努力するときは、目標設定が大事。――14
レイシー、ケイト、フローラは力量差がありすぎたため1対2にしたが、俺と先輩たちは違う。従魔の扱い方では俺が頭ひとつ抜けているが、従魔のレベルにはそれほど差はない。
そのため、俺と先輩たちは1対1で勝負することにした。
まずは俺とエリーゼ先輩の勝負だ。俺とエリーゼ先輩はそれぞれ、従魔のスキル構成を組み立てる。
数分後。スキル構成が決まり、俺とエリーゼ先輩は距離を置いて向き合っていた。
「行くぞ! クロ! ユー! マル!」
『ピィッ!』
『ムゥ!』
『キュウ!』
「来い! ゲオルギウス! ファブニル!」
(ズシン!)
『GOOOOOOHH!』
俺たちは魔石を放って従魔を呼び出す。従魔たちもやる気満々だ。
「準備はよろしいですね?」
審判を買って出たミスティ先輩が俺たちに確認する。コクリと頷き、俺とエリーゼ先輩は視線を交えた。
「ロッドくんにはまだ1勝もできていない。目標であるきみを超えるため、いま出せる全力でぶつからせてもらう」
「OKです。俺も全力で応えますよ」
俺とエリーゼ先輩は、フッ、と笑み合う。
空気が張り詰めるなか、ミスティ先輩が右手を挙げた。
「――――はじめっ!」
ミスティ先輩が右手を振り下ろすと同時、エリーゼ先輩が動く。
「『ウェポンエンチャント』だ、ファブニル! ゲオルギウスは待機!」
『GOOOOOOHH!』
(コクリ)
ファブニルが四肢をたわめ、ゲオルギウスは大剣を構えたまま頷く。
ファブニルが準備しているのは、『自身のSTR・VITを30%上昇させる』魔法スキル『ウェポンエンチャント』。チャージタイムは3秒だ。
自己強化スキルの発動準備に入ったファブニルを眺めつつ、俺が気にするのはゲオルギウスのことだった。
エリーゼ先輩は、なぜゲオルギウスに待機を命じた?
エリーゼ先輩の従魔は2体。数で劣っている以上、2体とも攻めに回すのが得策だ。
ゲオルギウスは火力であると同時に盾役でもあるので、盾役としての役割を優先したとも考えられるが……いや、この時点で決めつけるのは早計だな。
1秒にも満たないあいだにそこまで考え、俺も指示を出す。
「ユーは『バーサク』! マルは『スタンボディー』! クロはしばらく待機!」
『ムゥ!』
『キュ!』
『ピィッ!』
従魔たちが元気に返事して――ユーのバーサクが発動した。
ユーの体から燃えるような真紅のオーラが立ち上る。『最大HPの3/4を失う代わりにSTRを200%上昇させる』物理スキル『バーサク』だ。
本来、バーサクは10秒のチャージタイムを要するが、『戦闘で最初に使ったスキルに限り、チャージタイム0秒かつ先制できる』効果を発揮する『疾風の腕輪』を装備しているユーは、ノータイムでバーサクを発動させられる。
マルもギュッと体を縮こめて、『攻撃を受けた際、30%の確率で相手を麻痺させる「帯電状態」になる』魔法スキル『スタンボディー』の準備に入った。
クロは待機しているが、体をみょいんみょいんと伸び縮みさせている。気合に満ちた様子だ。
従魔たちに指示を出し、俺は再び思案する。
さて……次はどう動こうかな。
ユーが『バーサクリバスト型』なら間髪を入れずに『パージ』からの『リバーサルストライク』を決める。
だが、今回のスキル構成は、『攻撃を受けた際、自動で反撃(物理攻撃)を行う幽霊たちを生み出す』魔法スキル『ベンジャーレイス』を軸にした『ジャーレス型』なので、いつもの開幕バーサクリバストは使えない。
俺が『ジャーレス型』を選んだのは、ゲオルギウスの固有アビリティを警戒してだ。
ゲオルギウスの固有アビリティは『受け流し』。その効果は『10%の確率で攻撃スキルのダメージを無効化する』。
バーサクリバストは強力だが、リバーサルストライクのクールタイムが5分なので連発できない。10%の確率とはいえ、『受け流し』で無効化される可能性がある以上、迂闊に放つことはできないんだ。
それならパージとリバーサルストライクを切ってジャーレス型にしたほうがいい。エクスディフェンスで無敵状態になりながら、ベンジャーレイスの『報復攻撃』で一方的に相手を倒すジャーレス型も、充分強力だしな。
それに、エリーゼ先輩の作戦も見抜きたいし……いまは下手に動かないほうがいいか。
判断から決断。
俺は後手に回ることを選んだ。従魔たちに指示を出さず、エリーゼ先輩の次の行動を待つ。




