第74話 新たな隣人
さて、このままジニアに帰りたいところだが、その前に解体所に寄らないとな。そう思い解体所に向かい歩き出し数分後、
「よし着いた。えーといつものおっさんは」
お、いたいた。
おっさんを発見したので近くに行き話しかける。
「こんにちは、おじさん。魔物の解体をお願いしたいのですが大丈夫でしょうか?」
「おお、首狩りじゃねえか! いいぜ、なんでも出せよ」
「ありがとうございます。ではまずこちらを」
俺はアイテムボックスからコカトリス2匹を出し、
「まずこの二匹の解体をお願いします。素材の金はギルドのグレンさん当てにしておいてください」
「おう、了解だぜ。で、これ以外はないのか?」
これ以外か、この前の大量の魔物でも出すか。
いや、サイクロプスを解体してもらうとするか!
「すみません。サイクロプスの解体をお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか?」
俺がそう告げるとおじさんは少し固まり、
「あ、ああ、そういやお前さんは大侵攻を一人で止めたんだったな。当然サイクロプスも倒しているか。よし! 解体だがもちろんいいぜ! 出してくれ」
「ありがとうございます。では」
アイテムボックスの中からサイクロプスの死体をその場に広げる。相変わらずでかいな。おじさんも同じ事を思ったようで、
「お、おお、さすがにでかいな。よくこいつを一人で倒せるもんだぜ……よっしゃ!こいつの解体は責任とってやらせてもらうぜ! こいつの金はいつも通りでいいか?」
「はい、お願いしますね。では自分はこれで失礼します」
これで今日やるべき事は大体終わった。そう思い俺はジニアに向かい歩き出す。そして数分後、無事ジニアに到着し、扉を開け中に入っていく。すると、
「あ、ユーマさん!」
そう言いながらサリーがこちらに走り寄ってくる。その姿はまるで子犬のようだ。実に可愛い。
ああ、しかしなんだろうか。サリーを見ると安心するな。うまくは言えないが、家に帰ってきたんだって実感できる。俺は近くに寄ってきたサリーの頭を軽く撫でてあげながら、
「ただいまサリー」
頭を撫でられているサリーは、少し恥ずかしそうにしながらも、その表情は非常に嬉しそうだ。
「はい!お帰りなさいユーマさん。そういえばさっき帰ってきたイグルさんから聞きました。ユーマさんストン森林での狩りで大活躍だったって! さすがユーマさんです!」
そう言いながら俺を見るサリーの目は、見事に輝いていたように思える。
「はは、ありがとう。サリーにそう言ってもらえると頑張った甲斐があったよ。じゃあ俺は夕食の時間まで部屋で休んでいることにするから、また夕食の時間にね」
「はい。あ、そういえばユーマさん」
ん? なんだろうか。
サリーが俺を呼び止めるなんて珍しいな。
「どうしたサリー? 何か言い忘れたことでもあったかい?」
「はい。実はユーマさんの隣の空き部屋に今日からお客さんが入ってきたんですよ。しかもそのお客さん凄い可愛い子なんです。多分私より少し年下くらいだと思いますけ。ユーマさんもしその子が困ってたら、助けてあげてくれませんか?」
ああ、本当にそんな子供がいたら俺は手助けしたいと思うかもしれないな。大人は子供を助けるもんだ。しかし、いま俺は非常にいやな予感に襲われている。そしてある質問をサリーに、
「な、なぁサリー。その子さ、話し方とか年相応だったか?」
「そういえば、ちょっと古臭い喋り方でしたね。私のおばあちゃんと同じような喋り方でした」
おいおいおいおいおいおいおい!!!
こいつはもう確定じゃねえのか!
「あ、ありがとうなサリー。じゃあ俺は部屋に戻るよ」
そうサリーに言い残し、俺は階段を昇り二階へ。そしていつもの俺の部屋ではなく、その隣の部屋の扉を叩き、
「すみません。誰かいますでしょうか?」
そう声をかけるとすぐに返事は返ってきた。
「ふむ、その声はユーマか。入ってええぞ」
ああ、この声、確定だ。
俺は恐る恐る扉を開け中にいる人物の顔を見る、すると。
「あれ」
嘘だろ? 声を聞く限り、間違いなくミナリスさんだったぞ。しかし、今俺の目の前にいる少女は、髪は緑髪、目もかなりおっとりとしていて、極め付けに耳がとがっていない。どういう事だこれは、俺がそう考えていると、
「ふむ、困惑しておるようじゃの。まぁ無理はないの。だがユーマよ。お主なら真実が見えるはずじゃぞ。サイクロプスを単独で倒せる実力を持っているお主ならのう。よく目を凝らして見てみるがよい」
何を言っているんだ、そう思ったがとりあえず言う通りにしてみることにする。そしてその少女の事を改めて目を凝らして見てみるとそこには、
「……ミナリスさん?」
そう、すでに俺の目の前にいた少女の姿は先ほどまでの少女とは違い、つい先ほどギルドで見たばかりの、ミナリスさんの姿になっていた。
「これは……幻覚?……」
「ふむ、正解じゃ。ようわかったのう」
ふむ、どうやらミナリスさんは自身に幻覚をかけ、姿を変えていたというわけか。しかし、
「ミナリスさん。なぜこのような事を?」
「まぁお主は知らんだろうが、わしはこれでも有名人でのう。普段の姿だと、どうしても周りが騒いでうっとおしいのじゃ」
ああ、たしかにギルドは騒がしくなっていたな。
「お主と会ったお陰で、しばらくこの街に滞在することにしたからの。それでのんびり生活をするために幻覚魔法で姿を偽る事にしようとしたわけじゃ。まぁさすがに声までは変えれんがの。それと、ある一定以上の実力を持っておる者にもこの魔法は通用せん。もっとも、この街でわしの幻覚魔法が通用しないのはお主と、ギリギリでグレンくらいのもんじゃな」
なるほどな。大体理由は分かった。たしかに普通に生活しているだけなのに、いちいち騒がれていたんじゃうっとおしいだろうからな。
「ふむ、大体理解できました。では早速質問なのですが、なぜわざわざこの宿に泊まることにしたんです? ミナリスさんならもっと豪華な宿に泊まることもできたはずですけど」
俺がそう質問すると、ミナリスさんはニヤリと笑いながら、
「ふふ、そんなもん、お主を近くで見るために決まっておろうが。わしが今、興味あるのはお主だけだからの」
うわぁ、めっちゃ目つけられてるな。
しかしいくら大侵攻を止めたからって、ここまで興味を持たれるのはおかしくはないだろうか。少し質問してみよう。
「あの、俺に興味を持ってもらうのは嬉しいのですが、なぜそこまで? やはり俺が大侵攻を止めたからでしょうか?」
俺がそう質問するとミナリスさんは、
「ふむ、たしかにそれもある。だがそれよりも、もっと気になる事があってのう……」
そう言いながら、ミナリスさんは笑みを深くする。うむ、やはり姿は少女なだけあって、笑った姿などは非常に可愛らしく思える。しかし今はその笑みが少しだけ怖い……なんかめちゃくちゃ嫌な予感がする。しかし、ここまで聞いてしまったのだ。もうこのまま聞いてしまえ!
「もっと気になる事、とは?」
俺がそう聞くと、さっきまで笑っていたミナリスさんの顔は一瞬で真面目そのものの顔になり、質問に答えてくれた。
「お主、おそらくじゃが、この世界の人間ではないな?」
ああ、ギルドで話をした時からやばいかなと感じてはいたが、やはり俺がこの世界の人間はではない事に気付かれてしまっていたようだ。
「すみません、いつからばれていたか聞いてもよろしいでしょうか?」
「そうじゃな、理由は二つある。まず一つ目じゃが、お主、わしにエルフとハイエルフの違いについて聞いてきたな。ギルドでも言ったが、この世界では知らない者はほとんどいない情報なんじゃよ。特にグレースから聞いた限りお主は25歳。それだけ生きておって知らんというのは少しばかり不自然すぎたのう」
なんだグレースさんが俺の年をばらしたせいだったのか!……などという冗談は置いといて、失敗したなぁ。そう思っていると、さらにミナリスさんは話を続けていく。
「そして二つ目じゃが、この世界にお主のような黒髪黒目の人間はまずおらん。わしは数百年生きておるが、お主と同じ黒髪黒目の人間はたった一人しか知らんからのう」
そうか、今まで特に気にした事なかったが、俺のこの外見はこの世界では非常に珍しいみたいだ。なんせミナリスさんのように数百年以上生きてる人が、たった一人しか知らないんだもんなぁ。
……ちょっと待て。
数百年を生きるミナリスさんが知る、たった一人の黒髪黒目の人物。まさか、もしかして……
「うむ、気づいたようじゃな。そう、わしはお主のようにこの世界の外からやってきた人間を一人だけ知っておる」
「その人の、名前を聞いても?」
「たしか名前は、クロダ・リュウノスケ、だったかの」
間違いない……俺と同じ日本人だ……
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