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大事な大会には、最高の状態で挑むべき。――1

 レドリア学生選手権で、戦闘に用いることができる従魔は最大3体。当然ながら、従魔は3体いたほうが有利だ。


 そこで、


「3体目の従魔を手に入れに行こうと思う」


 自分の席についている俺は、隣の席を借りているレイシーに告げた。


「どこに向かうのですか?」

「『ジェア神殿(しんでん)』だ」


 コテン、と小首を(かし)げて問うレイシーに答える。


 ジェア神殿は、ガブリエル家が保有するダンジョンだ。


 ガブリエル家の領地の東にある『オルボス(やま)』の中腹に位置し、風・雷・氷・光属性のモンスターが生息している。


 80レベル以上の従魔で挑むことが奨励(しょうれい)されているが、クロとユーなら充分だろう。


「ジェア神殿の最奥(さいおう)では、クロ用の装備品も入手できることだし、一石二鳥だ。早速こいつを使う機会がきたってわけだな」


 言いながら、『不思議なバッグ』から入場許可書を取り出す。タイラントドラゴンを討伐したことで、ガブリエル家からもらったものだ。


 本来、ジェア神殿にはガブリエル家の者しか入れないが、この許可書があれば俺でも入ることができる。


「あの……わたしもついて行って構わないでしょうか?」


 入場許可書を掲げる俺に、小さく挙手しながらレイシーが()いてきた。


 思いも寄らぬ頼みに、俺はパチパチと瞬きをする。


「レイシーが? どうしてだ?」

「ロッドくんのお手伝いがしたいのです!」


 レイシーが胸元でグッと拳を握りしめ、ふんす、ふんす、と鼻息を荒くした。


「けど、レイシーは許可書を持っていないから、ジェア神殿には入れないんじゃないか?」


 俺が指摘すると、レイシーは内緒話をするように顔を近づけ、(ささや)く。


「お父さんとエリーゼ姉さんを味方につけます! 一応、わたしもガブリエル家の血を継いでいますので!」

(したた)かになったなあ、レイシー」


 感心(かんしん)半分、呆れ半分の心境で俺は嘆息(たんそく)する。


「これからも生きられるのですから、目いっぱい好きなことがしたいのですよ」


 レイシーがいたずらっ子みたいに笑った。


 どうやら、タイラントドラゴンの一件が片付いたことで、いろいろと吹っ切れたらしい。


「それもこれもロッドくんのおかげです。あなたがいたから、わたしは生きながらえることができた。ロッドくんには一生を通して恩返ししていくつもりです」

大袈裟(おおげさ)だなあ、そんなに堅苦しく考える必要はないぞ? レイシーの人生はレイシーのものなんだから」


 ヒラヒラと手を振りながら、俺は(さと)す。


「俺は恩返ししてもらいたくてレイシーを助けたわけじゃない。助けたかったから助けたんだ」

「わたしもロッドくんと同じです! 恩返ししたいから恩返しするのです!」

「……ホント、強かになったもんだよ」


 レイシーに切り返され、俺は苦笑した。


 姿勢を戻しながら、レイシーはニッコリと笑顔を咲かせる。


 レイシーがしたいって言うなら、俺が止めのは間違っているよな。


 レイシーの人生はレイシーのもの。どう生きるかはレイシーが決めるんだから。


 ただ、ジェア神殿に連れていくかどうかとは、話が別だ。


「けど、ジェア神殿に挑むのは俺の都合だ。レイシーに付き合わせるのは(しの)びねぇ」

「で、ですが……」

「いまの俺なら、ジェア神殿の攻略は簡単だ。レイシーの手を(わずら)わすまでもねぇよ」

「そ、そうですか……」


 気を(つか)ったつもりだが、どういうわけかレイシーは、シュン、と肩をすぼめた。


 んー? なんか落ち込んでるみたいだけど、俺、失言でもしたか?


「ロッドは女心がわかってないね」


 頭を(ひね)っていると、苦笑交じりの声が聞こえた。


 そちらに目を向けると、柔和(にゅうわ)な顔付きの青年が歩いてくる。


 薄緑のミディアムヘアに、人の良さそうな緑の瞳。


 中背細身(ちゅうぜいほそみ)優男(やさおとこ)系イケメンだ。


「聞いてたのか、アクト」

「『ジェア神殿に挑むのは俺の都合だ』あたりからね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」


「ゴメンよ?」とアクトが片手を立てた。


 こいつの名前はアクト・ジグリット。2週間前にセントリア従魔士学校にやってきた転校生だ。


 扱う従魔は、『デイズスネーク』という珍しいモンスター。


 コミュ力がバツグンで、転校初日からクラスに溶け込んでおり、俺やレイシーとも仲がいい。


「女心がわかってないってどういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。ロッドは罪な男だよね」

「ますますわからんのだが……」


 ジト目になると、アクトは微苦笑(びくしょう)したまま肩をすくめた。


「レイシーさんに気を遣って断ったんだろうけどね? いまのロッドの対応は30点だよ」

(ひっく)いな! なにがいけなかったって言うんだよ! レイシーに無駄な苦労をさせたくないんだよ、俺は!」

「ほかのひとが相手なら正解だったよ? ただ、『レイシーさんに限っては』不正解なんだ」

「……意味がわからん」


 不満を込めて溜息(ためいき)をつくと、アクトは「そのうちわかるよ」とクスクス笑った。


「とにかく、レイシーさんは、なにを差し置いてもロッドのお手伝いがしたいってことさ。ダンジョンでの苦労より、ロッドに断られるほうがツラいんだよ」


「そういうもんか?」と首をかしげると、レイシーがコクコクコクコクと何度も頷いた。心なしか頬が赤らんでいるように見える。


 いまだに理由はわからないが、アクトの言うとおり、レイシーは俺の手伝いをしたいようだ。


 そこまで望んでいるなら、断るのは失礼だろう。


「なら、付き合ってくれるか、レイシー?」

「はいっ!」


 頬を()きながら尋ねると、レイシーはヒマワリのような笑顔で頷いた。

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