第73話 目標
さて、俺の目の前のこの少女、まさかSランク冒険者とはな。道理であの迫力なわけだ。今の俺だと正面から戦ったんじゃまず勝てんな。
「まさか、Sランク冒険者でしたとは。お会いできて光栄ですアマランスさん」
俺がアマランスさんと呼ぶと、少しだけ不機嫌そうな顔になり、
「首狩り殿、わしの事はミナリスと呼ぶがいい。わしはアマランスと呼ばれるのは嫌いなんじゃ。いいな?」
ふむ、なにか訳でもあるのだろうか。
まぁ今は気にしても仕方ないな。
「分かりましたミナリスさん。それでしたら俺の事もユーマとお呼びください。首狩りと呼ばれるのは少し恥ずかしいもので」
「うむ、ではこれからはユーマと呼ぶことにしよう」
「ありがとうございます。では早速質問なのですが、ミナリスさんは大侵攻の応援にこの街に?」
「うむ、ナーシサスでいつものように酒を飲んだくれておったら、そこにおるグレースにフロックスが危険だと聞いてのう。それで暇つぶし程度に救援に来てやったというわけじゃよ」
この外見で酒を飲むのか。中々にアンバランスな事だな。しかし大侵攻の救援が単なる暇つぶしとは、さすがはSランク冒険者といったところか。
ミナリスさんは続けて、
「そして今日フロックスに着いてみたら、もう大侵攻が起こる心配はないというではないか。内心少しだけイラっときたが、そこでお主の事を聞いてのう。興味を持っておったところじゃよ」
ミナリスさんは俺の事を見て、ニヤっと笑う。
なんか俺、厄介そうな人に目を付けられたかも。
「まさか、こんな田舎街にオークキングやゴリトリスはまだしも、サイクロプスを一人で倒せる冒険者なんているとは思っていなかったからのう。しかもじゃ、まだ冒険者になって数週間の者がそれをやったというではないか。興味を持つなという方が無理な話じゃよ」
そしてこちらにさらに近寄ってくるミナリスさん。
うーん、見た目は可愛いんだけどなぁ。
そうだ、一つだけ気になることをきいてみよう。
「ミナリスさん、失礼を承知で聞かせていただきます。年齢はいくつなのでしょうか?」
これをずっと聞きたかったんだ。
ミナリスさんは見た目は完全に少女のはずなのに、グレースさんはミナリスさんの事をばーさんと呼んだ。それにミナリスさんの喋り方は少々古臭すぎる。完全に見た目とあっていない。
そして答えが返ってくる。
「わしの年齢か。そうさな、150までは数えておったのだが、それから先は数えるのが面倒になって不明じゃ」
それは俺の予想を遥かに超える答えだった。
嘘だろ!? 見た目どおりの年だとはさすがに思ってはいなかったが、100歳を超えているというのは予想外すぎる。まさかのミナリスさん合法ロリかよ!
しかし、普通の人間でそこまで生きれるものなのか! そう思いミナリスさんの顔を見てみると一つの違いに気付く。
ミナリスさんの耳、普通の人間よりとがってないか? そして俺はその耳に非情に見覚えがある。なんせ死ぬ少し前までやっていたゲームで見慣れている存在だからだ。
「あの、ミナリスさん。もし違っていたら悪いのですが、もしかしてミナリスさんはエルフなのでしょうか?」
俺のその質問にミナリスさんは、
「半分当たりじゃな。たしかにわしはエルフじゃ。ただし、普通のエルフとは違う。わしはハイエルフじゃ」
ハイエルフ? そういえばたしかゲームにもそんなのいたな。俺のプレイしていたゲームだと、ハイエルフというのはエルフの上位種族という設定だったが、この世界ではどうなのだろうか。
思い切って聞いてみるか。
「すみませんミナリスさん、エルフとハイエルフの違いについて説明してもらってもよろしいでしょうか?」
それを聞いたミナリスさんは珍しそうに、
「そんな事を聞かれるなど何十年ぶりかのう。この世界に生きていたら子供でも知っていそうな情報なんじゃがな。まぁいいわい、ハイエルフはエルフの上位種族じゃ」
やべ、まずい事聞いちまったかな。俺が元はこの世界の人間じゃないってばれてないよな?まぁもしばれていたら正直に言うしかないな。150歳を超える婆さんを相手に、隠し通せる自信はない……
ていうか、ハイエルフがエルフの上位種ってゲームのまんまかよ。それ以外に何か違いはあるのだろうか。
「ミナリスさん、それ以外にハイエルフとエルフに違いなどはないのでしょうか?」
「あるぞ。まずハイエルフはエルフの10倍以上の魔力を持って生まれると伝えられておる。その多すぎる魔力のせいで、大体のハイエルフは体の成長がすぐに止まってしまうと言われておるのう。そのお陰でハイエルフはみな、わしのようにチビばかりじゃ」
「ミナリスさん以外にもハイエルフが?」
「うむ、わしの他には5人おるぞ。」
ほほう、そんなにいるのか。
それは是非とも会ってみたいな。
「その人達も冒険者を?」
「いや、冒険者をやっているのはわしともう一人だけじゃのう。他の四人は昔のままならエルフの里で暮らしておるはずじゃ。まぁエルフの里があるのはロータス大陸なので、確認のしようもないがの」
ロータス大陸? なるほど、この世界はいくつかの大陸によって分かれているのか。今まで気にしたことなどなかったので知らなかった事だな。
なら今俺がいるこの大陸にも名前があるのだろうか。今度暇なときにでも調べてみることにするか。
「なるほど、色々教えていただきありがとうございました」
そうミナリスさんに頭を下げる。
「うむ、しっかり礼をできるのは当然だがいい事だ。最近はそれさえできない冒険者が多いからのう。ユーマよ、お主には期待しておるぞ」
そう言い残しミナリスさんは俺に背を向けて、立ち去ろうとしたところに、
「おいばーさん、これからどうするんだ? もう大侵攻は止まっちまったんだし、ナーシサスに帰るのか?」
「いや、少し前はそのまま帰るつもりじゃったんだがな、気が変わった。しばらくこの街に滞在することにしようと思う。その方が近くでユーマを見ていられるからの」
そう言い残し今度こそミナリスさんは去っていく。
おっと姿が見えなくなる前に鑑定しておこう。
《鑑定》…………
すると俺にとって予想外の事がおきる。
鑑定がミナリスさんに対して発動しないのだ。
まじか、確かに最初、鑑定はlevel差があると発動しないとはあったが、それほど俺とミナリスさんのlevelは離れているということだろうか。それとも何か鑑定を阻害するスキルでも持っているのだろうか。なんにしても初めての経験だ。少しショックだな。そうして少し落ち込んでいるとグレースさんが、
「どうしたユーマ? ばーさんの方みながらぼーぜんとしやがって。まさか! あのばーさんに惚れちまったんじゃないだろうな!」
はは、なんかグレースさんと話すと落ち込んでいるのもアホらしく思えてくるな。よし、元気を出そう。逆に考えれば目標が見つかってよかったじゃないか。これからはミナリスさんに追いつけるように頑張ろう。
「いえ、少しミナリスさんと俺の実力の差を感じてしまってショックだっただけですよ。今はもう大丈夫です」
俺がそういうとグレースさんは真面目な顔になり、
「ユーマ、一応忠告しておくが、あのばーさんを普通のSランク冒険者とは思わない方がいいぞ」
「どういうことですか?」
「あのばーさんはな、SSランクになれる実績を十分持ってる。しかし、面倒だからってずっとSランクにとどまってるんだよ。そしてあのばーさんの実力だが、おそらく冒険者すべてを見ても、5本の指に入る」
ふむ、グレースさんの話が本当なら、俺が立てた目標は果てしなく遠い物のようだ。いいじゃないか、逆に燃えてきたぞ。絶対に追いついてやる!
「なるほど、教えてくださりありがとうございましたグレースさん。必ずいつか追いついてみせます」
「はっ! 俺のさっきの言葉を聞いて出てくるのが、追いついてやるだとはな。おめえ以外のやつがいったのなら笑い飛ばしてやるところだが、不思議とおめえならできるんじゃないかって思っちまうぜ。頑張れよユーマ」
「はい!」
その後グレースさんと数分話をした後別れた。
ちなみにフロックスに応援にきていたAランクPTは、大侵攻がすでに止まっていると知るとすぐにナーシサスに戻っていったそうだ。
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これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。




