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閑話 マルブタの罪滅ぼし2


 

 数時間前、俺とまだ元気に喋っていたマルブタ。

 そのマルブタが、今は俺の目の前で血だらけで横たわっている。

 どうしてこうなった。一体、誰がこんな事をした。

 そういった疑問が一気に俺の頭に浮かぶが、すぐに我に返り。


「おい、大丈夫かマルブタ!」


 俺は血だらけのマルブタに近づき、その体を抱き上げる。

 こんな事をすれば俺の服も汚れてしまうのだが、今はそんな事はどうだっていい。いざとなれば水魔法で洗浄すればいいだけの話。


 それより、今はまずマルブタをどこか落ち着ける場所へと運ばなくては。

 こんな人の多い場所では落ち着いて怪我の確認すらできない。

 そう考えた俺はマルブタを背負い、ギルドの中へと入っていく。

 すると、血まみれのマルブタを目にした周囲の冒険者達からざわめきが起こる。


「おい、あいつマルブタじゃねえか。なんで血まみれなんだ?」


「まぁ依頼を失敗したか、冒険者ともめ事でも起こしたんじゃねえのか?」


「いや、最近のマルブタの態度を見てたら、もめ事って線はねえと思うぜ」


 そんな冒険者達の言葉を無視して、メルさんの元へ急ぐ。

 メルさんは俺の背にいるマルブタにすぐに気づき、焦った様子で。


「マルブタ君、血だらけじゃない! 何があったのユーマ君!?」


「俺もついさっき見つけたばかりなので、詳しくは分かりません。それよりもメルさん、マルブタを落ち着ける場所へ移動させたいのですが、ギルド内にそういった場所はないでしょうか?」


「……分かった、付いてきて。空き部屋に案内するわ」


 メルさんの言葉に従い、ギルドの中にいくつかあるらしい空き部屋へ向かう。

 そして空き部屋へ到着すると、マルブタをベッドに寝かせ、怪我の状態の確認を始める俺とメルさん。


「これは、見た目ほどひどい怪我ではないようですね。大量の血の原因は、鼻を折られた事による出血のようです」


「それでも顔だけで数十回は殴られてる。十分重症よ。すぐにギルドの治療係を呼んでくるわ!」


「あーメルさん、その必要はありませんよ。治療は、俺がやりますので」


「……え、ユーマ君が治療って、どういう事なの?」


「こういう事ですよ。【ヒール】」


 俺はマルブタに手をかざしヒールを発動させる。

 そこそこの魔力を込めているため、サリーの時とほぼ同程度の青い光が出現し、マルブタの体を丸ごと包み込んでいく。

 そして光が収まったとき、マルブタの体の傷は綺麗さっぱりなくなっていた。

 俺は無事に治療が終わった事にホッと一息つき、隣で今だに呆然としているメルさんへと声を掛ける。


「メルさん、傷の治療は終わりました。後はしばらく寝かせておいてください」


「……は、ユーマ君、今の魔法はどういう事なの!? あんな強力な回復魔法が使えるなんて聞いてないわよ!」


 そう言ってメルさんは割と凄い形相で俺に迫ってくる。

 せっかくの美人がそんな顔してたら台無しだな、と心の中で思ったのは内緒だ。


「言う必要がなかったので言わなかっただけですよ。それよりメルさん、一つだけ質問があります。マルブタがこうなった原因、心辺りありませんか?」


「はあ、まあいいわ。えーとマルブタ君の怪我の原因だけど、今のところ私に心辺りは……あ、ちょっと待って」


 メルさんは何かを考え込むように黙り込む。

 もしかしたら何か知っているのかもしれない。そんな希望を胸に、俺はメルさんが再び喋り出すのをじっと待つ。

 そして数十秒が経とうとした頃、メルさんは何か思い出したように。


「ユーマ君がマルブタ君をギルドに連れてくる少し前、服に血が付いてる冒険者がギルドにいたわ」


「なるほど、しかし冒険者の服に血がつくなんて、よくある事なのでは?」


「そうね、普通なら私もそう思うわ。けど、あの冒険者はこう呟いていたのよ。謝ったって許すわけねえだろマルブタの野郎ってね」


 メルさんの言葉を聞き、マルブタの身に何が起こったのかを理解した。

 つまり、マルブタは喧嘩した相手に謝りに行って、あれだけ殴られたという事か。

 正直これを聞いただけでも結構な怒りが湧いてくるのだが、もう一つ重要な事を俺はメルさんに質問する事にした。


「ねえメルさん、マルブタはその冒険者によっぽど酷い事でもしたんでしょうか?」


 もし、マルブタがその冒険者にそれ相応の事をしていたのなら、あれだけ殴られるのも理解はできるし我慢もできる。

 しかし、メルさんから帰ってきた答えは俺の予想を裏切るもので。


「いえ、あくまで聞いた話だけどただの口喧嘩だったらしいわ。しかも口喧嘩の発端は相手の冒険者からだったとか」


「……そうですか。メルさん、その冒険者の外見、教えて貰ってもいいですか?」


「えと、長髪に長めのコート。それに剣を二本腰に差してるわ……ってユーマ君、もしかして!?」


「ありがとうございます。それでは、俺は少し出かけてきますので、偶にマルブタの様子を見てやってくれると嬉しいです」


 メルさんにそう言い残し、俺は部屋から出るため扉へと歩いて行く。

 すると、俺がドアに手を掛けるとほぼ同時に扉が開き、扉の向こうからイグルが焦った様子で部屋へ飛び込んできた。


「ユーマ、マルブタがやられたって聞いたぞ!!」


「話が早いな。まあマルブタなら今は大丈夫だ。怪我もすべて治り、ゆっくり寝ているところだ。そうだ、丁度いいから当分マルブタの様子を見てやってくれないか?」


 イグルはマルブタの怪我が治ったと聞いて一安心のようだ。


「ふう、血だらけって聞いてたから安心したぜ。それよりユーマ、お前はこれからどこ行くつもりなんだ? その様子だとジニアに帰るってわけじゃないんだろ?」


「ああ、マルブタの件で少し話し合いにいくところだ。多分、それなりに時間がかかると思うから、それまでマルブタの事は頼むな」


「……そっか、分かった。マルブタの事は俺に任せて行ってきな!」


「助かる。じゃあまた後でな」


 そう言い残し、今度こそ部屋から出ていく。



================ 



 目的の人物が見つかったのは、それから数十分後だった。

 おそらくあいつで間違いないだろう。

 メルさんの話してくれた外見の情報とも一致している。

 さて、まずはどの程度の実力を持っているか、鑑定してみるとするか。

 そう考え鑑定を発動して相手のステータスを確認する。


 オリーサルLv22

 力  24

 体力 27

 素早さ22

 幸運 11


 弱いな。明らかにマルブタよりも一回り弱い。

 こいつが相手なら間違いなくマルブタが遅れをとる事はない。例え不意打ちされたとしても、いくらでも反撃の手段はあったはずだ。

 それなのに、こいつの体には一つも傷がない。てことはつまり、完全に無抵抗だったマルブタをあれだけ執拗に殴ったと言う事か。


「おっと、やばいやばい」


 ここから見ているだけでも、怒りが抑えられなくなってくる。

 さっさと始めるとしますかね。

 俺は冒険者オリーサルの前方へ姿を現す。


「ああん、なんだお前は。俺に何か用か?」


「本題から入ろう。マルブタをやったのかお前だな?」


 俺がマルブタの名前を口にすると、オリーサルはその顔を笑みを浮かべ。


「ああ、お前あのブタ野郎の知り合いか? てことはお前があの首狩りのユーマか。なんだ、まだただのガキじゃねえか」


「俺の事はどうでもいい。マルブタをやったのはお前かと聞いているんだ」


「くく、せっかちな野郎だな。まぁいい。確かにあのブタ野郎をやったのは俺だよ」


「なぜ、マルブタをやった。お前とマルブタの因縁はただの口喧嘩。あそこまで痛めつける必要はなかったはずだ」


 俺がそう疑問をぶつけると、オリーサルはゲスな表情を浮かべ。


「なんでやったかだと? んなもん気に食わねえからに決まってんだろ。いやぁ、あのブタ野郎まじで傑作だったわ。なんせいくら殴っても反撃はおろか逃げだす事もしないんだもんよ。お陰でいいストレス解消になったわ」


「お前は、その行為に少しも反省していないのか?」


「反省? そんなもんするわけねえじゃねえか。むしろこれから先もあいつには俺のサンドバッグになってもらうつもりだぜ。いくら殴っても抵抗しないとか最高じゃねえかよ。あのブタ野郎も少しは人の役に立てて感謝してるんじゃねえか?」


 そのゲスな表情が、今語った事が真実だと物語っている。

 済まんマルブタ。お前は我慢したっていうのに、俺は我慢できそうにない。

 俺はオリーサルに向かいゆっくり殺気を放ちながら近づいていく。

 するとオリーサルは流石に少し恐怖しているようだが、すぐにゲスな笑みを浮かべ、俺の肩に手を置きながら言った。


「くく、いいのかい首狩りさんよ。ここであんたが手を出したら、あのブタ野郎の立場まで危うくなるんじゃねえのか?」


「その心配は不要なので安心していいぞ。今回は痕跡を残すつもりはないからな」


「ああ? てめえ何言って……」


 オリーサルが最後まで言葉を言い切る前に、俺はオリーサルの手首を掴み、そのまま力を入れ握り潰した。


「……が、があああああああああああああああ!!」


 オリーサルが余りの痛みに地面に転がり込む。

 無理もない。骨を折ったのではなく、ゆっくり握りつぶしたのだ。

 その痛みはおそらく想像を絶するだろう。

 オリーサルはそれから少しの間、痛みで叫び続けていた。

 さて、そろそろいいかな。そう思い俺は魔法を発動させる。


「【ヒール】発動」


 魔法が発動して、オリーサルの手首が正常な状態へと戻っていく。

 ほう、この状態の手首でも数秒で治るのか。流石はレベル4の回復魔法だ。

 そして自分の手首が正常な状態へ戻るのを呆然と見ているオリーサル。

 やがて元に戻った手首を確認するように動かし、俺に敵意のこもった視線をぶつけてくる。


「てめえ、これは一体どういう事だ。こんな事してただで済むと思ってんのか!?」


「ん、何か問題でもあるのか? 怪我はちゃんと治してやったろ?」


「そんな戯言が通用するとでも……」


「通用するんじゃないか? だってお前の体には怪我の痕跡すら残っていないんだからな。さて、下らない話はこれくらいにして、続きといこうじゃないか」


 そう言い、俺がオリーサルにゆっくり近寄っていく。

 そんな俺が不気味だと感じたのだろうか。おびえた様子で話し出す。


「て、てめぇ、これ以上何をする気なんだ!」


「何言ってるんだ、むしろここからが本番じゃないか。これからお前の心が折れるまで、一本ずつ骨を握りつぶしていく。ゆっくりとな。ああ、安心してくれ、ちゃんと回復魔法はかけてやるからさ」


「く、来るな! こっちに来るんじゃねえ!!」


「ふむ、まずは逃げにくいように足から潰しておくか。さて、始めよう」


 それからしばらくの間、オリーサルの悲鳴が止まる事はなかった。

 ここら辺が人気の少ない地域で助かったな。



「……もう……勘弁してください……」


 オリーサルがそう申し出たのは作業開始から数時間後。

 体中の骨をあらかた握りつぶした後の事だった。


「中々に持った方だな。俺の想像以上、流石は冒険者といったところか」


「……もう、あなたには手を出しませんので……どうか……」


「違う、俺にじゃない、マルブタに手を出さないと誓え。そしたら今日はこれで終わりにしてやる」


「分かりました……今後、マルブタには一切手は出しません……誓います」


「それでいい。だが覚えておけ。お前がもし約束を破るような事があれば、今日以上の地獄を見ることになる。そうならないように気を付けるんだな」


 最後にオリーサルにヒールをかけこの場から離れる。

 さて、予定よりも少々遅くなってしまったが、マルブタ達が待っているだろうし、ギルドに向かうとしますかね。



 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 続けて閑話を投稿させて頂きました。

 次の話からはおそらく本編に戻ると思います。

 それから評価やブクマなどいつもありがとうございます。

 これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。

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