大事な大会には、最高の状態で挑むべき。――7
神殿内をさらに進み、4階層目。
「おっ! あったあった」
小部屋に隠されていた宝箱を開けた俺は、なかに入っていた巻物を取り出した。
「『魔法のスクロール』ですね?」
「ああ。修得させられるスキルは『ハイヒール』だな」
魔法のスクロールに目を通し、俺は頷く。
「宝箱の場所までわかるなんて、本当にロッドくんは物知りですね!」
「バッチリ下調べしているからな」
感嘆するレイシーに答えながら、「攻略Wikiで」と心のなかで付け足す。
嘘は言っていないから、ギリギリセーフだろう。宝箱の場所も中身もわかるし、ゲーム知識様々だ。
「先ほどのパズルも簡単に解いていましたし、流石はロッドくんです! そう言えば、あのとき手に入れた『装備品』、随分と変わった効果でしたね」
「『歪曲の腕輪』な。あれはマルの運用に必須なんだよ」
「ふぇっ!? でも、それではマルさんの長所が……」
「かなり変わったスタイルになるけど心配すんな。失望はさせねぇよ」
俺が告げると、口を丸くしていたレイシーが、「そうでした、ロッドくんですもんね」と相好を崩した。
「さて。あとはクロ用の装備品だけだな」
「どこにあるのですか?」
「最奥の部屋だ。ロードモンスターを倒した先にある、な」
「そうですか……」
俺が答えると、レイシーがうつむく。
「どうした?」と声をかけると、レイシーがキッと眉を上げ、俺を見上げてきた。
「ロードモンスターとの戦いに、わたしも参加させていただけませんか?」
思わぬ頼みに、俺は目を丸くする。
「ロードモンスターのレベルは91だ。リーリーとピートにはキツすぎるぞ?」
「わかっています。けど、このままではロッドくんにつれてきてもらった意味がありません。わたしはなんのお手伝いもできていないのですから」
「そんなことねぇよ。マルを見つけられたのはレイシーのおかげだ」
「ですが、ゲイルガルーダとサンダーガルーダをロッドくんに任せてしまいましたし、神殿内の戦闘でも役に立てていません」
そう言えば、ゲイルガルーダとサンダーガルーダとの戦闘に、レイシーは参加するつもりでいたんだったな。
危険だと思って制止したけど、レイシーはもの凄く悔しそうな顔をしていた。
あのとき悔やんでいたのは、『俺の役に立てなかったから』なのか。
「決して足手まといにはなりません。ですから、どうかお願いします!」
レイシーがペコリと頭を下げた。
俺は顎に手をやって思案する。
正直、ロードモンスターとの戦いは、クロとユーだけで充分だ。けど、ここで断ってはレイシーが傷付く。
しばし考え、俺は閃いた。
「それならこうしよう。ロードモンスターとの戦いで、俺はレイシーに指示を出さない。すべて独断で行動してもらう」
「リーリーたちにどう動いてもらうか、わたし自身で決めるということですか?」
「ああ。それでも俺の邪魔をしない自信があるなら、参加しても構わない」
レイシーの覚悟が生半なら、この条件ではためらうだろう。
逆に、それでも参加したいとなると、レイシーには勝算があるということになる。それならば問題ない。
俺は、ロードモンスターとの戦いを通して、レイシーの成長を確認しようと思い立ったんだ。
リーリーの育成を手伝ったこともあり、レイシーの従魔士としてのスキルがどれだけ上がっているか気になるしな。
レイシーが参加するなら、成長を確かめられる。参加しないなら、危険を回避させられる。どちらに転んでも都合がいい。
「どうする?」
俺が訊くと、レイシーはグッと拳を握り、力強く頷いた。
「参加させてください! 必ずロッドくんに合わせてみせます!」
レイシーの意気込みが嬉しくて、自然と口端が上がる。
俺はレイシーの頭をポンポンと撫でた。
「サポートは任せたぞ」
「はいっ!」
レイシーが満面の笑みを咲かせた。




