閑話 首狩りのユーマVS灼熱のグレン
「ユーマ、俺と模擬戦闘しねえか?」
大侵攻が無事に終わり数日が過ぎた頃。
俺がいつも通りギルドで依頼を探していると、メルさんが声を掛けて来た。なんでもギルドマスターであるグレンさんが俺に話があるとか。
グレンさんが俺に話なんてまた何か問題でも起きたのだろうか。そう考え少し緊張しながらグレンさんの元へ向かったのだが……。
「あの、俺に用事って、もしかしてそれだけです?」
「おうよ。俺は思えばお前の戦ってる姿をほとんど見たことねえからな。この機会におめえの実力をギルドマスターとして正確に確かめておきたくてよ」
ふむ、俺の実力をギルドマスターとして確かめるか。
まぁ一応筋は通っている。自分のギルドに所属している冒険者の実力を把握しておくのもギルドマスターとしては重要な事だろう。
「なるほど、グレンさんの事情は大体理解しました。しかし、それだけが理由ですか? 何か隠してる事があるんじゃないですか?」
「か、隠してる事なんて、ねえよ……」
そう言って俺から目を逸らし口笛を吹くグレンさん。
だめだ、どう考えても怪しすぎる……。
同室にいるメルさんも俺と同意見のようでグレンさんをジーと見つめている。
やがてグレンさんはこの空気に耐えきれず観念したようで、俺に小さく頭を下げながら本音を暴露した。
「すまねぇ、本当は俺がお前と戦いたかっただけなんだ……」
「はぁ、それならそうと最初から言ってくださいよ。別に模擬戦闘くらいなら付き合いますから」
「本当か、恩に着るぜユーマ!!」
俺が模擬戦闘を受けると話すと、グレンさんは椅子から立ち上がりまるで子供のように喜んでいた。
それを見ていたメルさんが若干呆れながら俺に小声で。
「ユーマ君、本当にいいの? 別に断っちゃってもいいのよ?」
「グレンさんにはお世話になっている事だし、模擬戦闘くらいなら構わないですよ。それに、俺にもいい経験になりそうですからね」
俺がグレンさんとの模擬戦闘を受けた理由は二つある。
一つ目はさっき言った通りグレンさんにはお世話になっているから。そしてもう一つは、高レベルの対人戦闘を経験しておきたかったからだ。
思えば俺はこの世界に来てから強い魔物とは戦ってきたが強い人間とは戦ったことがない。グレンさんは以前ステータスを見た限り十分強者だ。この機会に例え模擬戦闘でも戦っておきたかったってわけだ。
「それならよかったわ。それじゃ模擬戦闘は今から一時間後、ギルドにある修練場で行うって事でいいかしら?」
俺はメルさんの言葉に小さく頷き、グレンさんは嬉しそうにいいぜと答えた。
そしてそれから丁度一時間後。
戦闘の準備を整え修練場に向かうと、そこには多くの冒険者の姿があった。
冒険者達は俺が到着すると小さな声でこそこそ話し始める。
「おい見ろよ、首狩りが来たぜ」
「ああ、どうやらギルドマスターとの模擬戦闘ってのは本当だったらしいな」
「そんでおめえらどっちが勝つと思うよ? 俺は当然首狩りだけどよ」
「俺も首狩りだな。なんせ大侵攻をたった一人で止めちまったんだ。さすがのギルドマスターだって首狩りには勝てねえだろうよ」
ほう、随分と俺の評価も上がったもんだな。
まぁ今はそんな事どうでもいい。目の前の相手に集中だ。
「よく来たユーマ。待ちくたびれちまったぜ」
「時間は丁度だと思うんですがね。それよりグレンさん、肩に力が入っているようですが大丈夫ですか? たとえ模擬戦闘でも俺は手加減しませんよ?」
挑発とも取れる俺の言葉にグレンさんはほとんど耳を傾けず笑みを浮かべている。いつもの笑みとは違う、大好きな戦闘を前にした凶悪な笑みを。
それじゃ、俺もそろそろ準備するか。俺はいったん目を瞑り思考を戦闘モードへと移行させる。そして目を開くと同時に俺とグレンさんの間に重苦しい空気が流れ始めた。
「くく、いい気迫だユーマ。ついつい昔を思い出しちまうな!」
「グレンさんの言う昔ってのはよく分かりませんが、そろそろ闘りませんか?」
「俺もそうしてえところだが、その前にやる事がある、メル、説明頼むぜ」
グレンさんの合図でメルさんが前に出る。
どうやら模擬戦闘の説明をこれから行うようだ。
「それでは説明を開始します。まずお互いの使う武器ですが、こちらで用意した物を使って頂きます。次に勝敗についてですが、相手の背中を地面につける、相手の武器を破壊するののどちらかを満たした方の勝ちとします」
なるほど、模擬戦闘では自分の武器は使えないわけね。まぁその方が公平だと思うし特に問題はないな。
俺はメルさんから銅のナイフを受け取り、グレンさんは銅の大剣を受け取った。
「最後に一つ、審判である私が終わりだと判断したらその時点で戦闘は終了となりますのでお忘れなく。それではお二人とも、準備はよろしいでしょうか?」
メルさんの言葉に俺とグレンさんは武器を構え頷いた。
それを確認したメルさんは修練場の端っこまで走って行き。
「それでは、首狩りのユーマ様VS灼熱のグレン様、戦闘開始です」
戦闘開始の合図とほぼ同時、修練上の真ん中で俺のナイフによる斬撃とグレンさんの大剣による斬撃が激突した。
お互いかなりの力を入れていたようで衝撃はかなりのもの。激突の瞬間、俺とグレンさんの周囲に衝撃波が吹き荒れた。そしてその衝撃でグレンさんの体が少し後方へと流される。
グレンさんはまさか自分が力負けするとは思っていなかったらしく少し驚いていたようだが、すぐに表情に笑みを浮かべ嬉しそうに叫んだ。
「くく、まさか俺が力負けするとは、ユーマ、お前は最高だ!」
「それはどうも。では、どんどんいきますよ」
そう言葉を発すると同時に、俺はグレンさんの目の前へ一瞬で移動してナイフによる斬撃を放っていく。
グレンさんは大剣でなんとかガードしているようだが、武器による影響もあるだろうがこちらの方が圧倒的に攻撃速度は上。瞬く間にグレンさんの体に斬撃による切り傷が増えていく。
グレンさんも黙ってやられているわけではなく、俺の攻撃の僅かな隙を狙って大剣による攻撃を放ってはいるが、俺はその攻撃を背後に少し後退することで避け、そして再び攻撃を加えていく。マルブタが使っていたヒット&アウェイだ。
これにより俺の攻撃は休まることなくグレンさんを襲い、模擬戦闘は一方的な展開で進んでいった。
そして模擬戦闘開始から数十秒が経過した頃。
「はぁはぁ、ちくしょう……」
絶え間ない俺の攻撃でグレンさんの体力は限界に達しているようで、立っているのも辛いのか地面に膝をついてしまう。
ここまでかな。そう思いメルさんの方をチラリと見ると小さく頷き前へ出る。
「審判である私の判断により、灼熱のグレン様のこれ以上の戦闘続行を不可能と判断して、勝者は首狩りのユーマ様とします」
メルさんが戦闘終了を告げると、周りの冒険者達から一斉に歓声が上がる。
そして各々に今の戦闘について熱く語り始めていた。
まぁ俺はそんな話に興味はないので、地面に座り込んでいるグレンさんの元へ。
「グレンさん、お疲れ様でした」
「ユーマか、済まねえな。俺から勝負挑んだくせに不甲斐ないとこ見せちまってよ」
「そんなことはないですよ。俺にとってもこの模擬戦闘はいい経験になりました。グレンさんさえ良ければまた戦ってくださいね」
俺がそう言うとグレンさんは元気を取り戻したようだった。
ちなみにこの時の発言のせいでこれから数日間、グレンさんに模擬戦闘しようぜ~と付きまとわれる羽目になるのを、この時の俺は知る由もなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
本編が少し行き詰っているため閑話を投稿させて頂きました。
おそらく次の話から本編へ戻ると思います。
それから評価やブクマなどいつもありがとうございます。
これからもこの調子で頑張っていくのでよろしくお願いします。




