結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――4
俺は指を立てて説明する。
「メタルゴーレムの固有アビリティ『壮健』の効果が、『状態異常にならない』なんだよ」
「クロさんのヴァーティゴが通用しないということですか!?」
「ああ。クロの戦法には相性が悪いんだよなあ」
俺はふぅ、と溜め息をついた。
アブウィス型ブラックスライムのキモは、相手の攻撃を如何に凌ぐか、だ。
そのために重要となるのが、『分裂』が生み出す分身と、テンポラリーバリアによる、攻撃の一時的無効化、そして、『目眩』状態によるミスの誘発。
高い耐久性に、これらの妨害スキルが組み合わさることで、ブラックスライムのハメ技は成り立っているんだ。
逆説的に言えば、どれかひとつでも通用しなければ、アブウィス戦法は瓦解するということになる。
メタルゴーレムは、ブラックスライムの天敵なんだ。
「では、エイシス遺跡の攻略は、やはり無理ということでしょうか?」
「いや、方法はある」
俺は勝ち気な笑みを浮かべて、レイシーを指差した。
「レイシーが、俺と一緒に戦ってくれればな」
レイシーがキョトンとした顔をする。
パチパチと数回瞬きをしたあと、俺の言葉の意味が理解できたのか、たらりと汗を流し、口元をわぐわぐさせて、
「ふ、ふぇえええええええええええ!?」
食堂に驚愕の声を響かせた。
食堂にいた生徒たちが、ギョッとした顔でこちらを見やる。
「わわわわたしが、ロードモンスターに挑むのですか!?」
「ああ。レイシーが手伝ってくれるなら、いまの戦力でも倒せる」
「で、ですが、リーリーは1レベルですよ!?」
「まあ、普通に考えたら無茶だよなー。全滅まっしぐらだ」
「笑い事じゃないですよ!?」
あっけらかんとした俺の態度に、レイシーがツッコミを入れる。
アタフタするレイシーを微笑ましく思いながら、俺は気負いひとつなく断言した。
「けど俺には、メタルゴーレムを倒す段取りが見えている」
慌てふためいていたレイシーが、ハッとした顔をする。
「あとはレイシー次第だ。無理強いはしない」
告げると、レイシーは唇をキュッと引き結び、うつむいた。
レイシーが両手をギュッと握る。
俺は急かさず、レイシーの返事をただ待った。
やがて、レイシーが静かに顔を上げる。
迷いの消えた、凜々しい表情だ。
「やります」
「危険はつきまとうぞ?」
「構いません。やれることがあるのなら、心残りがないようにやりたいんです。それが、『ちゃんと生きる』ことだと思うから」
それに、
「ロッドくんができると仰るなら、できるに決まっていますからね」
レイシーがパチン、とウインクした。
思わぬ切り返しに、俺は面食らう。
俺の反応を目にして、レイシーがクスッと笑った。
「言ってくれるなあ、レイシーは」
「事実ですから」
ジト目を向けても、レイシーのニコニコ顔は崩れない。
どことなく照れくさくて、俺はコホン、と咳払いした。
「それじゃあ、決定だ。予定、いつなら空いてる?」
「次の休みなら大丈夫です」
「よし。じゃあ、次の休み、エイシス遺跡を攻略するぞ」
「はい!」
レイシーが「えい、えい、おー!」と拳を上げた。




