第66話 話し合い
さて、今現在この部屋の中には、ここフロックスの偉い人物が集まっている状態である。この豪華な面子で一体どのような話をするのだろうかと、内心物凄く緊張していた俺だが、
「ふざけるなよじじい! ユーマは冒険者ギルドのものだ! こんなとびぬけた逸材滅多に現れないんだ。ユーマには将来冒険者ギルドを背負って立つ存在になってもらうつもりだ。お前ら魔法馬鹿に渡してたまるか」
「ふん、何がユーマは冒険者ギルドのもんじゃ。それを決めるのはギルドではなくユーマじゃ。それに、ユーマには魔法の才能があるんじゃ。わしにはわかる。将来は魔法学園の講師になってほしいくらいの逸材じゃ。お前らのような戦闘馬鹿の連中の所はあわん」
俺を魔法学園に勧誘してきたローエンシュタインさんと、それを止めようとしているグレンさんがすごい勢いで言い争っていた。子供の喧嘩みたいだなこれじゃ。俺がそんな事を考えていると、
「すみませんねユーマ君。この二人は昔からこういった感じなのですよ。大目に見てくれると助かります」
そう言ってベリスタさんが二人の事をフォローしてくる。
よかった、この人はまともなようだ!
そんな事を考えていると、二人の喧嘩の矛先がこちらに飛んできた。
「ユーマ! お前はどう思っているんだ。魔法学園みたいなとこ入ったりしねえよな?」
「いや、将来の事を考えるのなら冒険者などというものより、魔法学園に来た方がためになるぞ。冒険者など危険と隣り合わせの職業じゃ。こちらの方が安全でしかも将来講師になれば給金なども安定しておるぞ」
はぁ、仕方ないなぁ。
「ローエンシュタインさん、まず俺を学園に誘っていただきありがとうございます。しかし、俺は魔法学園に入るつもりはございません。というかおそらく入学すること自体ができないでしょう。この先も冒険者としてやっていくつもりです」
俺のその言葉を聞いたグレンさんは、一気に機嫌がよくなり、ローエンシュタインさんの方は少しだけムっとした顔になる。
「わしのことは、アルベルトでいいわい。それと魔法学園に入らない理由をきいてもよいかのう?」
「はい、ではまずアルベルトさん。魔法学園の何歳まで入学することが可能なのでしょうか?」
「ふむ、原則として18歳までと決まっておるのう。しかしお主なら問題ないようだが?」
「その時点で俺には無理ですね。俺は今年で25歳ですから」
俺がそう発言すると、アルベルトさんとベリスタさんがかなり驚いたような顔になっている。ついでにグレンさんも同じように驚いている。あれ、言ってなかったっけな。
しかし、アルベルトさんはあきらめきれないようで、
「し、しかし、講師ならどうじゃ? お主なら十分やっていける魔法の才を感じるのだがのう」
俺が他人に魔法を教えるか、そんな事は出来るわけがない。
この世界にきてから俺は偶然でしか魔法を使ったことがない。どんな原理で魔法が発動しているかどうかもまったく分からないのだ。
「すみませんが、お断りさせていただきます。せっかく誘っていただいたのに申し訳ございません」
俺がそうはっきりと宣言すると、ようやくアルベルトさんは俺を魔法学園に入れるのをあきらめてくれたようだ。
「そこまで言われたら仕方がないのう。まぁ困った事でもあったらわしに会いにくるといい。いつでも相談にのるからのう」
「はい、そのようなときは、頼りにさせていただきます。」
ふぅ、これで勧誘の話はいったん収まったか。
俺がそう考えていると、ベリスタさんも同じように思ったようで、
「ふむ、ようやくひと段落ついたようですね。では早速、今日の本題の大侵攻についての話に移るとしましょうか」
ベリスタさんがそう言うと、ようやくこの部屋にいる人達の顔が真剣なものに変わっていく。ようやく真面目な話が始まるようだ。
まずベリスタさんが口を開く、
「最初に、ユーマさん。大侵攻の件本当にありがとうございます。あなたのお陰で大侵攻を事前に防ぐことができました。領主として感謝を」
次にアルベルトさんも、
「わしからも礼を言わせてもらうぞ。もし大侵攻が起こったら魔法学園にも間違いなく被害が及んでいただろう。感謝する」
最後にグレンさんが、
「ユーマ、ギルドを代表して俺からも礼を言わせてもらうぜ。本当に助かった」
そう言ってこの部屋にいる偉い人トップスリーがそろって俺に頭を下げてくる。正直緊張でどうにかなってしまいそうだ……
「い、いえ! この街に住むものとして、できる事をしたまでです。みなさんどうか頭を上げてください。それに、多分話はこれで終わりではないはずです」
俺がそういう3人は頭を上げ、グレンさんが話始める。
「ユーマの言う通り、話はこれで終わりではない。今回ユーマのお陰で現在三つの森に存在していた上位種はすべて滅んだことを確認した。しかしだ、確認してみたところ、少々魔物の数が増えすぎていてな。まぁなぜかオーガス森林だけは魔物の数は少な目だったのだが」
ふむ、おそらくオーガス森林だけ魔物の数が少ないのは、オークキングを探すため、オークを狩りまくったせいだな。数百体は狩ったからなぁ。
「このままでは魔物の数が多すぎて、もしかしたら森の外に出ていって周りの村などに被害がでるかもしれん。なのでギルド全体で魔物の駆除を行うつもりだ。それにユーマも協力してほしいのだが」
魔物の駆除ねぇ。いい機会だ。サイクロプスを倒してどれだけ強くなったのか試してみたかったところだったんだ。それに大量の魔物を倒すとなるとその分経験値も貰える。当然参加させてもらおう!
「グレンさん、俺もそれに参加させていただきます。村などに被害が及んだら大変ですからね。しかし大丈夫なんですか? オーガス森林はともかく、ストン森林にはコカトリスがいるし、ゴルド森林なんかは平均Cランク以上ですよね?」
「うむ、オーガス森林はまず問題ない。ストン森林だが、まぁ俺がついていけばなんとかなるだろう。コカトリスは火に弱いからな。問題はゴルド森林か」
そうかそうか、グレンさんも参加するのか……ていいのかよ! ギルドマスターがこんな作戦に参加しちゃって! 俺がチラっとメルさんを見てみると、すでにあきらめたような表情になっていた。
「それならグレンさん。ゴルド森林の魔物駆除は俺一人でやりますよ。あそこは危険ですからね。冒険者を無駄に危険に晒すこともないでしょう」
ふふ、一人の方が経験値稼げるもんな。
それにあんまり俺のスキルを他人に見せたくはない。
一人の方が色々好都合なのだ。
「本当か! それならこちらとしてもかなり助かるのだが、ユーマは大丈夫なのか? 最近戦ってばかりのはずだが」
「全然大丈夫ですよ。今からゴルド森林に行けと言われてもまったく問題ありません」
「そうかそうか! よし、なら早速ギルドも動くとしよう。駆除作戦の参加者を集って早速魔物狩りだ」
グレンさんがそう言い勢いよく立ち上がると、ベリスタさんが、
「ふむ、どうやら大侵攻についての話し合いはこれでお開きのようですね。ユーマさん、何度もこの街のためにありがとうございます。お礼を後日必ずしますので。どうか今は宜しくお願いします」
続いてアルベルトさんが、
「本当にユーマは冒険者にしておくには惜しいのう。まぁ仕方がないわい。魔法学園としても今回の礼をしっかりさせてもらう。お、そうじゃ! わしの孫と結婚してみないか!? 家事はまったく駄目だが、美人じゃぞ?」
ほ、ほう……美人さんか。ちょっと会ってみようかな……
「おい、じいさん! そうやって孫をダシにしてユーマに取り入ろうとすんじゃねえよ」
うむ、またうるさくなりそうだなぁこれは。
そう思って見ているとベリスタさんが、
「ユーマさん、長くなりそうなので先に出ましょう」
「そ、そうですね」
現在言い争いをしている、アルベルトさんとグレンさんとついでにメルさんを残し部屋をでる。メルさんどんまい。
そしてベリスタさんが、
「ではユーマさんまたお会いしましょう」
俺とベリスタさんは握手を交わす。そして別れ際ニヤっと笑いながら、
「あ、それと最後にユーマさん、私の娘は家事もできて、かなりの美人で中々の物だと思いますよ。いつか偶然会う機会などありましたらよろしくお願いしますね」
そう俺に告げベリスタさんは去っていった。
ふむ、あの2人に混ざっているだけあって割といい性格しているかも。
まぁとりあえず大侵攻についての話し合いは終わった。俺は自分の持ち場であるゴルド森林に向かうとしますかね。サイクロプスとの闘いでどれだけ強くなったか楽しみだな。
そう考えながら俺はギルドから出てゴルド森林へ向け歩き出した。
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