第88話 秘密
ゴレイ山脈を出発して数時間後、
俺とリサは無事フロックスに到着していた。
ふむ、予想よりずっと早く帰ってこれたな。これもリサが思っていたよりタフで、休憩回数を最低限に抑えれた影響だろう。イグルやマルブタの件があったので一応体調には気を付けていたのだが、取り越し苦労だったみたいだ。まったく大したもんだ。もしかしたらリサはイグルやマルブタより体力があったりしてな。まぁさすがにないか。
まぁいい、とりあえずフロックスに到着したことだし、そろそろ抱っこしたままのリサを下ろすとするかな。そう思いリサに声をかけると、リサは少し残念そうな顔をして、
「あ、もう着いちゃったんだね。もう少しこのままでもよかったんだけどなぁ」
「へぇ、昨日は随分と恥ずかしがってたのにたった一日で随分と慣れたもんだな。しかしいいのか? 俺は別にこのままお姫様抱っこしていってもいいが、そうなるとこの姿を大勢に見られる事になるぞ?」
からかい半分にそう言うと、リサは少し顔を赤くし、
「そ、それはたしかに少し恥ずかしいね。仕方ないか。よいしょっと」
そうしてリサは俺の腕を離れた。
その後、門を抜けフロックスに入った俺達はまずリサのお店に向かった。リサの大荷物や今回の依頼の目的であるアルス鉱石を届けるため。そして護衛依頼書にサインを貰うためだ。
しかし、よく考えてみればリサと二人で街を歩くのは初めてだな。少し新鮮な気分だ。そうしてしばらく歩いていると、目の前を数人の魔法学園の生徒が横切っていく。どうやらそのまま武器屋に入っていったようだ。本当に最近よく見るな。何かあるのだろうか。そんな事を考えているとリサが、
「どうしたんだいユーマ君。何か気になる事でもあったかい?」
「いや、別に大したことじゃないんだが、最近魔法学園の生徒をよく見るなと思ってな」
「ああ、それなら進級の時期だからだと思うよ。魔法学園の生徒って二年生になると授業で杖を使うようになるんだ。それが理由でこの時期は杖を買いに街に来る生徒が多くなるのさ。後はたまに杖を買うお金が足りないからって、学園で紹介された簡単な依頼のような事をしてお金を稼ぐために街に来てる生徒もいるね」
「なるほど、道理で杖を買う生徒が多いわけだ。ありがとなリサ。疑問が一つ解消したよ」
「ふふ、どういたしまして。ユーマ君に役に立てたようでよかったよ」
それから俺とリサは話をしながら歩き続け、
数十分後、無事リサのお店へと到着して、扉を開け中へと入っていく。
「ふぅ、本当にゴレイ山脈まで行ってたった一日で帰ってきちゃったよ。さて、じゃあユーマ君この辺りに荷物とアルス鉱石を出してもらってもいいかな?」
「了解だ」
俺はリサの指定した場所にまず大きな荷物を出し、それからアルス鉱石を次々と出していく。四分の一程度を出し終えたところでもう十分と言われたので出すのをやめる。そして最後にリサからサインを貰いこれで用事はすべて終わりだ。後はギルドに行くだけだな。
さて、用事も済んだことだしギルドに向かうとするか。おっと、その前に少しだけ気になっていた事を聞いておこう。
「なぁリサ、少し気になっていたんだが、アルス鉱石を使ってどんなマジックアイテムを作るんだ?」
「うーん、まだ秘密かな。まぁ完成したらユーマ君にも知らせるから楽しみにしててよ」
ふむ、秘密なら仕方ないな。
「そうか。出来上がるのを楽しみにしてる。さて、そろそろ依頼報告のためにギルドへ向かうとするよ。またなリサ」
「うん、またねユーマ君」
その後、リサの店を出た俺はギルドに向け歩き出す。
数分後、無事ギルドに到着し中に入る。
そしてメルさんの元へと歩いて行き、
「こんばんはメルさん。指名依頼を達成したので報告にきました」
俺はメルさんに護衛依頼書を渡す。
するとメルさんは、
「あれ、私の記憶違いかな。ユーマ君ってたしか昨日からゴレイ山脈に行ってたんじゃなかったかしら?」
「はい。昨日出発して今日帰ってきました」
「……じゃあもしかしてユーマ君はフロックスからゴレイ山脈の往復を一日で終わらせれるってこと?」
「そうですね」
「……ちなみに移動手段を聞いてもいいかしら。やっぱり魔法とか使ったの?」
「いえ、普通に走りました」
「……さすが、ユーマ君は足速いわね」
「ありがとうございます」
「はぁもういいわ。そうよね、相手はユーマ君だもの。なんでもありよね」
なにかめちゃくちゃ言われてるな。
「よし、落ち着いてきたわ。さてユーマ君、護衛依頼書確かに確認しました。依頼達成おめでとう。これが今回の報酬になるわ」
そうしてメルさんは金貨5枚が入った袋を手渡してきた。俺はその袋を受け取り、一応中身を確認してからアイテムボックスに入れる。
よし、今日はもうギルドには用事はないな。最後にメルさんに、
「ありがとうございました。では俺はこれで失礼します」
そう言い残しギルドを後にした。
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