第78話 マルブタ
ゴルド森林を出て数十秒後、俺はフロックス向け全速力で走っていた。すると一つの異変に気付く。
「ふむ。明らかに走るスピードが上がっているな」
そう、俺の走る速さは行きと比べ段違いに上がっていた。この調子ならおそらくフロックスまで3分とかからないだろう。しかし、いきなりlevelが40も上がると、さすがに少しだけ体に違和感があるな。
そういえば、素早さが上がったという事は、力や体力も上がっているということだよな。体力はどれだけ上がっても問題ないが、力は少しだけ不安だ。なんせ今の俺の力はサイクロプスを上回る。少し力を入れただけで周りの物を壊さないとも限らない。早く慣れておかないとな。
そんな事を考えているうちに、あっという間にフロックスに到着した。そしていつもの門番さんが少しだけ驚きのこもった表情で話しかけてくる。
「ユーマ様お帰りなさいませ。しかし、いつ見ても凄まじい速さですね。私も長年門番をやっておりますが、その速さで走れる人間などほとんど見たことありません」
「はは、依頼が無事成功したもんですから、少し張り切って思いっきり走ってきました」
「おお、それならば無事ゴールデンラビッツを仕留める事ができたのですな。おめでとうございます」
「ありがとうございます。いやぁ中々見つからなくて苦労しました」
「それは仕方ない事でしょう。ゴールデンラビッツは見つける事も難しいとされている魔物です。むしろユーマ様の様に一日で見つけることができたのは非常に運がよい事かと」
ふむ、一日で見つけられたのは運がよかったのか。これもやはり幸運が高いお陰なのだろうか。
「なるほど、それは幸運でしたね。さて、そろそろギルドに報告に行くので、これで失礼しますね」
そう言い残し俺は門を抜けフロックスに入っていく。
さてと、まずはギルドに依頼達成の報告にいかないとな。そう思いギルドに向け歩き出す。そして歩き出してから数分後、無事ギルドへ着き、扉を開け中に入っていく。すると、
「お、アニキ! 帰ってきたんですね」
そう言いながらマルブタがこちらに近寄ってきた。
相変わらず俊敏な動きをしていらっしゃる。
「アニキ今日はゴールデンラビッツの依頼だったらしいっすけど、その様子だと?」
「ああ、無事依頼は成功だ」
「おおお、さすがアニキっす。すげえっす。最高っす!」
ふむ、俺の依頼成功をマルブタはまるで自分の事かの様に喜んでくれている。それ自体は非常に好ましいのだが、もう少しだけ静かにできないものなのか。
「ああ、ありがとうマルブタ。そういやマルブタは今日何をやっていたんだ? どこかに依頼にでも行っていたのか?」
「俺っすか? 今日は新人の冒険者に狩りのやり方を教えていました」
なん……だと。あのマルブタがタダで新人の面倒を見るなんて信じられない!一体いくら貰う気なんだこのブタ野郎!
さて、冗談はこれくらいにしておいてだ。変わったなぁマルブタ。最初に絡んできた時は単なるチンピラのようなやつだったのに。イグルに聞いた話では一日目の駆除作戦でも味方を庇いながら戦ったと聞いているし、マルブタも頑張っているんだな……
残念ながら未だにマルブタの事を顔だけで判断する輩も少なくはない。それでも駆除作戦に参加した冒険者などは比較的マルブタに好意的になってきている。
「なぁマルブタ。この調子で頑張れよ。そしたら、いつかきっと……」
いつかきっと、みんながお前を認めるさ。
「うっす!アニキに言われたからにはこれまで以上に張り切っていっちゃいますよ」
「ま、まぁほどほどにな。じゃあ俺はメルさんに依頼の報告に行ってくるよ。またなマルブタ」
「うっす!」
そしてマルブタと別れ、依頼の報告のためにメルさんの元へと向かう。そして、
「こんばんはメルさん。無事依頼を達成することができたので報告にきました」
俺がそう言うと、メルさんは驚いたような呆れたような顔をして、
「はぁ、本当にユーマ君は非常識の塊ねぇ。まさか一日で達成しちゃうとは思ってもいなかったわ」
「はは、運がよかったんですよ」
「運がよかったで済む話じゃないと思うんだけど。まぁいいわ。おめでとうユーマ君。早速ゴールデンラビッツを見せてもらってもいいかしら」
俺はアイテムボックスの中からゴールデンラビッツを取り出し、メルさんに渡す。
「間違いないわね。この金色に輝く体、本当に久しぶりに見たわ。じゃあ依頼は素材採取だからこれはこちらで預からせてもらうわね。依頼外の素材の分のお金は後日支払うわ」
「分かりました」
「それじゃ依頼の報奨金を渡すわね。はいこれ」
そう言ってメルさんから渡された袋の中身をチラっと確認すると、そこにはかなりの量の金貨と数枚の白金貨が入っていた。
「ありがとうございます。では自分はこれで失礼しますね」
そうメルさんに言い残しギルドを出ていく。
さてと、今日やる事はもうなくなったな。そろそろジニアに帰るとしますかね。そう思いジニアに向け歩き出す。
数分後無事ジニアに到着し、中に入っていくと、
「ユーマさん! お帰りなさい。今日はいつもよりちょっと遅かったですね」
そう言いながらサリーがこちらに近寄ってくる。俺はいつもの様にサリーの頭を撫でてあげながら、
「ただいまサリー。今日は目的の魔物を見つけるのに手間取ってね。それで遅くなっただけさ」
「そうですか。怪我でもしてるんじゃないかとちょっと心配だったけど、それならよかったです!」
おっと、サリーに心配かけてしまっていたようだ。これからは遅くならないように注意しなければな。
「じゃあユーマさん。夕食はいつも通りの時間なので、その、そろそろ手を」
「ああ、悪い」
やばいやばい。サリーの頭を撫でたままだった。
「い、いえ。ユーマさんに頭撫でられるのは凄い好きなので、本当はいつまででもやっててほしいんですが、夕食の準備があるので失礼しますね」
そう言いながらサリーは厨房に戻っていった。
本当に可愛くていい子だよなぁ。
さてと、部屋に戻るとするかな。そう思い階段を上がり、部屋の中に入っていき、ベッドに横になる。
「ふぅ、やっぱりジニアに戻ってくると落ち着くな」
さて、夕食の時間までのんびりするとしますか。
そう思い目を瞑ると、ギルドでの事を思い出す。
マルブタは、本当に自分を変えようと頑張っていた。俺は、頑張れなかったからな……マルブタにはこれからもあの調子で頑張っていってほしい。もしマルブタが困った事があったなら全力で手助けしよう。
はぁ、知らない間にマルブタに随分甘くなってるなぁ。
まぁ仕方ない。弟分を助けるのは兄貴分の役目だ。
そんな事を考えながら、夕食の時間までゆったりと過ごした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
それから評価やブクマなどいつもありがとうございます。
これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。




