第106話 シングとグレース
モチベ上がってるので連続投稿。
盗賊から冒険者PTを助けてから数時間後。
俺はやっと目的地のフロックスへと戻って来た。
「これはユーマ様、無事で何よりです」
そう声を掛けてきたのはいつもの門番さん。
うん、帰って来たって感じがするね。
俺は門番さんに軽く返事をして、フロックスへ入っていく。
あ~、当然だけどバリス村と比べると人の数が凄い違うな。
まぁ村と街なんだから当然か~。
さて、とりあえず依頼の報告にギルドへ向かうとしますかね。
そう考え冒険者ギルドへ歩いて行きすぐに到着した。
そして中へ入ると何人かの視線が俺に向く。
「お、首狩りだ。やっぱ生きてるじゃねえか」
「だから言ったろ、あいつはすぐに帰ってくるって」
「しかし、グロースラビッツを倒しに行って無傷とは、流石だぜ~」
そうして何人かの冒険者が俺に対して無事で良かった、お帰りなど割と優しい言葉を掛けてくれた。大侵攻の時から随分態度が変わったよな~。
さて、とりあえず依頼の報告と行きますか。
そう考え俺は受付のメルさんの元へ向かう。
「こんにちはメルさん、無事に戻る事が出来ました」
「お帰りユーマ君。怪我がなくて何よりだわ。ていうか、バリス村まで行って二日で帰って来るなんて相変わらず可笑しな事をしてるわね?」
「はは、まあ今回は急ぎでしたからね~。――と、これが今回のグロースラビッツ討伐の依頼成功を証明する頭部の角です」
俺はアイテムボックスから大きな角を取り出しメルさんに見せる。
最初、俺はこれを持っていく事を忘れていたが、ゾンガさんが村を出る前に証明になると言われ持たせてくれた物だ。ありがとうゾンガさん!
「はい、確かに確認しました。それにしても、随分と大きな角ね。ここまで大きなのは長年見た事なかったわ。これを仕留めるなんて流石ねユーマ君」
メルさんの心からの称賛。
しかし、俺はこれに対して苦笑いするしかない。
何故なら、グロースラビッツを倒したのは俺ではなくシングだからだ。
この件はどうしようかね~。
――と、俺がそんな事を考えてる内に。
メルさんが依頼の報酬の金貨六枚を持ってきてしまった。
「はい、これが今回の報酬よ、受け取って」
俺は激しく迷う。
この報酬を受け取るべきか受け取らないべきか。
メルさんは中々報酬を受け取らない俺に疑問符を浮かべている。
う~ん、まじでどうしよう。
横から俺に声が掛かったのはそんな時だった。
「あ、あんた、依頼通りグロースラビッツを倒してくれたんだな!」
そう声を掛けてきたのはボロボロの鎧の男性。
う~ん、誰だっけこの人。
……ああ、思い出した。
バリス村の住人でガントさんが庇った人か。
てかまだギルドにいたんだな~。
そう質問すると何でも怪我が治るまではギルドに滞在して、丁度今からバリス村へ帰るところだったとか。
――ん、これは良い事を考えたぞ!
俺はメルさんから依頼の報酬金貨六枚を受け取り、そのまま男性の手に無理やり持たせた。
「これ、バリス村の村長、ゾンガさんに渡しておいてください」
俺の言葉を受けボロボロの鎧の男性は驚く。
そして横からこれを見ていたメルさんは厳しめの表情で言った。
「ユーマ君、余りそういう事はしないほうがいいわ。確かにバリス村には同情できる点もあるけど、依頼の報酬はしっかり受け取るべきよ」
「ああ、勘違いしていますよメルさん。俺は例え相手にどんな事情があるにしろ、正当な報酬は受け取るべきと考えています。しかし、今回は事情が少々違いのでこういった方法をとっているだけです」
「え、事情が違う?」
「そうなんです。実はですね~……」
俺はメルさんだけに聞こえる小さな声で、グロースラビッツを倒したのが俺ではなくバリス村に住む少年のシングだと告げる。
俺の話を聞いたメルさんは嘘でしょ!?と驚愕をあらわにする。まあAランク級の魔物を少年が倒したと聞かされたら驚くわな。俺だったら信じないかも。
「――本当の話なの?」
「勿論、全て嘘偽りなく話しましたよ。いや~、本当にシングは優秀という言葉では表せない程に強かったですね。俺もうかうかしていられないと感じる程に。あれは間違いなくいい冒険者になりますので、ここを訪れる機会があったらよろしくしてやってください」
「ええ、分かってるわ!」
メルさんはやっと俺の言葉を信じたようで、その表情は将来現れるだろう優秀な冒険者を想像してワクワクしているように感じた。
「まさか、シングが冒険者を目指すなんて……」
俺の隣にいたのだ、当然シングの話は聞こえていたのだろう。
ボロボロの鎧の男性は信じられない事を聞いたと驚くと同時に、その表情には隠し切れない歓喜の色が浮かんでいた。この人も待ってたんだな。
「シングは村の人に心を開きました。村に戻ったら仲良くしてやってください」
「はい、勿論です! ユーマ様、この度はグロースラビッツの件やシングの件、本当にありがとうございました! この恩は忘れません!」
バリス村でユーマ様の事は語り継いでいきます!
そう言い残しギルドを去ったボロボロの鎧の男性に、俺はそれは正直辞めて欲しいなと言いかけたのをぐっと堪えた。だって、あんなやる気なんだもんよ~……。
そして、やる事が終わったので帰ろうかと俺が後ろを振り返ると。
「ユーマ……」
そこにいたのは二日前に見た時より元気も薄れ目にはクマなども出来ているグレースさんだった。おそらく、この数日寝れない日々だったんだろう。
「ユーマ、バリス村を救ってくれて、本当に感謝する!」
そうしてグレースさんは何とギルドのど真ん中で土下座をし始めた。
俺はいきなりの行動に慌てて、感謝の気持ちは受け取りますからとりあえず立ってくださいと告げ、グレースさんもそれを聞き腰を上げる。
「はあ~もう、いきなりビビリましたよ~」
「う、仕方ねえだろ。俺がお前に感謝を示すにはこれくらいしないといけないと思ってよ。確かに少し恥ずかしかったけどよ」
「全く。てかグレースさん土下座を知ってたんですね?」
「ああ、この前マルブタから聞いたんだ」
あのクソブタ野郎、余計な事を教えやがって。
まあいい、俺は少しため息を付きグレースさんに向き合う。
「さてと。グレースさん、あなたに伝言があります」
「ん、伝言? 誰からだ?」
「シングから、ですよ」
「――!?」
俺がシングの名前を出した瞬間、グレースさんの大きな体がブルッと揺れる。そのまま少しの間目を瞑り、やがて覚悟を決めたようだ。
「言ってくれ、あいつは俺に何て言ったんだ?」
「ではそのまま伝えます【グレースさん、あの時は酷い事を言ってごめん。後、僕は決めたから。父ちゃんを超える冒険者になるって。勿論、グレースさんも超えるつもりだから覚悟してね!】だそうです」
「……あ、ああ」
グレースさんはシングの伝言を聞いた瞬間、両目から大粒の涙をこぼし地面に膝を付いた。ギルドの中でそんな事をすれば嫌でも目立ってしまうが、この時ばかりは騒がしい冒険者達も神妙な表情で黙ってグレースさんを見守っていた。
「――グレースさん」
「……ああ、もう大丈夫だ」
涙を流し終えた後のグレースさんの表情は先程と比べ物にならない程に晴れやかで、清々しい笑顔で笑っていた。
「そうか、シングも前に進んだんだな。これで、立ち止まってるのは俺だけか。はあ、となれば、大人の俺がこのままだと格好がつかねえな。俺も久しぶりにPT組むのを考えてみるか」
ああ、やっぱり俺とグレースさんが会ってすぐの頃、旅の途中で話していた件はこれが関係していたんだな。長い間、悩んでいたんだろう。
「PTを組むならイグルやマルブタなどどうです? 二人とも優秀ですよ」
「ああ、確かにあの二人は最近伸びてるな。けどよ、それだと男三人でむさ苦しくねえか?」
「はは、俺は男だけでもいいと思いますけどね~。さて、それじゃ俺はそろそろ失礼します。早くジニアに帰ってサリーに会いたいですから」
「けっ、お前はいいよなサリーちゃんもリサちゃんもいて」
そう言ってグレースさんは少し不貞腐れてしまった。
俺はそんな様子に苦笑を浮かべ、では失礼しますと背を向ける。
すると最後に背後から声が。
「――ユーマ、本当にありがとうな」
俺はその言葉に片手を軽く上げる事で答え、ギルドを後にした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
もし続きが読んでみたい面白いと思っていただけなら、
ブクマや評価を頂けると嬉しく思います。
次に同時更新でもう一つ新作を始めました。
此方も応援して頂けると嬉しく思います。
https://book1.adouzi.eu.org/n6487gc/
魔術至高主義の世界に生まれた魔術師殺し~魔力が0で実家から追放されましたが、実は剣神なので問題ないです~




