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勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――13

 しかし、エリーゼ先輩の切り替えは早かった。


「『ストンプクエイク』!」

『GOOOOHH……!』


 即座に指示を出し、ファブニルがゆっくりと右前足を上げていく。


『50%の確率で、相手のAGIを10%減少させる』追加効果を持つ物理攻撃スキル『ストンプクエイク』。空中にいるモンスターには通用しないが、追加効果の発生率が高い、優良スキルだ。


 4秒あるチャージタイムのあいだに、レイスビショップが動いた。


『AAAAAAAAHH!』


 クロスさせていた両腕を振り抜き、黒い陽炎が三日月となって放たれる。ダーククレセントの発動だ。


 黒い三日月が、ストンプクエイクの準備をするファブニルを襲う。


『GOOOOOOHH!』


 ファブニルがのけ反り、HPが1/6削られた。


 だが、やられてばかりではない。


『GOOOOOOOOHH!』


 ストンプクエイクが発動。ファブニルがステージを踏み鳴らし、生じた衝撃波が大地を駆ける。


 衝撃波は、地響きを(ともな)ってレイスビショップに(せま)り、


『AAAAAAHH……!!』


 HPを一気に半分削った。


 当然の結果だろう。単純な力比べで、アースドラゴンがレイスビショップに負けるわけがない。


 一騎打ちならば、ファブニルの圧勝だ。


 しかし、敵はレイスビショップだけじゃない。


「ここからが本番っすよ、エリーゼ先輩」


 HPが半分になったことで『転移の指輪』が発動し、レイスビショップの姿が消える。


 ジェイクがレイスビショップに『転移の指輪』を装備させたのは、役目を果たさせてから、(すみ)やかに引っ込めるためだろう。


 トリックシフトと同じく、隙を作らずに交代できるのもポイントだ。


 敵ながら見事としか言えない。


「お膳立(ぜんだ)ては整った」


 ジェイクが口端をつり上げた。


 消えたレイスビショップの代わりに、2番手の従魔が姿を現す。


「暴れてこい、マッディーデーモン」


『悪魔』という表現が、なによりも相応(ふさわ)しかった。


 赤黒い、毛むくじゃらの体は、3メートルはあろうかという巨躯(きょく)


 腕は丸太ほど太く、手にはナイフのように鋭い爪。


 大きく裂けた口には、(くい)の如き牙が並んでいる。


 双眸(そうぼう)は、火の玉のように爛々(らんらん)と輝き、羊のそれに似た、真っ赤な角が2本、側頭部から()えていた。


『GOAAAAAAAAAAAAHHHH!!』


 本能的な恐怖を呼び起こす雄叫びが上がり、観客たちが青ざめる。


「ここにきて、そいつかよ……」


 俺は顔をしかめた。




 マッディーデーモン:110レベル




 闇属性のモンスター『マッディーデーモン』は、『狂乱(きょうらん)』という固有アビリティを持っている。


 その効果は、『攻撃スキルしか扱えず、スキルの追加効果も発動しない』。かなりのデメリットになる固有アビリティだ。


 だが、デメリットを帳消(ちょうけ)しにして、なお余るほど、マッディーデーモンのステータスは高い。


 STR、INTともにトップクラス、VITとMNDも非常に高い。HPが低いこと以外、()()(どころ)のないステータスだ。


 そんなバケモノじみたステータスが、『闇の教典』によって引き上げられている。率直(そっちょく)に言って悪夢だろう。

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