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第100話 仲直り

今月十日に書籍版「引きこもりだった男の異世界アサシン生活」が発売します。

書籍はWEB版を改稿した物に追加のストーリーや書き下ろしの番外編が追加という形になります。

これからはWEB版と共に、書籍版も気にかけて貰えると幸いです。


 本当によく戦った。俺は腕の中で眠っているシングに心から称賛を送る。

  

 正直に言ってしまうと、俺は最初にシングが攻撃を食らった時点でほとんど勝負を諦めていた。あの攻撃を食らって立てるわけがない、そう思ってしまったのだ。

 しかし、シングは決して諦めはしなかった。バリス村のみんなを守るため、亡き父の仇を討つため、そういった強い思いがシングを勝利へと導いたのかもしれない。

 俺は基本的に精神論は信じないのだが、今回ばかりはそうあってほしいと思う。

 

 さて、色々考えるのはこれくらいにしておいて、まずはシングの怪我の治療をするとしますかね。そう考えシングの体を木に預け、回復魔法を発動する。


「【ヒール】」


 魔法を発動させると、いつも通りの青白い光が出現してシングの体を包み込み、体の傷を癒していく。そして光が収まる頃には、怪我の影響か少し荒かったシングの寝息が穏やかなものへと変化していた。この様子だと治療は無事に成功したようだ。


「よし、これでもう大丈夫だろ。後はさっさとバリス村へ帰るだけだな。おっとその前にやる事があったか」


 俺はシングを背負い、背後のそのまま放置してあるグロースラビッツの死体へ目を向ける。折角シングが倒したんだ。このまま放置しておくわけにはいかない。そう思い、グロースラビッツをアイテムボックスの中へ収納する。

 

 さて、これでファリス森林での用事はすべて終わった。

 さっさとバリス村へ帰るとしますかね。

 そうして俺とシングはファリス村の出口へ向かい歩を進めていった。



 =======================

 


 あれから数十分後、魔物に遭遇する事もなく順調に歩き続けている。

 その結果、ファリス森林を早々に抜け、もうすぐでバリス村が見えてくる位置まで俺達は来ていた。

 さて、そろそろ到着なのでシングを起こすとしますかね。

 俺がそう思った直後、俺の背で眠っているシングが丁度よく目を覚ます。


「……あれ、ここは。兄ちゃん?」


「目を覚ましたみたいだなシング。体の調子はどうだ? 回復魔法をかけたから大丈夫だとは思うんだが」


「うん、体調は問題ないよ。それより、兄ちゃんって回復魔法まで使えるんだ。父ちゃんが回復魔法が使える魔術師はあんまりいないって言ってたのに。やっぱり凄いや兄ちゃんは!」


「まあ、最近使えるようになったばかりだけどな。それよりシング、もうすぐバリス村に着くんだが、体調が治ったのなら自分で歩くか?」


 俺がこんな質問をした理由は、シングくらいの年頃だと背負われてるのを見られるのは恥ずかしいかなと思ったからだ。

 まあこの考えは俺の勝手な思い込みだったようで、シングは小さく首を振り、もう少しだけこのままでいさせてと言った。

 

 なぜシングがこのような選択をしたのか、答えはすぐに分かった。

 おそらく、シングは昔の事を思い出しているのだろう。まだ父親が生きていた頃を。その証拠に、シングは俺の背で小さく父ちゃんと呟いていた。

 そんなシングに掛ける言葉なんて俺にはなく、そのまま黙ってバリス村まで歩いて行った。


 そしてバリス村の門が見えてくる位置まで来ると、少しいつもと違う事に気付く。入り口である門の前に数十人を超える人々が集まっているのだ。

 その中にはガントさんやマリアさんの姿もある。そして、集団の先頭に立っているのは村の村長でありシングの祖父であるゾンガさんだ。


 その光景を目にしたシングはビクッと体を小さく震わせる。そして体を小さくして俺の背に隠れてしまう。

 そんなシングに俺はなるべく優しく声を掛けた。


「なあシング。昔を思い出すのはいい。昔を懐かしむのもいい。ただ、それだけじゃだめだと俺は思う。そろそろ、前に進む時なんじゃないか?」


「ごめん兄ちゃん、やっぱり俺、怖くて……」


「分かってるさ。お前は大好きな村のみんなに拒絶されるかもしれないのが怖いんだよな。けどそんな事は有りえないと俺が断言してやるよ。間違いなく、バリス村のみんなはお前の事を本気で心配して本気で仲直りしたと思ってる」


「そんな事、分かるわけ……」


「分かるさ。嘘だと思うならあそこで俺達の事を待っている人達の表情を見てみな。きっと俺の言っている事が真実だって分かる」


 俺がそう断言すると、シングは恐る恐る俺の背から顔を出す。

 そしてバリス村の人達の表情を見て、ぼそりと一言。


「みんな、凄い心配そうな表情してる……」


「だろ? あの人達はみんなお前の事を心配で待ってたんだよ。まあ俺の事を心配で待っててくれた人も少しくらいはいるかもしれないけどな」


「じいちゃんも、凄い表情してる。今にも泣き出しそうな」


「ああ、ゾンガさんか。よっぽどお前の事が心配だったんだろな。なんせ討伐にいった孫が俺に背負われて帰ってきたんだ。普通なら何か怪我でもしたんじゃないかと思って不安になるさ」


「じいちゃんが、みんなが俺の事を心配して……」


「そうだ。洞窟でも言ったが、みんながお前を待っている。まだ不安はあるか?」


 俺のその問いにシングは小さく首を横に振る。

 その答えに俺は満足して、背にいるシングをそっと地面に下ろす。

 そしてシングの背中をパンと少しだけ強めに叩き。


「行って来いシング。とっとと仲直りしてきな」


「うん、行ってくるよ兄ちゃん!」


 俺にそう言い残し、シングは村のみんなの元へと走って行き、真っ先にソンガさんへ抱き着き、涙ながらに色々ごめんなさいと謝っている。

 そんなシングにゾンガさんは、わしの方こそ済まんかったと泣きながらシングを抱きしめる。そして周りの人達も俺達の方こそ悪かった、長い間放っておいてごめんなどと言いながらみんなで泣きじゃくっていた。


 この様子だともう心配はいらないみたいだ。

 それにしても、この光景は中々に凄いな。なんせこの場に集まっているのはバリス村の住人ほぼすべて。そのほとんどが泣きじゃくっている状態なのだ。これは収拾がつくまで当分かかりそうだ。そう思い少しため息をつきながらも、今日ばかりはそれでもいいかなと思うのであった。



読んでいただきありがとうございます

これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。

最後にブクマや評価ポイントなどいつもありがとうございます。

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