第85話 魔力の匂い
ベッドで横になり、眠りについてから数時間後、
部屋の扉をドンドンと叩く音で目を覚ます。
「ユーマさん、そろそろ夕食の時間なので起きてくださいー」
ふむ、もうそんな時間か。
部屋の窓から外を見てみると、たしかにかなり暗くなっている。どうやら相当な時間寝てしまっていたようだな。さて、起きるとするか。
少し眠気が残っている体をベッドから無理やり起こし、部屋の扉を開ける。
「わざわざ悪いなサリー、ぐっすり寝てしまっていたようだ」
俺がそう言うと、サリーは欠片も嫌な顔はせずに、
「いえいえ、ゆっくり休めていたようでよかったです。それにしても、本当にぐっすり寝ていましたねユーマさん。部屋の外にまでいびきが聞こえてきましたよ。少しだけ起こそうか迷っちゃいました」
ほう、どうやら俺は寝ている時、かなりの大きさのいびきをかいでしまっているらしい。少し恥ずかしいが、いびきはどうしようもないよなぁ。
そんなくだらない事を考えているとサリーが、
「さて、最初の話に戻りますが、そろそろ夕食の時間なのでユーマさんも食堂に来てくださいね。イグルさんもミリスちゃんもユーマさんの事待ってましたよ」
そう言い残しサリーは食堂へと戻っていく。
さて、サリーの話だと、今日はイグルだけではなくミナリスさんもいるのか。それなら急いでいくとするか。そう思い軽く服装や髪を整え食堂へと向かっていく。
すると、
「お! ユーマこっちだぜー。早く来てくれぇええええ」
ふむ、やはりイグル君いつもより声震えてますねぇ。黒焦げにされた事がやはりトラウマになっているようだ。まぁイグルの自業自得なので同情する気はほとんどないがな。
そう考えながらイグルとミナリスさんのいるテーブルへと歩いて行き、席に座る。
「イグル、ミリスさん待たせてすみませんでした」
俺がそう言うと、
「ほんとだぜユーマ! まったく来るのが遅いんだよ! いつまで俺をこんな婆さんと二人きりに」
イグルが婆さんと言った瞬間、
気のせいかもしれないがミナリスさんからイグルへの殺気のようなものが襲いかかる。
「こらエロ小僧、誰が婆さんだって?」
「ひぃぃいいい、すみませんでしたミナリス様!! あとエロ小僧はやめてください」
イグルはそのまま土下座でもしようかという勢いだ。どんだけミナリスさんの事を怖がっているんだよ。その後なんとか許してもらえたイグルとミナリスさんと三人で夕食を食べていると、
「そういえばユーマよ、お主明日からゴレイ山脈に行くそうじゃのう」
おっと良く知っているな。
まぁイグルかサリーに聞いたのだろう。
「そうですね。明日から護衛依頼で行くことになっています」
「ふむ、護衛依頼か。お主一人じゃったらなんの心配もないんじゃがな。護衛依頼ともなるとそうもいかん。誰かを守りながら戦うというのは案外難しい。気を抜かぬことじゃな」
「分かってます。気を抜く気なんて毛頭ありませんよ」
俺がそう断言すると、ミナリスさんは少し笑いながら、
「ふむ、お主には余計な心配じゃったようじゃ。まぁ実際お主なら、気を抜かぬ限り一人くらい守りながら戦うのは余裕じゃろう。ゴレムだけは少しばかり厄介じゃが、魔法が使えるお主なら問題なんじゃろう」
「そうですね……ってあれ、俺ってミリスさんに魔法使えるってこと言いましたっけ?」
俺がそう質問するとミナリスさんは、
「いや聞いてないな。しかし、お主からは魔力の匂いを感じる。それもかなり多くの」
ふむ、魔力の匂いね。
そういえば以前、アルベルトさんも俺に魔力の匂いを感じるとか言っていたな。
「ある程度魔法に精通している者なら、大体は魔力の匂いを感じ取れるはずじゃ」
なるほど。
じゃあ俺には当分無理だ。俺は魔法の事なんかほとんど知らないからな。
「なるほど、多分俺には無理ですね。なんせ俺は魔法に関して素人当然ですから」
するとミナリスさんが俺だけに聞こえるように小声で、
「するとお主は、魔力だけはあるが魔法の扱い方は素人という事かの?」
「はい、そうなります」
「ふむ、その辺りはクロダとまったく同じじゃのう」
おっと、こんなところでクロダさんの名前が出てくるとは思っていなかった。しかもクロダさんは俺とまったく同じような状況だったようだ。親近感を感じますねぇ。
そしてミナリスさんは小声をやめて、
「よし、ユーマよ。護衛依頼から帰ってきたら、わしが直接魔法の使い方を教えてやろう」
おお、そいつはありがたい。この先魔法を戦闘でどの程度使っていくかは分からないが、教えてもらって損はないだろう。それにもしかしたら、ミナリスさんが魔法を使うところや、戦うところを見れるかもしれない……
その後、俺達三人は数分で夕食を食べ終わり、各自自分の部屋に戻っていった。俺も自分の部屋に戻り、いつものようにベッドに横になる。
「ふぅ、腹いっぱいだ」
相変わらずサリーの作る夕食は最高に美味しかった。明日から数日はあれを食べれないのが残念極まりない。
さて、明日からはいよいよ護衛依頼。それが終わったらミナリスさんとの魔法の訓練か。ふむ、当分は忙しい日々が続きそうだな。
「よし、とりあえず明日に備えて早めに寝るとするか」
そう思い目を瞑り、眠りの世界に入っていく。
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そして指名依頼の当日。
俺はいつもより少し早い時間に起き、朝食を一人でとっていた。さすがにこの時間ではイグルもまだ起きていないようだ。ふむ、少しだけ寂しいが一人で食べる朝食も新鮮でいいかもな。そうして一人で朝食を食べていると、向かいの席にサリーが座って話かけてくる。
「ユーマさん、朝食の味はどうでしょうか?」
「ああ、いつも通り最高の味だよ」
「本当ですか! それならよかったです!」
その後はサリーと楽しく会話しながら朝食を食べ進めていった。うむ、さっきは一人で食べるのも新鮮でいいかもと言ったが、やはり誰かと一緒に食べたほうが断然いいな。
そして朝食も食べ終わり、そろそろ出発しようかと思いサリーに、
「サリー、そろそろ行くとするよ」
「ユーマさん、気を付けて。それからリサの事よろしくお願いします」
「ああ、大丈夫。リサも俺もすぐに帰ってくるさ。じゃあ行ってくるよ」
そう言い残しジニアから出ていく。
そして待ち合わせの場所である門に向けて歩いて行く。少し歩いていると門が見えてくる。どうやらまだリサは来ていないようだ。そして門につき、いつもの門番さんと話をしながらリサが来るのを待つことにする。それから数分後、目の前の道からかなり大きな荷物を持ったリサが歩いて来るのが見えた。そして、
「はぁはぁ、ユーマ君待たせちゃったみたいでごめん!」
門に到着したリサは相当息が切れていた。やはりあの荷物が重かったのだろう。
「大丈夫だ。俺もほんの数分前に着いたばかりだからな。それよりリサ、その荷物相当重いだろ? もしよければ俺のアイテムボックスの中に入れておこうか?」
するとリサはかなり嬉しそうに、
「本当かい!? そうしてくれると凄い助かるよ」
リサから荷物を受けとり、アイテムボックスの中にしまっておく。そして実際にリサの荷物を持ってみるとやはりそれなりに重かった。俺には問題ない重さだが、リサには相当きつかっただろう。
そして荷物の問題も解決し、二人も揃ったので門の外へと出ていく。さて、いよいよ出発だ。おっと、その前にリサには聞いておかないといけない事があったな。
「なぁリサ、お姫様抱っこってどう思う?」
俺がそう質問するとリサは顔を赤くし、
「え、いきなりだね。えーと、されてみたいなぁって思いはあるけど、やっぱりちょっと恥ずかしいかな」
そうかそうか。されてみたいか。
ならしてあげましょう。
俺はリサを両腕で抱え上げる。
するとリサは顔を真っ赤にして、
「ひゃ! ユーマ君!? ちょっと恥ずかしいよ!」
ふむ、普段冷静な子が取り乱す姿って可愛いな。
まぁそれは置いといて、
「リサよ、しっかり俺にしがみついておけ。思いっきりがっしりこい。じゃないと、危ないぞ?」
「ユーマ君、今日は一体どうしたんだい!? あと危ないってなんだい!?」
リサは少し混乱しているようだ。だが混乱しながらもちゃんと俺にしがみついてきている。うむ、やはり胸の感触が凄まじい。恐ろしい物を持っていらっしゃる。
「よしリサ、簡単に説明しよう。俺がリサを抱えて走る。おk?」
「簡単すぎるよ! もっと詳しく!」
詳しくって言ってもな。これ以上説明する事なんてないんだが。うむ、リサもちゃんと俺にしがみついてることだしもう出発してしまおう。
「さて、説明も無事終わったことだし出発するぞ」
そうリサに告げ、そこそこの速度で走り始める。よし、待ってろよゴレイ山脈!
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これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。
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