勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――5
ふたつ目の雷球がユーを襲う。
ユーがロングソードで防御し、小さな幽霊たちの『報復攻撃』で、ティアのHPがさらに削られた。
ティアの残HPは1/4。もう一度『報復攻撃』を食らうと戦闘不能になってしまう。
しかし、雷球はあとひとつ残っている。
「どうします、ミスティ先輩?」
「くっ!」
苦々しげに歯噛みしながらも、ミスティ先輩の決断は早かった。
「『イモレイトカース』!」
『ララー……!!』
ティアが両腕を広げ、天を仰ぐ。その体から黒いオーラが立ち昇った。
同時、ユーの足もとからも黒いオーラが滲み出てくる。
事態をつかめないのか首を傾げるユーを、黒いオーラが包み込んだ。
『ムゥ……』
黒いオーラに包まれたユーが、怠そうに項垂れる。
一方、黒いオーラを生み出し終えたティアは、フラリとよろめいた。
『ラー……』
寂しげに一鳴きして、ティアが魔石へと姿を変える。
ティアの最後の行動を見届けて、俺は一言。
「潔い」
やはりミスティ先輩は優秀だ。窮地に陥りながら、最善の手を打ってきたんだから。
ティアが用いたイモレイトカースは、チャージタイム0秒の魔法スキル。
その効果は、『戦闘不能になる代わりに、相手モンスターの全ステータスを40%減少させる』だ。
チェインライトニングがキャンセルできない以上、ティアの戦闘不能は回避できない。
そう悟ったミスティ先輩は、ティアで戦うことを諦めて、次の従魔のサポートをさせようと決めたんだ。
ただ戦闘不能になるよりは、イモレイトカースでユーを弱体化させたほうが、遥かにマシだから。
しかも、ティアの最後の仕事は、ユーの弱体化だけではない。
ステージ上に、シトシトと雨が降り出した。
キラキラと輝きを放つ、どこか神秘的に映る雨だ。
この雨は、ティアの固有アビリティ『願いの雨』が降らせたものだ。
『願いの雨』の効果は、『戦闘不能になった際、味方モンスターの全ステータスを10%上昇させる雨を降らせる』。
ティアは、自分が戦闘不能になる代わりに、支援と妨害を行ったんだ。
ミスティ先輩は、普段のお淑やかさが嘘のように、気迫に満ちた顔付きで俺を見据えていた。
この世界に転生してから、ここまで高レベルの駆け引きをしたことがあっただろうか?
堪らない。
きっと俺の脳内では、アドレナリンがドバドバ生成されているだろう。
高揚に口端をつり上げながらも、俺は冷静に指示を出した。
「交代だ、ユー!」
『ムゥ!』
ユーがスチャッ、と敬礼して、俺の元に戻ってくる。
聡明なミスティ先輩のことだ。ベンジャーレイスが『報復攻撃』スキルだってことは、見抜いているだろう。
ユーを残したとしても、ミスティ先輩が不用意に攻撃を仕掛けてくることはない。
そして、『防御態勢』をとりながらではスキルは使えないため、アンガーブリングで相手を『怒り』状態にすることもできない。
よって、ミスティ先輩がとるだろう選択肢は、『待ち』一択だ。
時間が経って『防御態勢』が解除されれば、ミスティ先輩はユーにダメージを与えられるようになる。
ユーのステータスはイモレイトカースで下げられているし、ミスティ先輩が繰り出す従魔は、『願いの雨』で強化される。
『防御態勢』でなくなったユーは、ミスティ先輩の従魔にボコボコにされるだろう。場合によっては、一撃ダウンもあり得る。
だから、ここは交代が最善なんだ。




