第96話 新たな魔法
バリス村を出発して数十分後、
現在、俺はファリス森林に向け疾走中だ。
肩にシングを担ぎながら。
「ちょっと!兄ちゃん早すぎんよぉぉぉおおおお!!
少しは加減してくれよぉおおお!」
「シング、あまり暴れるな。落としてしまっても知らんぞ。
それと、ちゃんと加減はしている」
そう、さすがに俺も子供相手に全力で走ったりはしない。
俺が今走っている速さは、丁度以前にリサを抱っこして走った時と同程度だ。
それなのにこんなに騒ぐとは、だらしないぞシング君。
俺がそうシングに話してやると、
「俺が普通なんだよ兄ちゃん!
そのリサって女の人がおかしいんだよぉぉおおおお!」
その後もシングはファリス森林に着くまで叫び続けていた。
まったく、この調子でグロースラビッツなんて倒せるのかねぇ。
「ほら、ファリス森林に着いたぞ」
そう言い、肩に担いでいるシングを地面に下ろす。
するとシングは何かに安堵したかのように、
「あ、ああ。やっと着いた……」
「シング、安心したところ悪いが、さっさと進むぞ。
なるべくなら夜までにグロースラビッツを仕留めたいからな」
俺がグロースラビッツと口に出すと、
さっきまで魂が抜けていたような表情をしていたシングが、いきなりやる気に満ち、キリッとした表情に変わる。
「うん、行こう兄ちゃん!」
そうして俺とシングは森の中に入っていく。
すると、森に入ってすぐの道で
「シング、魔物だ止まれ」
「うん、二匹、いや三匹いるね」
ほう、シングも気づいていたか。
さすがにスキルで気配察知を持っているだけの事はある。
しかし、こいつはいい機会だ。
「シング、こいつらとはお前が戦ってみろ。
グロースラビッツと戦う前の準備運動くらいにはなるだろう」
そう、俺は実際にシングが戦うところを見たことがない。
ここらで一回自分の目で見ておいた方がいいだろう。
俺の発言を聞いてシングはニヤリと笑い、
「はっこんな魔物じゃ準備運動にもならないよ兄ちゃん!」
そう言いシングは腰にある剣を抜刀する。
それと同時に草むらからラビッツが三匹現れシングに襲い掛かる。
「いくぞ、はっ!」
3匹のラビッツはほぼ同時に襲ってきたが、シングは落ち着いていた。
まず正面から向かってきたラビッツを袈裟切りの様に斜めに斬りおとす。
次に、二匹目と三匹目のラビッツが左右からシングを挟み撃ちのように攻撃しようとするが、シングは落ち着いて一歩後ろに下がる。
そして攻撃後の隙を見逃すことなく、一匹をさっきと同じように袈裟切りで倒し、もう一匹をそのままの体制から切り上げで止めを刺す。
これは、凄いな……
剣の使い方が恐ろしく滑らかで上手く、それでいて剣速もかなりの速さ。
普段剣を使っていない俺でも分かる、おそらく異世界でみたどの剣士よりも、シングは剣の扱いが上手い。
まぁ、欠点がないわけでもないがな。
そんな事を考えていると、戦いを終えたシングがこちらに向かってくる。
「ねぇねぇ兄ちゃん!俺の戦いどうだった!?」
そう俺に質問してくる。
くく、こういうところは本当に子供のようだな。
「ああ、いい戦いだった。
正直想像以上だ。やるなシング」
そうして軽くシングの頭を撫でてやる。
するとシングは少し恥ずかしそうにしながらも、表情は笑顔だった。
「よし、シングの実力も確認できたことだし、先に進むか」
「うん、分かった!」
俺とシングはさらに森の奥へと進んでいく。
それから数分後、
再び魔物の気配を感じる俺とシング。
今度は、5匹か。
「また魔物だ、今度は5匹も」
そう言いシングは腰の刀を抜こうとする。
それを見た俺は、
「シング、今回は俺がやろう。
丁度、そろそろ準備運動をしておこうと思っていたところだ」
そう言いアイテムボックスからデーモンリッパーを取り出す。
それを見たシングは刀を抜くのをやめ、
「おお、やっと兄ちゃんの戦いが見れる!」
「俺の戦いか。見えるといいな」
デーモンリッパーを手に持ち、
丁度5匹が待ち構えているだろう場所の真ん中に移動する。
すると待ち構えていたラビッツ5匹が一斉に俺に襲い掛かってきた。
それを見たシングは少し焦りながら、
「兄ちゃん!」
「心配はいらん。もう、戦いは終わっている」
そう言った次の瞬間、
俺に襲い掛かろうとしていた5匹のラビッツは、首から血を噴出し、そのまま地面に倒れる。それですべて終わっていた。
「……え、え??」
どうやらシングには何が起こったか分かっていないようだ。
ふむ、これはまだ見えなかったか。
その後、少しの間呆然としていたシングだが、
気を取り直したのか、俺に質問をぶつけてきた。
「兄ちゃん、今、いつの間に攻撃を?もしかして、魔法とか?」
「たしかに俺は魔法も使えるが、今回は違う。
ただ単純に、少しだけ本気で動いた。それだけだ」
そう、今回俺が行った行動は、シングが見えないスピードで一匹づつ仕留めていった。それだけの話だ。
それを聞いたシングはさっきよりさらに驚いていたようだが、すぐに興奮した感じで話し出す。
「すげえ、すげえよ兄ちゃん!!ストレングスも使ってないってのにあんな速さで動くなんて!」
……んん?
何か知らない言葉が出てきたな。
ストレングスってなんですかね。
「シング、ストレングスってのは何か教えて貰ってもいいか?」
俺がそう聞くと少し意外そうに、
「兄ちゃん魔法が使えるのにストレングス知らねえのか。
いいよ、教えてやるよ!
ストレングスってのは身体強化魔法の一種さ!」
ほう、身体強化魔法……
中々興味深い話じゃないですか。
よし、試してみるか。
「【ストレングス】」
すると、無事魔法が発動したようで一瞬体が少し光る。
それを見ていたシングは、
「おお、兄ちゃんいきなり成功ってすげぇな!
普通は取得に数か月かかるもんだって父ちゃんが言ってたぞ!」
シングの話から察するに、無事成功のようだ。
たしかに、さっきよりかなり体が軽くなったような気がする。
気になったのステータスを見てみると、力や体力などの能力がすべて1割程増えていた。こいつはかなり強力な魔法だな。
「シング、いい魔法を教えてもらった、感謝する」
「へへ、いいって事よ!」
その後、ストレングスを一旦解除し、俺とシングは森の奥へと進んでいった。
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