第86話 ゴレイ山脈
フロックスを出発して数時間後、
俺とリサはゴレイ山脈までの道を半分ほど進めていた。おそらく俺一人だったらすでににゴレイ山脈へ到着しているのだろうが、今回はリサがいてスピードもかなり落としているのでまぁこんなとこだろう。それでも今日中にはゴレイ山脈には着きそうなペースだ。
さて、俺はこのまま走り続けてもいいのだが、さすがにリサがそろそろきついだろう。これがイグルやマルブタなら遠慮なく走り続けるのだが、リサはあいつらとは違う。冒険者などではなく普通の一般人なんだ。そろそろ休憩を挟んでおくべきだろう。
そう考え走るのをやめ、休憩に入る。
その後、リサと向かい合う形で昼飯を食べていたのだが、どうにもリサの機嫌がよろしくない。昼飯もずっと下を向いたまま食べているし、俺が話しかけても空返事しか返ってこない始末だ。
ふむ、これは相当怒っているな。たしかにいきなりお姫様抱っこしたのは失敗だったかもしれない。事前に了解をとっておくべきだったな。よし、ここはしっかり謝っておくことにしよう。
「なぁリサ、そろそろ機嫌を直してくれないだろうか? たしかにいきなりお姫様抱っこしたのは俺が悪かったと思う。申し訳ない事をした。すまん!」
そうリサに頭を下げながら謝罪する。
悪い事をしたら謝るのは当たり前だからな。
俺が頭を下げ謝罪すると、リサはなぜか少し驚きながらこちらを向き、しかし、俺と目が合うとすぐにまた顔を俯かせてしまう。そしてぼそぼそと話し始める。
「あのね、勘違いしないでほしいんだけど、別にユーマ君に怒ってるわけじゃないんだよ。ただあんな事されたの初めてだったから、その……恥ずかしくって……」
言い終えたリサの顔は、俯いていても分かるほど真っ赤だった。
その後昼食を食べ終え、少し休憩しているとようやくリサも普段の調子に戻ってきたようで、
「そういえば、改めて考えてみるとユーマ君って凄い身体能力してるよね」
「そうか?」
「そうだよ。普通は人を抱っこしたままあの速度で走るなんて無理だよ。ユーマ君って能力UP系のマジックアイテムってまだ持ってないんだよね?」
へぇ、マジックアイテムにはそんな物まであるのか。
それは興味をそそられるな。
「ああ、そんな物があるなんて初めて聞いたよ。リサの店でも扱っているのか?」
俺がそう聞くとリサは小さく首を振り、
「まだわたしの店には置いてないね。能力UP系のマジックアイテムは結構貴重だから、売りに来る人もほとんどいないし、作るのにも結構貴重な鉱石がいるんだよ」
「そうか、少し残念だがそれなら仕方ないな」
リサの店で扱っていないのなら当分手に入れるのは無理そうだ。まぁ違う街に行く機会でもあったら探してみるとしますかね。
その後数十分ほど休憩した後、再びゴレイ山脈へ向け走り出す。リサも二度目だからだろうか少し慣れてきたようだ。顔を赤くする事もほとんどなく、しっかり俺にしがみついてくる。しかも、
「ひゃー、凄いねユーマ君! こんな速いの初めてだよ!」
そう、なんとこやつ走っている最中に会話まで始めたのだ。さすがにイグルやマルブタの時よりはスピードは落としているが、結構リサって肝が据わっているのかもしれない。まぁそれはともかく、、
「リサ、走っている最中はあまり喋らないほうがいい。舌を噛んだりしたら危ないからな」
「ん、分かった。周りの景色でも見てることにするよ」
ふっ、本当に度胸があるな。
その後、走り続ける事数時間
ようやく俺達は目的の場所に到着した。
さて、ここがゴレイ山脈か。ふむ、異世界の山というのだから相当大きい山を想像していたのだが、思っていたよりは小さいな。少なくともテレビで見たことのあるエベレストよりは断然小さいだろう。そんな事を考えているとリサから声がかかる。
「ユーマ君、そろそろ下ろしてもらってもいいかな?」
あ、やべリサの事忘れてた。
俺は慌てて腕の中にいたリサを地面に下ろす。
「ありがとユーマ君。しかし、本当に一日とかからずに着いちゃうなんてね」
「やはりあの方法は正解だっただろう?」
「ふふ、そうだね。最初はちょっとだけ恥ずかしかったけど、慣れれば快適だったよ」
ふむ、快適ときたか。やはり中々にいい根性をしていらっしゃる。イグルやマルブタにも見習わせたいものだな。
「そいつはよかった。さて、これからどうする?」
空を見る限り、おそらく日が落ちるまで相当時間がありそうだ。俺一人だったらこのまま探しに行ってもいいんだが、今回はリサもいる。もしリサに疲れがあるようなら今日はここで一泊し、明日の朝から探しに行く手もある。さてどうするかね。
「そうだね。まだ日が落ちるまで相当時間がありそうだし、このままアルス鉱石を探しに行こうか」
どうやらリサはまだ元気なようだ。
「分かった。じゃあ行こうか」
こうして俺とリサはゴレイ山脈へと入っていった。
そしてしばらく山道を歩いていると、一つ聞き忘れていた事があるのに気づく。
「リサ、聞き忘れていたんだがアルス鉱石ってのはどんな見た目をしているんだ?」
「あ、そういえば言ってなかったね。えーとアルス鉱石はこれくらいの大きさで、色は青一色だから凄い分かりやすいと思うよ」
なるほどな。
たしかにそれはかなり目立ちそうだ。
その後もリサと話をしながら山道を進んでいく。当然話をしながらも、周りの警戒は怠ってない。そしてしばらく歩いたその時、目の前数十メートル先から何かの気配が、
「リサ、止まれ」
俺がそう声をかけるとリサはぴったりその場に止まる。
「魔物かい?」
「おそらくな。正面数十メートル先だ。リサはここにいてくれ。確かめてくる」
俺はアイテムボックスの中からデーモンリッパーを取り出し、気配のした方に歩いて行く。すると予想通り近づいた瞬間、目の前に二匹の魔物が姿を現す。どうやら二匹ともゴブリンのようだ
俺は一瞬で一匹目のゴブリンの正面に移動し、即座に首を刎ねる。すぐに二匹目も同じように首を落とし仕留める。そして二匹のゴブリンの死体をアイテムボックスにしまいリサの元へと戻る。
するとリサはなぜか驚いたような顔をして、
「ふぅ、ただいまリサ。で、どうしたんだその顔は?」
「あ、いや、その……ユーマ君が強いってのは知ってたんだけどさ、まさかここまで強いとは思ってなくて。正直ユーマ君の動き、ほとんど見えなかった。やっぱり話で聞くのと実際に見るのじゃ大違いだなって実感したよ」
「はは、ありがとな。さて、魔物も片付いた事だし先に進むとしようか」
「うん、そうだね。行こう」
俺とリサは山道をさらに奥へと進んでいく。
すると数十分後、いきなり目的の物を発見することに成功した。成功したのだが、
「リサ、アルス鉱石ってあれだよな」
「うん、間違いないね。あれはアルス鉱石だ」
「だよなぁ。で、あれを手に入れるためには、こいつら倒さなきゃだめってことか」
そう、現在俺とリサが隠れている場所から数十メートル先には、かなり大量のアルス鉱石と、それをまるで守るのかように三匹のゴレムらしき魔物が存在していた。
うーん、三匹かぁ。
まぁ魔法には弱いって聞いたからなんとかなるとは思うけど、まずは鑑定かな。そう思い三匹いる内の一匹に鑑定を使う。すると、
ゴレムlevel42
力 79
体力 82
素早さ14
幸運 11
《スキル》なし
《称号》 なし
……ん?
あれ、思っていたより、弱い?
想像していたよりlevelも能力もかなり低い。
しかも、こいつスキル持ってねぇ。
い、いや待て、もしかしたら三匹の内こいつだけlevelが低いのかもしれない! そう思い他の二匹にも同じように鑑定を使っていく。結果、三匹とも同じようなもんでした。
あれ、余裕でこいつら倒せそうな気がしてきたわ。
「リサ、少し待ってて。ちょっと倒してくるわ」
そう言い残しリサを置いて飛び出していく。
後ろでリサが無茶だよと言ってたが気にしない。
そして三匹のゴレムの背後の周り、
「まず一匹目だ。ファイアボール!!」
俺の放ったファイアボールは見事ゴレムの背中に命中し、
「ゴオオオォォォ」
その一撃でゴレムの体は砕け、崩れ去っていった。
よ、よぇえええええええ!
魔法に弱いとは聞いていたが、ここまで弱いのかよ! するとさすがに残った二匹のゴレムはこちらに気付いたようで、叫び声を上げながらこちらに走ってくるが、
お、遅い、遅すぎる……
おそらくゴレムは走っているつもりだろうが、俺から見たら歩いているかと勘違いするほどの遅さだ。はぁ、本当にこいつらただ硬いだけの魔物なんだな。ミナリスさんが魔法が使えたら問題ないっていうわけだ。
「もうお前らいいや。ファイアボール、ファイアボール」
俺は適当に走ってくるゴレム二匹に向かってファイアボールを放ち、戦闘を終わらせた。ふぅ、本当にあっさり終わってしまったな。まぁいいか。とりあえずこれで、
大量のアルス鉱石、ゲットだぜ。
読んでいただきありがとうございます。
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