第102話 魔人
遅れてしまい申し訳ありません。
目の前の男は自身を魔人ランビリス・レゾムと名乗る。
あくまで俺の勘だがこいつが嘘を言っている気配はない。これが本当の名前か。
それにしても魔人か。魔族や魔王なら聞いた事があるが、魔人は初めて聞くな。
俺がそんな事を考えていると、目の前のランビリスは俺の様子になぜか驚きと呆れが入り混じったような表情を浮かべ、ため息をつきながら言った。
「はあ、昔は魔人を目にすれば人間は恐れ慄いたはずなんですけどね。これも時代の流れなのでしょうか。それとも、まさか私が嘘を言っていると思っているのですか?」
「悪いな。お前が嘘を言っていないのはなんとなく理解できるが、俺は魔人なんて存在は今まで聞いた事もなければ見た事もなかったんでな。知らなければ恐れようがないだろ?」
俺のその答えにランビリスはそういう事ですかと納得した様子。
そして敵意がない事を現すかのように両手を広げ、笑みを浮かべ言った。
「そういう事なら我々が無駄に争う必要はなさそうですね。あなたは魔人に対して敵意を持っていない。私もあなたと戦闘を行う気はありません。すぐにこの村から立ち去ると約束します。どうでしょう、見逃してもらえないでしょうか?」
ふむ、相手が何の信用も出来ない相手という事を差し引けば悪くない提案。
確かにこんな村の中で戦闘を行ったのでは村の建物に被害が出てしまう恐れがある。
それに騒ぎを聞きつけて村の人達もやって来ないとも限らない。
不本意だが仕方ない。ここはランビリスの提案に乗っておくとしよう。
「ランビリス、お前の提案を受け入れよう。ただし、少し質問をさせてもらうぞ」
「ええ、それくらいなら別に構いませんよ」
「まず最初に、お前はなぜ俺に魔法をかけなかった? お前にとって俺は隙だらけだったはずだ。魔法をかける機会はいくらでもあったんじゃないのか?」
「残念ながらそう上手くもいかないものでしてね。実はこの魔法、ある程度の魔力を持つ者に対してはほとんど効果がないのです。それが欠点なんですよ」
「なるほど。では次にお前をここで見逃すとしてこれ以上この村に何もしないと約束するか? もしお前がこれ以上ゾンガさんやシングに何かするつもりなら、俺はお前をここで殺す」
「その心配は不要ですよ。もうこの村に用はありませんので。それに、これ以上魔力を使い派手に動くと厄介な存在に勘付かれる可能性がありますからね。全く、あれから何百年も経っているというのにあのハーフエルフはいつの世も我々の邪魔をする」
そう話すランビリスは今までの上品な振る舞いと違い、明らかに苛立っている様子だ。
おそらくランビリスの話すハーフエルフとはミナリスさんの事だろう。
ランビリスとミナリスさんの間に何があったのか知らないが、相当怨みがあるようだな。
まあ今の俺には関係のない話だ。そう考え俺は最後の質問をぶつける。
「これで最後だランビリス。お前は何が目的でこの村を訪れた?」
俺の問にランビリスは不気味な笑みを浮かべる。
「ふふ、流石にそれを話すわけにはいきませんね。まあ、いずれあなたにも分かる時がきますよ。必ずね。それでは、今日のところはこの辺で失礼させて頂きます」
そう最後に言い残すとランビリスは俺に背を向け壁に向かい歩いて行く。そして壁にあたる直前、まるで霧にでもなるかのように忽然と姿を消したのだった。
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ランビリスとの一件から数十分後。
俺が宴会の会場へと戻ると、今だに大盛り上がりの様子だった。
そして俺の事を見つけたシングがこちらに走り寄ってくる。
「兄ちゃんどこに行ってたんだよ。俺もじいちゃんも必死に探してたんだぜ」
「ああ、それは済まない事をした。少しばかり用事があってな。それよりもシング、悪いんだがゾンガさんがどこにいるのか教えて貰ってもいいか?」
「ん、じいちゃんならあっちにいると思うよ」
「そうか、ありがとなシング。俺はゾンガさんに少し用事があるからまた後で」
シングにそう言い残し俺はゾンガさんの元へと向かう。
背後でシングが俺も構ってくれよと叫んでいるが、悪いが今は無理なんだ。
そうして俺はゾンガさんを見つける事に成功して割と真剣な表情で話しかける。
「ゾンガさん、少し話したい事があるのですが大丈夫でしょうか?」
そう話しかけるとゾンガさんは笑顔を崩しバリス村の村長としての厳しめな表情に。
どうやら俺の様子で何かが起きたと察してくれたようだ。
「分かった。人気のない場所へ案内しよう。付いてきてくれ」
そう言ってゾンガさんが歩き出したので俺も後を付いて行く。
歩き出して数分後、ゾンガさんに連れて来られた場所は村の空き地のような場所だ。
確かにここなら誰かに話を聞かれる心配はない。
そう確信した俺はゾンガさんについ先ほど起きた事を全て説明していく。
そして全てを聞き終えたゾンガさんは神妙な表情で言った。
「なんてことだ。まさかこの村にそのような者が入り込んでおったとは」
「やつの口ぶりからおそらくこの村に現れる事は二度とないとは思いますが、ゾンガさんにだけは伝えておこうと思いまして。勿論シングにも伝えてはいません」
「うむ、村の皆には秘密にしておいたほうがいいじゃろう。下手に伝わろうものなら混乱を招くだけじゃからのう。それにしても、今の時代に魔人の名を聞くことになろうとは」
そう言いながらゾンガさんは深いため息をつく。
どうやら魔人の事を知っている様子だ。気になったので質問をする事に。
「ゾンガさん、魔人について教えてもらってもいいでしょうか?」
「わしも余り詳しくは知らんのだが、なんでもわしが生まれてくる数十年前に魔王がこの大陸の攻め込んできた時、魔族や魔物の指揮をしておったのが魔人という噂じゃ」
なるほど、つまり魔人は魔族の上位の存在といったところか。
確かにあのランビリスという男には何か不気味なものを感じた。今思えばあの時にランビリスと戦う選択をしなかったのも、無意識に警戒していたのかもしれないな。
「なるほど。ではゾンガさんは魔人がこの村に来た理由などは?」
「それについては全く心当たりがない。何しろ魔人が最後に現れたとされているのは今より数百年前。それが今になって現れても、何が目的かなど見当もつかん」
ゾンガさんは頭を抱え必死に考えているようだが、答えは出てこないようだ。
魔人がこの村に来た理由か。もしかしたら、この村には魔人が求めるような絶大な力を持った何かが存在している可能性があるとか。いや、それはないな。
もしそんな物が存在しているなら、村長のゾンガさんも少しくらい知識があるだろう。
駄目だな、俺の知識じゃこれ以上考えても無駄だ。
「ゾンガさん、この件については俺の信頼出来る人物に相談する事にします。魔人の目的について何か分かったら必ず伝えに来ると約束します」
「うむ、ユーマ殿が信頼する人物ならわしも信じる事が出来る。この件はユーマ殿に任せ、わし達は普段通りに生活していく事にする。それが最善じゃろう」
「それが正解ですね。ゾンガさんが変に不安な気持ちを抱いていると、それが村の人達にまで伝染してしまう恐れがある。それだけは避けたいですから」
俺の言葉にゾンガさんはそうじゃなと深く頷いた。
魔人についての話はこれでひとまず終了だ。宴会に戻るとしますか。
「それではゾンガさん、俺達も宴会に戻るとしましょうか。実はシングの事を無視してこっちに来てしまったんですよね。早く戻らないと色々と文句を言われてしまいそうです」
俺がそう少し困り顔で話すと、ゾンガさんは真剣な表情を崩し笑みを浮かべた。
「本当にシングはユーマ殿に懐いたのう。確かにあそこまで楽しそうなシングを見るのは数年ぶりじゃ。余り待たせるのは酷じゃろう。小腹も空いてきた。そろそろ戻るとするか」
そう言いゾンガさんが歩き出したので俺も一緒に広場へと向かった。
広場に戻ると、俺の考え通りシングが凄い勢いで近づいてきて俺の手を掴む。
それから数時間の間、俺はシングに色々と連れまわされ休む暇もない程に宴会を満喫するのだった。
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