勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――2
本戦が開始された。
問題なく1回戦を勝ち進み、俺は2回戦の相手と、ステージ上で向かい合っていた。
「やっぱり勝ち上がってきましたか。セントリア従魔士学校ナンバーワンは伊達じゃないっすね」
「マサラニアさんこそ、流石です」
俺たちは互いを称え合う。
そう。俺の2回戦の相手は、ミスティ先輩だ。
ミスティ先輩が微笑みながら尋ねてくる。
「約束を覚えていらっしゃいますか?」
「もちろんっす。ミスティ先輩が勝てば、俺は先輩とお試し交際する」
「マサラニアさんが勝たれれば、わたくしは、あなたの言うことをなんでも聞く」
改めて確認すると、勝っても負けても俺には得しかしないな。破格すぎるだろ、この約束。
まあ、勝負事である以上、負けるつもりなんて微塵もないけどな。
俺は宣言する。
「勝たせてもらいますよ」
「わたくしも負けません。初恋を叶えるために」
ミスティ先輩の浮かべる笑顔の質が変わった。
たおやかさは鳴りをひそめ、闘士の如き雄々しさが漂っている。
俺はミスティ先輩の顔を真っ向から見返し、ニィ、と好戦的に笑った。
『それでは、両者構え!』
審判が右手を挙げ、俺とミスティ先輩は、それぞれ魔石を取り出す。
『――はじめ!』
審判が右手を振り下ろす。
同時、俺とミスティ先輩は、従魔を呼び出した。
「来い、ユー!」
「参りましょう、チェシャ!」
『ムゥ!』
『ミャオ!』
1番手にユーを選んだ俺に対し、ミスティ先輩が繰り出したのは、アビシニアンに似た、紫色の猫型モンスターだ。
その顔には、イタズラ小僧のようなニマニマ笑いが浮かんでいる。
身にまとうのは、淡い光を放つ布。『相手のDEXを10%下げる』効果を持つ装備品、『光の羽衣』だ。
ミスティ先輩の1番手は、彼女が最初に授かった従魔だった。
アートフルキャット:105レベル
アートフルキャットは闇属性で、AGIとDEXこそ優れているが、それ以外は低い。ステータスだけを見れば、なんの脅威にもならないモンスターだ。
しかし、俺は警戒を怠らない。
ミスティ先輩が、アートフルキャットの真価に気付いていることを、知っているからだ。
俺はユーに指示を出す。
「いつも通りいくぞ! バーサクだ!」
『ムゥゥゥッ!』
もはや鉄板となった初手。
『疾風の腕輪』の効果で即発動したバーサクによって、ユーのHPが1/4になり、STRが200%上昇する。
瞬間、ミスティ先輩が動いた。
「『ポイズン』です!」
『ミャア!』
アートフルキャットのチェシャが鳴き声を上げ、ユーの周りに、紫色の球体が無数に浮かび上がる。
紫色の球体が殺到し、
『ムゥ……ッ』
ユーを『毒』状態にした。
「流石」
呟くように、俺はミスティ先輩を称賛する。
『毒』は、『5秒毎に、最大HPの2%分、HPが減少する』状態異常だ。
ユーの必殺技、バーサクリバストを使うには、一旦、HPを1にしなければならない。
しかし、『毒』状態ではスリップダメージを受けるため、バーサクリバストを用いると、少なくとも5秒以内にユーは戦闘不能になってしまう。
戦闘不能になる前に相手を倒せる可能性はあるが、『テンポラリーバリア』などの防御スキルを使われれば、ユーは無駄死にだ。
もう、迂闊にバーサクリバストは使えない。




