プロローグ
タイラントドラゴンを討伐してから1ヶ月が経った。
俺が登校すると、廊下に人集りができていた。
「まさか1年から選ばれるなんてな……」
「けど、あの方なら当然ではありません?」
「そうだね。彼の実力は僕たちとは別次元にあるから」
集まった生徒たちは、誰かの話題で持ちきりになっている。
「みんな、なんの話をしてるんだ?」
声をかけると、生徒たちは俺を見てハッとした顔をして、直後、ニヤリと笑った。
「主役のご登場だな」
「ご覧になったほうが早くてよ、マサラニアさん」
ワイワイと騒ぎながら、生徒たちが俺を人集りのなかに引っ張っていく。
俺が連れてこられたのは掲示板の前。
掲示板には1枚の紙が貼られていた。
その紙に認められていたのは――
ロッド・マサラニアをレドリア学生選手権の参加者に指名する
「ホント、お前は大したやつだよ!」
「ええ。ブラックスライムを授かっていながらここまで上り詰めるなんて、想像だにできませんでしたわ」
生徒たちに褒めそやされながら、俺は思い起こす。
『レドリア学生選手権』とは、レドリア王国にある従魔士学校から、選抜された学生が集い、最強の学生従魔士を決める大会だ。
大会は、予選・本戦・決勝戦に分けられ、予選を勝ち抜いた16名が本戦に、本戦を勝ち抜いた2名が決勝戦に進める。
予選と本戦は、従魔1体に対して従魔1体で挑み、相手の従魔すべてを戦闘不能にしたほうが勝ちの、交代ありの1対1。決勝戦は、手持ちの従魔すべてを投入して戦う、多対多で行う。
また、決勝戦はレドリア王国の国王の前で行われる御前試合となっており、優勝することは大変な名誉だ。
ただ、レドリア学生選手権への参加はゲーム中盤でのイベント。2年生に上がってから起こるはずだが……。
俺は「ふむ」と顎に指を当てて推測した。
クロとユーの、レベルの高さが原因か?
タイラントドラゴンから得られた経験値は膨大で、『育成の達人』の『経験値10倍効果』も相まって、クロのレベルは79に、ユーは76になっている。序盤では、まずあり得ないレベルだ。
レドリア学生選手権への参加資格は、『70レベル以上の従魔を従えていること』。俺がその条件を満たしていたから、1年生にもかかわらず、レドリア学生選手権への参加イベントが発生したのだろう。
「おめでとう、マサラニアくん」
納得して頷いていると、担任のリサ先生が歩みよってきた。
普段は表情の乏しい顔に、柔らかな微笑みが浮かんでいる。
「今年の選手権に、セントリア従魔士学校から参加する1年生は、きみだけだ。誇ってもらって構わない」
「誇るつもりはないっすけど、光栄ではありますね」
「きみは相変わらずだな」
リサ先生が、ふふっ、と笑みを漏らす。
「ほかの参加者に比べ、従魔のレベルは低いほうだが、きみのスキルなら優勝も狙えるだろう。頑張りたまえ」
ポンと肩をたたきつつ激励し、リサ先生が踵を返した。
「スゴい! スゴいですよ、ロッドくん!」
リサ先生と入れ替わりに、レイシーがやってきた。
レイシーは、エメラルドの瞳をキラキラさせて、ズイッと身を乗り出しながら俺を称賛する。
「1年生からの参加者は、ここ10年間でひとりしか――エリーゼ先輩しかいなかったのです! まさに快挙です!」
エリーゼ先輩のことを姉さんと呼ばないのは、周りに生徒がいるからだろう。
「ありがとな、レイシー。俺もワクワクしてるよ」
レイシーにニッと歯を見せながら、俺は拳を握りしめた。
「レドリア王国中から選りすぐりの学生が集まるんだ。いまから腕が鳴るぜ」
「うわぁ……こいつ、もう、予選を勝ち抜く気でいやがるよ」
側にいたクラスメイトが冗談めかして諸手を挙げる。
「当ったり前だろ!」
俺は握りしめた拳を突き上げ、宣言する。
「出場するなら目指すのは優勝だけだ! 勝てなくてもいい試合にしようなんて思わねぇ! 必ず勝ち抜いてやるぜ!」




