。加速の為汎用亜光速推進機関の燐光を散らした複数の戦闘艦にグラディアートは、不自然にその場に留まっていた。


 そのクロノス・クロックによって時間の静止した推定効果範囲内へ、神の槍の一撃の影響を受けぬ敵グラディアート群が襲い掛かった。惑星ゴーダ周辺域で起こったここと同じだ。何らかの方法でクロノス・クロックの影響を排除した敵グラディアート群が一方的に時を止めたボルニア帝国軍を蹂躙して行く。だが、映し出された映像から分かるように、神の許しを得たトルキア帝国軍は全軍ではないようで、推定効果範囲内では敵味が方等しく時を止めている。


 双方一億体を越えるグラディアート戦にあっては戦端が開かれたばかりの混戦の最中、まだ早いかと時機を図っていたが零だったが行動を起こすことに決める。


【エイラ、ドゥポン兵団群長を】


 自小隊が敵兵団と戦うサポートを零はこなし、丁度オルタンスと共にバルチアンがセルビンを仕留め生じた隙を狙った敵機を屠ったとき、モリスの爽やかだが目元に暗鬱さがある顔がポップしたホロウィンドウに映し出される。


「とうとう、クロノス・クロックを使われてしまったね?」


 兵団群旗艦ポトホリの発令所に居るらしいモリスは水色とアンバーローズ色のグラディアート機乗服を纏い顔を見るなりそう切り出し、本題に入りやすいモリスの対応に少し喜びつつ零は応じる。


「ああ、けれどこれであれが万能でないことが知れた。使用に問題が無ければ、端からボルニア帝国軍殲滅に使っている」


「だろうね。で、どうする?」


 同意見らしいモリスに先を促され、零は考えていた案を口にする。


「作戦を実行しよう。ドゥポン兵団群は、戦闘中断。当該中域から引き上げ、ベルジュラック大公旗艦オンフィーアへ向かって欲しい」


「ベルジュラック大公に? 公に協力を仰ぐのかい?」


「焚き付けようと思って。今から、古代兵器運用艦ギガントスの性能を裸にする。弱点が分かれば、十分攻略可能だ」


「分かった。零君、ポトホリに来てくれるか」


「ああ、そのつもりだ。エレノアとブレイズも。それと、兵団群で主だった兵団長も」


「了解した」


 零は、架空頭脳空間(オルタナ・スペース)で兵団撤収の細かなプロットを作り兵団員で共有し、サブリナに呼び掛ける。


【サブリナ、撤退だ。古代兵器運用艦ギガントス撃沈に動くぞ】


【いよいよね。惑星ゴーダでは仕留め損ねたから、これがわたしたちの三度目の試練っていうわけね】

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