第101話 宴会
本日書籍版「引きこもりだった男の異世界アサシン生活」が発売します。
TOブックスオンライン、もしくはとらのあなで購入なさると特典SSが付いてきます。
どうか宜しくお願いします。
俺は現在、マリアさんの経営している宿屋で休んでいるところだ。
休んでいるといっても肉体的に疲れはほとんどない。あるとしたら、それは精神的な疲れだけだ。そして疲れの原因は、間違いなく数時間前のアレだろう。
今から数時間前。村に戻ったシングは無事にバリス村の人達と和解する事ができた。それ自体は喜ばしい事なのだが、その後が本当に大変だった。
なんせそれから約一時間の間、ひたすらみんなで泣きじゃくっていたのだ。あの場にはバリス村の住人のほぼすべてが集まっていたため、その規模は尋常ではない。
最初は俺も仕方ないと思い放っておいたのだが、流石にこれ以上放っておくと草原の魔物が寄ってきてやばいと思い、止めに入ったというわけだ。
そしてこの人数での騒ぎが簡単に収まるはずもなく、俺は仕方なく村の住人一人ひとりに話しかけ、騒ぎを収めていったというわけだ。
「いい人達なのは理解できるんだがな。本当に疲れた。少し横になるか」
そう思い、ベッドに横になり目を瞑る。
できる事ならこのまま少し仮眠を取りたかったところだが、どうもそう思い通りにはいかないらしく、誰かが部屋の扉をノックする。
「ユーマさん起きてますか? 村長さんが用事があるって訪ねて来てますよー」
どうやら部屋の扉をノックしたのはマリーだったようだ。
そしてゾンガさんが俺に用事か。まあ、大体の想像はつくな。
「分かった。すぐに向かう事にするよ」
「それがいいと思いますー。では私は仕事があるのでこれで失礼しますねー」
「ああ、伝えてくれてありがとな。仕事頑張れよマリー」
俺がそう告げると、マリーはスキップでもするかのように機嫌よく走り去っていった。俺に褒められたのが嬉しかったのか、可愛いやつめ。
さて、それじゃ俺もゾンガさんに話を聞きにいくとしますかね。
そう考え部屋を出て一階へ向かうと、早速ゾンガさんから声が掛かった。
「来てくれたかユーマ殿。休んでおるところ済まないのう」
「ゾンガさんに用事があるなんて言われたら、来ないわけにはいきませんよ。さて、早速ですが、俺を呼んだ用件について聞かせて貰ってもいいですかね?」
「うむ。今回ユーマ殿を呼んだのはグロースラビッツの件じゃ」
「なるほど、ではあれをどうするか決まったんですね」
「そうじゃのう。村のみんなで、勿論シングも含めて話し合った結果、グロースラビッツは今夜の宴会の主食に使う事になった。しかし、本当に良いのかユーマ殿。グロースラビッツを我々が貰ってしまって」
「はあ、何度も言ってるじゃないですかゾンガさん。今回、グロースラビッツとの戦いで俺は一切手を出していません。あいつを倒したのはシングです。ほんの少しの助言はしたかもしれませんが、本当にそれだけなんです。なので、これ以上俺が口を挟むことはありません」
俺がそうはっきり断言すると、ゾンガさんは深く頷き。
「そこまで言うのなら、この話はこれで終わりにしよう。では次の話じゃが、これから行う予定の宴会にユーマ殿も参加していってくれると思ってええんかの?」
「宴会ですか。そうですね、特に用事などもないので参加していこうと思っています。しかし、村の住人ではない俺が参加しても大丈夫なのでしょうか?」
「何を言うかと思えば。ユーマ殿なら村の皆も大歓迎に決まっとるよ。それにシングもユーマ殿には是非参加してほしいと言っておった。遠慮なく参加してくれ!」
「なるほど、そういう事なら是非参加させて頂きます」
「そう言ってくれると有りがたい。これでシングの機嫌を損なわずにすむわい。それではユーマ殿、わしは家に戻り準備をしてくるので、宴会でまた会おうぞ」
俺にそう言い残しゾンガさんは自分の家へ戻っていった。
それじゃ俺は宴会開始の時間まで部屋でのんびり過ごすとしましょうかね。
===========================
さて、そろそろかな。
宿屋の外が騒がしくなってきたのを感じ、俺は部屋を出て一階へ向かう。
階段を降りると、俺の事を待っていたらしいガントさんが。
「よお、やっと降りてきやがったかユーマ。待ちくたびれたぜ」
「ガントさん、待っててくれたんですか」
「まあ、お前だけ宿屋に残していくわけにはいかねえからよ。ただ、お前を待ってた理由はそれだけじゃねえ。ちゃんと礼を言いたくてな」
ガントさんは今までに見たことないくらい真剣な表情になり。
「ユーマ、シングを守ってくれてありがとな。それと、俺の足を治してくれた件についてもだ。俺は魔法は詳しくねえからよく分かんねえが、お前の使った回復魔法が相当レアって事は理解できる。なんせ歩くこともできなかった怪我が一瞬で治ったんだからな」
「ガントさん……」
「お前だから話すが、俺はかなり参ってたんだと思う。マリアやマリーの前では必死に強がっていたが、内心はこれからどうするか不安でいっぱいだった。そんな時、お前が来てくれた。あの時は足が治った事で気が動転して何も言えなかったが、お前には本当に感謝してる。ありがとう」
「どういたしまして。まあ、また今度怪我とかしたら遠慮なく言ってください。どこにいても必ず治しにきますから」
「ありがとよ。さて、少し話し込んじまったな。そろそろ俺らも宴会に向かうとするか。なあユーマ」
「そうしましょうか。俺も少しお腹がへってきたところです。行きましょう」
俺とガントさんは宿屋を出て宴会が行われている場所へと向かった。
少し歩くと目的の場所へすぐに着き、俺達に気付いたゾンガさんとシングが。
「よく来てくれたユーマ殿。今日は楽しんでいってくれ」
「兄ちゃん、これ俺が仕留めたグロースラビッツの丸焼きだぜ! めっちゃ美味しいからいっぱい食ってくれよな!!」
ほう、これがグロースラビッツの肉か。
確かにこれは美味そうだ。それにしても、やっぱり丸焼きなんだな。
「どう兄ちゃん、美味しいでしょ!?」
「もぐもぐ……ああ、これは絶品だな。めちゃくちゃ美味い」
「やった。じゃあ俺は向こうでみんなと遊んでくるから、また後で!」
そう言い残しシングは元いた場所へと戻っていく。
そこには、年の近い子供達と笑顔で遊んでいるシングの姿があった。
隣にいるゾンガさんはその光景を本当に嬉しそうに見つめ、そして言った。
「ユーマ殿、シングを救ってくれて本当に感謝する」
「いえ、俺はほんの少しだけシングの話を聞いただけです。あそこでああして笑っていられるのは、シング自身が頑張った成果です」
「本当に謙虚じゃのう。さて、わしらも宴会を楽しむとするか」
「ですね。それにしても宴会とはいってもここまでの規模になるとは思ってもいませんでした。村の住人のほとんどが参加してそうですね」
「うむ、ユーマ殿の言う通り、すべての村人が参加しておるようじゃよ。わしが確認したので間違いはないじゃろう」
凄いなゾンガさん村人すべての顔を覚えているのか。流石は村長だ。
それにしても全員参加は素直に凄いな。改めてバリス村はいいとこだと実感する。
そうして宴会をのんびり見ていると、少しの違和感に気付く。
あれ、村人全員参加って言ってたのに、あの人はいないのだろうか。
「そういえば、ゾンガさんの家にいたお手伝いさんは宴会に来てないんですか?」
「わしの家のお手伝い? 誰の話じゃそれは」
「やだな。俺が前日にゾンガさんの家に行った時にいた人ですよ」
「済まん、ユーマ殿が何を言っておるかわしには理解できん。まず最初に、わしの家にお手伝いなんておらんぞ。ここ数日でわしの家に入ったのはユーマ殿とシングだけじゃ」
ゾンガさんの言葉を聞き、心臓の鼓動が一気に早くなるのを感じる。
気付いた時には、俺はその場から駆け出していた。
そして数分後、辿り着いた先に、俺の探している人物はいた。
「おや、ここに何か用でしょうか首狩りのユーマ様。現在は確か宴会の最中だったはずですか。私に何か御用でも?」
「あなたは。いや、お前は誰だ」
「はて、いきなり誰だと申されましても。私はただのお手伝いなんですが」
「とぼけなくていい。村人全員の顔を覚えているゾンガさんがお前の事を覚えていないと言った。しかもだ、俺の記憶が正しければお前とゾンガさんは先日に顔を合わせている。そんな相手の事を覚えていないなんて有りえないだろ? いいか、もう一度だけ聞くぞ。お前は誰だ」
俺のその言葉に、目の前の男は観念したように両手を上げ答えた。
「はあ、そろそろ魔法が切れる頃だとは思っていたんですよ。昨日のシング君が私に対して敵意むき出しだったのもその兆候だったのかもしれませんね。はあ、せめてあなたがこの村を出発するまで持てばと思ったんですが、上手くいかないものです」
「つまり、お前はゾンガさんとシングに魔法をかけていたって事か」
「まあそんな感じです。それではご要望通り自己紹介といきましょうか。私だけあなたの名前を知ってるのは不公平ですからね。ふふ、人間相手にするのは数十年ぶりなんて緊張しますね」
緊張すると言いながらも、目の前の男はどこか楽しげだ。
そして、俺が見た中で最上ともいえるお辞儀をしながら自身の正体を明かした。
「私の名はランビリス。魔人ランビリス・レゾムと申します。以後お見知りおきを、首狩りのユーマ様」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
それから評価やブクマなどいつもありがとうございます。
これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。




