努力するときは、目標設定が大事。――15
『GOOOOOOHHHH!』
ファブニルのウェポンエンチャントが発動した。赤銅色のオーラがファブニルから立ち上り、STRとVITが上昇する。
「次は『ビルドアップ』だ!」
『GOOOOHH……!』
エリーゼ先輩が即座に続いての指示を出し、ファブニルがググッと力を溜めた。『自身のSTRを30%上昇させる』物理スキル『ビルドアップ』の準備モーション。
エリーゼ先輩の動きに俺は眉をひそめた。
自己強化スキルをふたつ……それも、役割が被ったものを?
ビルドアップはウェポンエンチャントと同じくSTRを上昇させる。物理スキルであるためMPは減らないが、VITも上昇させられるウェポンエンチャントの、下位互換と言えるスキルだ。
そのビルドアップを、エリーゼ先輩はウェポンエンチャントと同時に採用している。狙いがあるように思えてならない。スキル構成には4つのスキルしか組み込めない。大事な枠を削ってまで同じ役割のスキルを入れるのは、定石から外れる。
顎に指を当てて黙考。
……あれを狙っているのかもな。
俺はひとつの可能性に至った。
『キュウ!』
同時、マルのスタンボディーが発動した。パチパチと破裂音を立て、マルが『帯電状態』になる。
ここまでの流れから推測するに、エリーゼ先輩がファブニルを主軸に戦おうとしているのは明確だ。
そろそろ動くか。
「よし」と頷き、俺はユーとクロに指示を飛ばす。
「ユー、ベンジャーレイス! クロはシャドースティッチ! 狙いはゲオルギウス!」
『ムゥ……!』
ユーが手に握るロングソードを正中線に平行させるように構え、ベンジャーレイスの準備に入る。
『ピィッ!』
クロはウニョウニョと影を蠢かせて、ファブニルに向けて伸ばした。
『相手の直接攻撃、回避、逃走、交代を封じる』魔法スキル『シャドースティッチ』。これが決まればファブニルの行動は制限され、戦力は半減される。
しかし――
「庇え、ゲオルギウス!」
(コクリ)
尋常ならざる速度で反応したエリーゼ先輩が、ゲオルギウスに命じた。
ゲオルギウスが影の触手とファブニルのあいだに割って入る。行く手を阻まれた影の触手は、仕方なくゲオルギウスを捕らえた。俺の狙いは失敗だ。
エリーゼ先輩の反応速度は驚異的だった。後追いであの速度は出せない。
やってくれたなあ、と俺は苦笑する。
「読んでましたね? 俺の行動を」
「ああ」
エリーゼ先輩が口端を上げた。
「ファブニルを主軸にするのはバレバレだろうから、囮になってもらったんだ。シャドースティッチのクールタイムは3分。結構な時間稼ぎになるだろう?」
エリーゼ先輩の言うとおり、クロはしばらくシャドースティッチを使えない。クロの十八番が潰されたかたちだ。
『ピィ……ッ!』と、クロが悔しそうに口を『ヘ』の字にした。
エリーゼ先輩は確実に強くなっている。油断してたら追い越されるな。
強い相手と戦ってこその従魔勝負だ! そうこなくっちゃよ!
戦いの喜びに笑みを描きながら、俺は続いての指示を出す。
「『アブソーブウィスプ』だ、クロ! 狙いはファブニル!」
『ピィ……ッ!』
クロが身を縮ませて力を溜めた。
クロのもうひとつの十八番。『10秒間に一度、最大HPの1%を相手から奪う』魔法スキル『アブソーブウィスプ』の準備。
クロは『装備しているモンスターのスキル、固有アビリティがもたらすスリップダメージが、本来の半分の時間で発動する』効果を発揮する『時女神のネックレス』を装備しているため、HP吸収は5秒で行われる。
『HPが3/4以上残っている状態でHPを回復した際、本体と同じステータスとスキルを持った分身を生み出す』固有アビリティ『分裂』を持つクロの、戦法の根幹と言える手段だ。
『GOOOOOOHHHH!』
『ムゥッ!』
クロがアブソーブウィスプの準備に入るなか、ファブニルとユーがそれぞれのスキルを発動させた。
ファブニルが雄叫びを上げてビルドアップを発動。STRを上昇させる。
一方のユーはロングソードを掲げた。
ユーと瓜二つの小さな幽霊が現れ、すぅっと姿を消す。『報復攻撃』の準備が整ったんだ。
「……仕込みは完了だ」
エリーゼ先輩が呟き、キッと眼差しを鋭くする。




