格上相手には、とにかく入念に準備するべし。――8
飛鳳船の甲板で、風に髪を弄ばれながら、俺はメニュー画面を開く。
クロ:54レベル
ユー:51レベル
120ものレベルがあっただけはあり、アースドラゴンを倒した際の経験値は膨大だった。
『育成の達人』の『経験値10倍』効果も相まって、クロとユーは大幅にレベルアップした。
「それにしても、どうしてアースドラゴンが現れたんだ?」
メニュー画面を閉じながら、俺は考える。
アースドラゴンは、クリム高原に生息していない。それなのに現れたということは、なにかしらの原因があるということだ。
けれど、アースドラゴンがクリム高原に出現するようなイベントは、ファイモンには存在しない。
「これもゲームとの差異なのか? だとしたら、なにが起きている?」
俺が思考の海に沈もうとしたとき、
「ロッドくん!」
レイシーに声をかけられた。
思考を中断して振り返ると、ちょうど甲板に出てきたところらしいレイシーが、俺に駆けよってくる。
片手を挙げて応えると、レイシーがパアッと明るい笑顔を咲かせた。心なしか、ブンブンと千切れんばかりに振られる尻尾が見える。
「どうした、レイシー?」
「ロッドくんがどこかに行ってしまわれたので、探していたのです」
「ああ、悪い。ちょっと考えたいことがあってな」
どこかばつが悪くて、俺は頬を掻く。
「俺に用でもあるのか?」
「改めて、お礼を言いたかったのです」
レイシーがペコリと頭を下げた。
「ガブリエル先輩との勝負に勝ってくれてありがとうございます。おかげで、これからもロッドくんと一緒にいられます」
「礼なんていらねぇよ」
相変わらず律儀なレイシーが可愛くて、俺は下げられた頭を撫でる。
「ふゃっ!?」と驚くレイシーだが、俺の手を払おうとはしなかった。
「俺もレイシーの側にいるのは嫌いじゃないしな。心地良いんだよ、レイシーの隣は」
「ロッドくん……」
顔を上げたレイシーが、潤んだ瞳を俺に向ける。
顔が赤くなって見えるのは、夕日に照らされているからだろうか?
感激したようなレイシーの反応に照れ臭くなって、俺は視線を逸らす。
「それに、レイシーといると飽きないし、楽しいからな!」
照れ隠しのつもりで、俺はことさら明るく言った。
そんな俺に、レイシーがふわりと柔らかく微笑む。
いままで見てきたどんな笑顔よりも美しかった。
「わたしも、ロッドくんの隣が、一番心地良いです」
「そ、そっか、それはよかった」
胸の高鳴りを悟られないよう、俺は「ははははっ」笑い声を作る。
なんでこんなにもドキドキするんだ? なんでこんなにも、レイシーが可愛く見えるんだ?




