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たとえゲーム廃人でも、女の子に好かれたらやっぱり嬉しい。――5

 夕方になり、俺とレイシーは寮に戻ってきた。


 レイシーの純金の艶髪(つやがみ)には、俺がプレゼントした髪飾りがつけられている。


 ふたりの手は繋がれたままだ。


「楽しかったな」

「はい! また行きましょうね?」

「約束、忘れたのか、レイシー? 俺を誘ってくれるんだろう?」

「ふふっ、そうでした」


 レイシーが冗談めかすようにペロッと舌を出す。


 そんなレイシーを眺め、俺はクスッと笑う。


 茜色の夕日も手伝って、俺とレイシーのあいだには、温かい空気が漂っていた。


「レイシー!? マサラニアくん!?」


 穏やかな気持ちに(ひた)っていると、不意に、驚いたような声が聞こえた。


 見ると、俺たちの進行方向に、瞠目(どうもく)するエリーゼ先輩がいる。休日にもかかわらず制服姿だ。


「き、きみたち、どうして手を繋いでいる!? いつの間にそんなに仲睦(なかむつ)まじくなった!? いままでなにをしていたんだ!?」

「今日はレイシーと外出してたんすよ。手を繋いだのは成り行きみたいなものです」

「が、外出!? まさかデートか!?」


 俺の発言に、エリーゼ先輩が血相を変える。


 ゲームに登場するエリーゼ・ガブリエルはクールな才女だったが、目の前にいる先輩女子は、まるで別人だ。


「マサラニアくん! レイシーときみはどういう関係だ!」

「お、落ち着いてください、エリーゼ先輩!」


 詰め寄ってくるエリーゼ先輩に気圧されて、俺は諸手(もろて)を挙げた。


「というか、なんで先輩がレイシーと俺の仲を気にするんすか?」

「そ、それは、あれだ! 風紀を乱す者は看過(かんか)できない的なやつだ!」

「自分で『的なやつ』って言ってるじゃないすか! いま、確実に誤魔化(ごまか)しましたよね!?」

「いいから答えろ、先輩命令だ!」

「俺とレイシーはただの友達ですよ! そうだよな、レイシー?」


 なぜ、こんなにも取り乱しているのかはわからないが、エリーゼ先輩の剣幕は普通じゃない。


 そもそも、俺とレイシーはデートしていたわけじゃないし、あくまで友達だ。エリーゼ先輩は完全に誤解している。


 その誤解が暴走の原因だとしたら、可及的速(かきゅうてきすみ)やかに()かないといけない。


 話を合わせてくれと視線で訴えながら、俺はレイシーに話を振った。


「デート……やっぱりそう見えちゃうのですね……えへへ、えへへへへへ……!」


 しかし、俺の思いはレイシーに届かなかった。


 それどころかレイシーは、ゆるゆるフニャフニャな笑顔を浮かべ、くねくねと体をよじらせる。


 どうしてそんな反応をするのかはわからないけど、これ、完全に誤解を加速させるやつぅ――――っ!!


 俺が頬をヒクつかせていると、エリーゼ先輩が、ガーン! という擬音(オノマトペ)が似つかわしい顔をして、ガックリと項垂(うなだ)れた。


「あのー、エリーゼ先輩?」

「ふ、ふふ、ふふふふふ……そうか、仕方ないかもしれないな。レイシーもそういう年頃なのだから」


 レイシーのお母さんも言ってたけれど、『そういう年頃』ってどういう意味なんですかね?


「だが、そう簡単にレイシーとの仲を認めるわけにはいかない」


 幽鬼(ゆうき)のように、ゆらり、と顔を上げたエリーゼ先輩が、ビシィッ! と俺に指を突きつけた。


「勝負だ、マサラニアくん! きみがレイシーを任せるに足る男か、わたしが試してやろう!」

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