努力するときは、目標設定が大事。――12
『ミュッ!』
泣きっ面に蜂。モルモルがルートラッシュを発動させる。
大量の木の根っこが地面から生え、ケイトとレイシーの従魔たちに巻き付いた。
動きを封じられた従魔たちを、根っこが四方八方から打ち据える。
『キャウンッ!』
『リィッ!』
『クワ……ッ!』
『ゲロォ……ッ!』
ケロが用いたガーディアンフォースはすでに切れていたため、全員がダメージを食らうはめになった。追加効果により、AGIも20%減少してしまう。
しかも――
『ゲロ……ォ……』
「ケロちゃんっ!」
HPが0になり、ついにケロが倒れた。ケロの体が光り、魔石に変わる。
これで従魔の数はそれぞれ3体。ケイトとレイシーは盾役に加え、数的優位まで失ってしまった。キツい状況だ。
『リィッ!』
『クワァッ!』
それでも抗わんとリーリーが両手を掲げ、ガーガーがまぶたを開けた。
リーリーのギフトダンスが発動。ピートとガーガーが緑色の光に包まれ、STR、INT、VIT、MNDが35%、AGIが約52%上昇した。
ガーガーもイヴェンジェルを発動させて、INTとMNDを30%上昇させる。
ただ、そのステータス上昇も、ガーディアンフォース×『鋼の宿』コンボで無駄に終わるかもしれない。
「まだ10秒経ってません!」
「もぉ――――っ!! 早く過ぎてよ!」
レイシーがハラハラとした顔をして、ケイトが地団駄を踏む。
「悪いけど、このまま押し切らせてもらうわ! モルモル、『マッディーラピッド』! チッチーはもう一度バーストチャージよ!」
『ミュッ!』
『ガアッ!』
モルモルとチッチーがコクリと頷いた。
モルモルが両前足の爪をザシッと地面に差し込む。
『相手のDEXを20%減少させる』追加効果を持つ、土属性魔法攻撃『マッディーラピッド』の構え。
チッチーが用いるのはバーストチャージだ。勢いよく地面を蹴り、赤熱した体を砲弾のように飛ばす。
赤い砲弾となったチッチーが、ピートに突進した。
『キャウンッ!!』
ピートが跳ね飛ばされ、ズダンッ! と地面に叩きつけられる。HPも1/10まで削られてしまった。おそらく、次の攻撃を受けたら戦闘不能になってしまう。
その一撃を浴びせるべく、フローラが指示を送った。
「トドメを刺すわよ、チッチー! ダーククレセント!」
『ガア……!』
黒い陽炎がチッチーの翼から立ち上る。
ピートが戦えるのは、ダーククレセントのチャージタイムである5秒が過ぎるまでだろう。
ピートが倒れたら、レイシーとケイトはガーガーとリーリーの2体で戦わなくてはならない。厳しいどころの話じゃない。
それでもふたりの闘志は萎えなかった。レイシーの優しげな瞳にも、ケイトのクリクリした瞳にも、火が宿っている。
チッチーの翼から立ち上る黒い陽炎が、量を増していく。
ダーククレセントの発動まで、あと3秒、2秒、1秒――
――モルモルとチッチーを包んでいた白い光が消えた。
瞬間、レイシーが叫ぶ。
「バーストチャージ!」
『ワウッ!』
ピートが雄叫びを上げ、体を赤熱させて飛び出した。ターゲットはモルモルだ。
「無駄よ! ギリギリ届かないわ!」
『ガアッ!』
モルモル目がけて猛スピードで駆けるピートに向けて、チッチーがダーククレセントを放つ。
黒い陽炎が三日月となり、ピートに迫る。
それでもピートは足を止めない。
レイシーもピートも信じているからだろう。
「いえ! 無駄じゃありません!」
この世界ではゲームと違い、AGIがモンスターのスピードに影響している。
ピートのAGIは、モルモルのルートラッシュで一旦80%に減ったが、リーリーのギフトダンスで補われ、約133%になっていた。
これだけでは、モルモルに届く前に倒されてしまうだろう。だが、HPが半分を切ったことで、固有アビリティ『奮闘』が発動している。
『奮闘』が発動すると、すべてのステータスが10%上昇する。つまり、ピートの最終的なAGIは約146%。
133%ではギリギリ間に合わなかっただろうが――
「これなら届きます!」
『ガウッ!!』
ピートが咆哮し、バーストチャージがモルモルに叩き込まれた。
「なっ!?」
『ミュッ!?』
まさか届くとは思いもしなかったのだろう。フローラとモルモルがギョッと目を剥く。
モルモルが吹き飛ばされ、直後、ピートにダーククレセントが直撃した。
『キャウンッ!!』
ピートのHPが0になり、魔石へと姿を変える。
が、ピートは最後の使命を果たしていた。
『ミュ~~……』
ピート同様、モルモルのHPも0になり、バタンと倒れて魔石になる。
「そん、な……」
予想外の展開に、フローラが呆然と立ち尽くす。
その隙にケイトが指示を飛ばした。
「ガーちゃん! サイクロンショット!」
『クワァッ!』
ガーガーがサイクロンショットの準備に入り、フローラがハッと我に返る。
「――っ! クラクラ、『防御態勢』を解除! あなたも攻撃に加わって!」
『ブククッ!』
兜から出てきたクラクラが、シャキン、シャキン、とはさみを鳴らした。
「ここから逆転しましょう、ケイトさん!」
「うん! サポートよろしくね、レイシー!」
「させない! このまま勝たせてもらうわ!」
レイシーもケイトもフローラも眉を上げ、勝利をつかむべく指示を出した。
2対2の状況では、レベルの壁が大きすぎた。
3分後にガーガーが戦闘不能になり、攻撃スキルを持たないリーリーではどうしようもなく、フローラ対レイシー&ケイトの戦いは、フローラの勝利で幕を閉じた。




