第89話 勘
さて、用事も済んだことだしそろそろジニアに帰るとするかな。
そう思いジニアに向け歩き出す。
それから数分後、ジニアに到着。
早速扉を開けて中に入っていく。すると、
「あ、ほらお母さん! やっぱりユーマさん帰ってきた!」
「ほ、本当にたったの一日で帰ってくるとはね。やっぱりユーマは色々とおかしいねぇ……」
俺が扉を開け中に入っていくと、そんな会話が聞こえてきた。どうやらサリーとサリアさんが俺について何か話していたようだ。それにしても一体何の話をしていたのだうか。
気になったので二人に何を話していたのか聞いてみると、
「簡単に説明すると、まずいきなりこの子が、ユーマさんがもう少しで帰ってくるって言いだしてね。なんでいきなりそんな事思ったのか聞いてみると、ただの勘だっていうじゃないか」
なるほど、勘ね……
その後もサリアさんの話は続き、
「まぁ昔からこの子の勘はよく当たるんだけど、ゴレイ山脈まで行ってたったの一日で帰ってくるなんてのはさすがに信じられなくてさ」
「そうなんですよユーマさん! お母さんったら中々信じてくれなくて!」
ふむ、まぁサリアさんの反応が正解なんだろうな。
普通は信じられないだろう。
「それで少し口論になりかけたんだけど、その矢先にユーマが帰ってきてね。まったく、本当に一日でゴレイ山脈から帰ってくるなんて今でも信じられないよ」
サリアさんが少し呆れたように言った。
そしてサリーよ。自分の勘が当たって嬉しいのは分かるんだが、母親に向かって全力のどや顔はどうなんだ? まぁその顔も可愛いんだけどさ。
そんなサリーの顔を見てサリアさんが、
「ふふ、これも女の勘ってやつなのかね。それとも、愛の力ってやつかね?」
サリアさんがサリーにニヤニヤしながら告げた。
するとドヤ顔していたサリーの顔を一変、顔色は一気に真っ赤となり、表情は羞恥心と若干の怒りが混ざり合ったような顔になっている。
「おおお、お母さん何いってるの!! ああ、愛なんてそんな!」
「ふふ、母親に向かってあんな顔するからだよ。さて、じゃああたしは夕飯の準備に戻るとするよ。後は若いお二人でごゆっくり」
そう言い残しサリアさんはニヤニヤしながら厨房に戻っていった。
残されたのは俺と、顔を真っ赤にして俯いているサリーだけ。
ふむ、こういう時なんて声をかけたらいいんだろうな。そんな事を考えているうちに、この空気に我慢しきれなくなったのかサリーが先に口を開き、
「そ、それじゃ私も夕飯の準備に戻りますね! ユーマさんまた夕飯の時間に!」
「ああ、準備頑張ってな。夕飯楽しみに待ってるよ」
そうしてサリーは逃げるように厨房の方に走っていった。と思いきや、途中で振り返りこちらに戻ってくる。何か言い忘れたことでもあったのかと思い聞いてみると、
「はい、お母さんのせいですっかり言い忘れちゃってました」
そして俺の目の前までやってきたサリーは、顔を赤くしたまま笑顔で言った。
「ユーマさんお帰りなさい! 無事に帰ってきてくれて凄い嬉しいです!」
はは、なるほどな。
これを言うためだけに、恥ずかしいのを我慢して戻ってきたのか。まったく、サリーらしいな。
さて、せっかくサリーが恥ずかしいのを我慢して言いにきてくれたんだ。俺も何か言わないとな。まぁお帰りなさいなんて言われたら、返す言葉はこれしかないだろう。
「ああ、ただいまサリー」
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あれから数時間後、
俺は自分の部屋に戻り夕食の時間までのんびり過ごしていた。
今はベッドに横になりながらステータスの確認をしている最中だ。しかし、
「うーむ、さすがにあんな雑魚ばっかだとlevelも上がってないなぁ」
まぁ仕方ないな。今回の護衛依頼は運のいい事に魔物とほとんと遭遇する事がなかった。倒した魔物といえば最初に遭遇したゴブリン二匹とゴレム三匹くらいのもんだ。さすがにこれでlevelは上がらないわな。
「うむ、やっぱりlevel上げにはゴールデンラビッツが最適か。そうなるとまた明日からしばらくはゴルド森林に籠る日々になりそうだ」
まぁlevel上げは楽しいからいいんだけどな。
その後、数十分何もせず過ごし、ふと外を見てみると日が沈むのが見えた。
そろそろ夕食の時間だな。そう思いベッドから体を起こし部屋を出て食堂へと向かう。そして食堂に着くといつもの俺を呼ぶ声が、
「お! 本当に帰ってきてるじゃねえか! おいユーマこっちだー」
「アニキー、こっちっすよー」
……ん?
今、イグル以外の声が聞こえたような。
しかも、最近よく聞いている声が。
俺は声の正体を確かめるため、急いでイグルの元へと向かう。すると、俺の予想通りの姿がそこにはあった。
「お前、本当にここにきたんだなマルブタ」
「はい! アニキに誘われたとあっちゃ来ないわけにはいかないっすよ!」
ふむ、俺の記憶が正しければマルブタを誘ったのは俺じゃなくてサリーだったはずだが。まぁいいか。サリーも客が一人増えて喜んでいるだろう。
「そういやアニキ聞いたっすよ。護衛依頼でゴレイ山脈まで行ったって! しかもたった一日で帰ってくるなんて本当にアニキは凄いっす! 最高っす! 化け物っす!」
おいマルブタ、化け物はやめろ。
「しかしユーマよ、一日で帰ってきたって事はアレやったんだろ? サリーちゃんの友達の、リサって子は大丈夫だったのかよ?」
「ああ、まったく問題なさそうだったぞ。走っている最中に普通に話かけてきたからな。むしろ楽しんでいたような気がする」
それを聞いたイグルとマルブタは顔を引きつらせながら言った。
「まじかよ、すげぇな……」
「そうっすね。女性でアレを楽しむって相当ですよ……」
ふむ、たしかにリサは根性あったな。
それ以外の原因だと、運び方の違いなどもあるのだろうか。リサは丁寧にお姫様抱っこで運んだが、こいつらは適当に担いで走っただけだ。もしかしたらイグルやマルブタもお姫様抱っこしたら大丈夫なんじゃないか、そんな事を考えた次の瞬間、俺を急激な寒気が襲った。
だめだ、これ以上考えてはいけない。
俺はなんておぞましい姿を想像してしまったんだ……
「おいユーマどうした? いきなり顔が青ざめたが」
「あ、ああ……俺なら大丈夫だ。少し休めば元に戻るさ」
「アニキ! 本当に大丈夫っすか!?」
「あ、ああ……大丈夫だ。それと心配してくれるのはありがたいが少し顔が近いぞマルブタ君」
俺がそういうとマルブタは素直に顔を引っ込めてくれた。有りがたい。今の精神状況でマルブタの顔が至近距離にあったら、ついついグーパンしてしまうかもしれない。
そんな事をしながらのんびり三人で話していると、サリーが夕食三人分を持ってきてくれた。うむ、今日も最高にうまそうだ。ちなみにサリーは夕食を置くとすぐに厨房へと戻っていった。どうやら忙しいようである。さて、もうそろそろ我慢の限界だ! 食べるとしよう!
俺達三人は特に会話をする事もなく、無我夢中で食事を続けた。
数分後、目の前にあったはずの三人分の夕食は綺麗になくなっていた。
腹が膨れて満足しているとマルブタが、
「うまかった! すげえうまかったっす! 俺が前に止まっていた宿屋の食事とは全然違ったっす!」
うむ、そうだろうそうだろう。
サリーが作った夕食は本当に最高なんだ!
その後、腹が膨れた俺達は満足して各自の部屋へと戻っていった。
俺も部屋に戻るため階段を昇っていく。なぜかマルブタも一緒だ。そして自分の部屋の前までたどり着くとマルブタが、
「お、アニキの部屋って俺の部屋の正面なんすね! これからよろしくっす!」
「ああ、よろしく頼む」
マルブタに軽く挨拶して自分の部屋へと入っていく。
そしていつもの様にベッドに横になり、
「ふぅ、今日も一日終わりだ~」
しかし、まさかマルブタまでジニアに来るとはな。
これは明日から騒がしくなりそうだ。
さて、腹も膨れて丁度眠くなってきたし、そろそろ寝るとしますかね……
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