努力するときは、目標設定が大事。――7
「本当に驚いたわ――あたしと同じ作戦だったなんて」
フローラがバッと腕を振る。
「チッチー! バーストチャージよ!」
「「ええっ!?」」
フローラの指示に、レイシーとケイトが瞠目した。
『ガアッ!』
チッチーがグッと大地を踏みしめ、ドンッ! と蹴る。
先ほどのピートと同じくチッチーの体が赤熱する。ターゲットは、バーストチャージで自傷したピートだ。
「マズ……っ! ケロちゃん、『ガーディアンフォース』!」
『ゲロッ!』
STRが高く、レベルが上回っているチッチーの攻撃を、ピートに受けさせてはならないと判断したのだろう。待機させていたケロに、ケイトが慌てて指示を送る。
ケロが一鳴きし、ピート、リーリー、ガーガーの体が白い光に包まれた。『10秒間、味方への攻撃を自分が受ける』魔法スキル『ガーディアンフォース』の発動だ。
チッチーのバーストチャージがピートに叩き込まれ、
『ゲロォ……ッ!』
攻撃を肩代わりしたケロが仰け反る。
ケロのHPが、モルモルと同じく半分になった。
チッチーのHPは満タンなので、『勝利のまじない』によってSTRが30%上昇している。それを踏まえれば耐えたほうだろう。
ケイトとレイシーが顔つきを険しくする。
「まさかバーストチャージだなんて……」
「スキル構成に組み込まれているとも思いませんでした……」
ふたりが驚くのも無理はない。初手バーストチャージというフローラの選択は、ある種、異常なのだから。
『勝利のまじない』による攻撃力上昇は、HPが満タンでなければ起きない。バーストチャージはHPを消費するスキルだから、常識的に考えれば相性が悪い。
加えてフローラのパーティーには、盾役と思しきクラクラがいる。
盾役の役割は文字通り、味方がダメージを食らわないようにすること。ヘイト値を稼ぐ『タウント』や、攻撃を肩代わりするガーディアンフォースを用い、身を張って攻撃を受けることだ。
クラクラを上手く運用できれば、チッチーは無傷で戦いを進められる。HPが満タンの状態を維持できたはずなんだ。
つまりフローラは、『勝利のまじない』による攻撃力上昇を、自ら捨てたことになる。非合理的としか言えない。
非合理的だからこそ、レイシーとケイトはバーストチャージを警戒していなかったのだろう。
フローラがしてやったりとばかりに口端を上げる。
「切り返された気分はどう?」
「やられました。ですが、これで『勝利のまじない』は効果を失いましたよ」
「こっちはこれから立て直せば大丈夫。むしろ、脅威がひとつ減ってラッキーだよ」
意表を突かれてもなお、レイシーとケイトは笑みを返した。
『勝利のまじない』による攻撃力上昇は強力だ。その効果が失われたのは、ふたりにとってありがたいだろう。
現状を前向きに捉えることも、士気を落とさないために大切だ。
だが、フローラの作戦は巧妙だった。
「たしかに『勝利のまじない』の効果は失われたわ。だから、こうするの」
フローラがモルモルに指示する。
「『ラウンドヒール』!」
『ミュッ!』
モルモルが応じ、手のひらを空にかざした。
その手のひらから、キラキラと光の粉が舞い上がる。
宙を舞う光の粉を眺め、レイシーとケイトがハッとした。
「全体回復スキル!?」
「そうか! バーストチャージをスキル構成に組み込んだのは、ラウンドヒールを踏まえてだったんだ!」
「ご明察」と、フローラが人差し指を立てる。
「バーストチャージはHPを消費する。HPが減れば、『勝利のまじない』は効果を失う。なら話は単純。回復スキルでもう一度発動させればいいのよ」
『ラウンドヒール』は、チャージタイム5秒。クールタイム1分30秒の魔法スキル。その効果は、『味方全員のHPを1/4分回復させる』だ。
ラウンドヒールによって回復できるHPは、バーストチャージで減ったHPと同量。つまり、チッチーのHPは満タンになり、『勝利のまじない』が再び効果を発揮する。
フローラははじめから、バーストチャージによる自傷をラウンドヒールで補うつもりだったんだ。
「チッチーだけじゃなく、モルモル自身もラウンドヒールで回復できる。優位に立たせてもらうわ」
レイシーとケイトが「「く……っ」」と歯噛みするなか、フローラは続けて指示を出した。
「クラクラも動くわよ! 『ソリッドフォーム』! チッチーは『ダーククレセント』!」




