見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――14
翌日、セントリア従魔士学校1―Aの教室。
「あのー……レイシーさん?」
「つーん」
「なんでそんなに拗ねているのか、そろそろ理由を教えてもらえませんかね?」
「ぷいっ!」
唇を尖らせてレイシーがそっぽを向いた。
俺は苦笑するほかない。
理由はわからないが、今日のレイシーは不機嫌そうだ。
いつもと変わらず俺の隣の席を借りているが、態度はやけにトゲトゲしい。
まるで気難しい猫のようだ。子犬のような普段の懐っこさは、面影もない。
参ったなあ、レイシーを怒らせるようなこと、なにかしたっけ?
「……昨日はお楽しみでしたね」
頬を掻いていると、レイシーが膨れっ面でぼやいた。
「はい?」と俺は首を傾げる。
「昨日、エリーゼ先輩とお出かけしたそうですね」
「なんで知ってるんだ?」
「夕べ、私服姿のエリーゼ先輩と鉢合わせしました。先輩は制服しか持っていなかったはずなので、尋問したのです」
「尋問て」
「そしたら吐きました。クロでした……一時休戦って約束したのに……」
レイシーの言葉選びが、いつもより物騒だ。よっぽど腹立たしいのだろう。
ただ、
「その通りだけど、それがどうかしたのか?」
レイシーの頬が一層膨らむ。
「ぷいっ!」
そのまま顔を背けるレイシー。
わけがわからん、お手上げだ。
「いまのはロッドが悪いよ」
困惑する俺に、アクトが苦笑しながら近寄ってきた。
「俺が? どこが悪いんだよ」
「その無自覚なところかな」
アクトがクスクスと笑み漏らしながら、俺に耳打ちする。
「『今度、一緒に出かけないか? お詫びさせてほしいんだ』って言ってごらん?」
「そう言ってどうなるんだ?」
「レイシーさんの機嫌が直る」
「んなアホな」
「とにかく試してみなって。このままじゃ、八方塞がりだよ?」
たしかに、解決の糸口も見えないわけだが……いままでにないくらい怒っているレイシーが、そんな簡単なことで機嫌を直すのか?
疑いつつも、俺はレイシーを誘ってみた。
「なあ、レイシー? 今度、一緒に出かけないか? お詫びさせてくれよ」
「そ、そんなことで許してあげませんよっ!」
レイシーの顔がカアッと赤くなる。
油を注いじまったじゃねぇか、どうしてくれるんだよ。
俺はアクトをジト目で睨む。
「で、ですが、ちゃんとエスコートしてくれるのでしたら、考えてあげなくもありません」
が、次のレイシーの言葉に俺は目を丸くした。
レイシーは相変わらず頬をフグみたいに膨らませているが、心なしか口元がゆるんでいるように見える。
「アクト、お前、天才かよ!」
耳打ちすると、アクトはニッコリと笑った。
「そんなことないよ。ロッドが偏差値低すぎるだけ」




