結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――5
約束の日の昼過ぎ。
飛鳳船(大型鳥モンスター4体に牽引される、空飛ぶ船)に乗り、俺とレイシーはエイシス遺跡を訪れた。
到着した俺たちは早速準備を整え、遺跡内に踏み入った。
エイシス遺跡は、幅の広い石造りの道が織り成す、迷路型のダンジョンだ。
壁や天井のいたるところに、象形文字に似た紋様が刻まれており、それらが発光しているおかげで、明かりには困らない。
生息するモンスターの属性は、土・火・闇。レベルは階層によって異なり、8から20までだ。
「わたし、ロッドくんとタッグを組んでいますけど、これってパワーレベリングになりませんか?」
遺跡内を歩いていると、小さな声でレイシーが尋ねてきた。
規則違反を心配しているんだろう。レイシーは気まずそうに眉尻を下げている。
「不要な戦闘はしないから大丈夫だろ」
モンスターを呼び寄せないよう、同じく小声でレイシーに答える。
「俺たちの目的はメタルゴーレムの討伐だ。それまでに消耗したらいけないから、できる限り戦闘は避ける。戦闘そのものをしないんだから、パワーレベリングにはならないんじゃないか?」
「たしかに、そうですね」
「まあ、避けられない戦闘もあるだろうけど、そのときは回避に専念してくれ。リーリーが倒れたらいけないから、従魔士としてのスキルが試されるぞ?」
「が、頑張ります!」
焚き付けるように言うと、レイシーは拳を作って「むふーっ!」と意気込んだ。
表情豊かで、見ていて飽きない子だ。
「それはそれとして、メタルゴーレムを倒す手順は覚えているよな?」
「はい! ロッドくんに教えてもらってから、毎日、朝・昼・晩に復習しましたから! いまなら暗唱もできますよ!」
「気合い充分だな、頼りにしてるぞ?」
「はい!」
俺が褒めると、レイシーがパアッと明るい笑顔を見せる。
思わず頭を撫でたくなる可愛さだ。
ジャリ
和やかな雰囲気で遺跡内を進んでいると、前方にある曲がり角から物音が聞こえ、俺は気を引き締めた。
「静かに、この先にモンスターがいる」
「は、はい」
口に指を当てて注意すると、レイシーが身を強張らせる。
俺とレイシーは息をひそめ、そっと曲がり角の先を覗いた。
曲がり角の先は小部屋になっており、そこに犬型のモンスターがいた。
サモエドみたいな愛嬌のある顔立ち。
モフモフの赤毛。
フリフリと揺れる炎の尻尾。
俺は「おっ」と声を漏らし、メニュー画面を開いて確認する。
ヒートハウンド:8レベル
珍しいのと遭遇したな。エイシス遺跡の特定の範囲にしか現れない、レアモンスター『ヒートハウンド』か。
ヒートハウンドは、見た目どおり火属性のモンスターだ。
出現率の割りにステータスが低いが、それにはお約束な理由がある。
ヒートハウンドは、3回『進化』するモンスターなんだ。
『進化』とは、設定されたレベルへの到達、あるいは、特定の条件を満たすことで、モンスターの姿、ステータス等が変化する現象を指す。
基本的に、モンスターは進化する度に強くなる。つまり、ヒートハウンドのステータスが低いのは、第1形態であるためなんだ。
第4形態である『フレアケルベロス』は、終盤でも活躍するくらい強力なモンスターだしな。
「ふわぁあああああああああ……!!」
ゲーム知識を参照していると、斜め下から感極まったような声が聞こえてきた。
視線を下ろすと、レイシーが頬を蕩けさせている。
「か、可愛いぃいいいいいいいいいいいいいいい……!!」
レイシーの瞳はキラキラと輝き、トテトテと歩き回るヒートハウンドを食い入るように見つめていた。
『クゥン』とヒートハウンドが鳴くと、「はふぅ」とレイシーがご満悦そうに溜め息をつく。
「レイシーは可愛いものが好きなのか?」
あまりにも幸せそうな様子に尋ねると、レイシーは我に返ったようにハッとした。
「す、すみません、気をゆるめてしまって!」
「別に構わないぞ? この階層には、強力なモンスターはいないしな」
にこやかに言うと、レイシーがホッと胸を撫で下ろし、俺の質問に答える。
「そうですね。わたし、可愛いものには目がなくて……あの子の可愛さには、お持ち帰りしたくなる魔力がありますね」
答えるレイシーの視線は、ヒートハウンドに釘付けになっている。
完全に虜になっているようだ。
「だったらそうしようぜ?」
「ふぇっ?」
俺の提案に、レイシーが目を丸くした。
俺はニッと歯を見せる。
「この先、必要になるだろうしな」




