努力するときは、目標設定が大事。――6
即座にレイシーが指示を出す。
「『エナジーアップ』です、リーリー!」
『リィ!』
リーリーが両腕を広げ、まぶたを閉じる。
『自身のSTR・INTを30%上昇させる』魔法スキル『エナジーアップ』の構え。チャージタイムは3秒。クールタイムは30秒。
自己強化スキルは、『自身のステータス上昇効果を味方にも与える』魔法スキル『ギフトダンス』を用いるリーリーにとって、常套手段だ。
しかもリーリーの装備品は、『ステータス上昇効果に5%分の上乗せがされる』効果を発揮する『恵みの指輪』。エナジーアップのステータス上昇補正は、30%ではなく35%になる。
支援に特化したチューニングと言えるだろう。
「ガーちゃんは『サイクロンショット』! ケロちゃんはひとまず待機で!」
『クワァッ!』
『ゲロッ!』
ガーガーが羽ばたき、大気が唸りだす。
チャージタイム5秒の風属性魔法攻撃『サイクロンショット』の準備モーションだ。
ケロにスキルを使わせなかったのは、フローラの行動に対処できるようにするためだろう。ケロは盾役だからな。
下手にスキルを使うと、チャージタイムのあいだ、ほかの行動をとれなくなってしまう。盾役にとって、その隙は致命的だ。
リーリー、ガーガー、ケロの初手は決められた。残るはピートだが――
「『バーストチャージ』です、ピート!」
『ワウッ!』
「――っ! いきなり来るか!」
レイシーの選択に、フローラが唇を引き結ぶ。
ピートがググッと四肢をたわめて力を溜め、
『ガウッ!』
地面がえぐれるほどの勢いで飛び出した。
燃え上がるように赤熱するピートの体。軌道上にいるのはモルモル。
ドゴン!
ピートがモルモルに突っ込み、ハンマーを振り下ろしたような轟音が響く。
『ミュ――ッ!?』
モルモルが目を丸くして吹き飛んだ。
ゴロゴロと地面を転がり、大きくバウンドしてからようやく止まる。
「モルモル!?」
『ミュゥ~~……』
グルグルと目を回しながらもモルモルは立ち上がる。
しかし、そのHPは半分になっていた。14ものレベル差があるとは思えないほどの大ダメージだ。
それもそのはず。モルモル=フラワーモールのVITは低い。一方、ピート=フレイムレトリーバーはSTRに優れ、攻撃性能が上がる、霊銀の腕輪も装備している。
そしてなにより大きい要因が、バーストチャージだ。
「初手バーストチャージか……やってくれるわね」
「奇襲は格上相手の対抗策です!」
「勤勉なことね」
眉を上げるレイシーに、フローラが笑みながらも冷や汗を掻く。
バーストチャージは、先制効果を持つうえに威力も非常に高い、優秀な物理攻撃スキルだ。モルモルのHPが半分も削られたのは、その威力ゆえだ。
ただしバーストチャージは、代償として最大HPの1/4分のダメージを受けてしまう諸刃の剣。そうポンポン打てるスキルじゃない。
フローラが虚を突かれたのは、「初手でバーストチャージを使うはずがない」と思っていたからだろう。
そして、レイシーが初手にバーストチャージを用いたのは好手と言える。奇襲以外にも利点があるからだ。
ピート=フレイムレトリーバーの固有アビリティは、『HPが1/2以下になると、全ステータスが10%上昇する』効果を発揮する『奮闘』。自分でHPを減少させられるバーストチャージとは相性がいい。
初手バーストチャージは、手早く『奮闘』を発動させられるため、有効な手なんだ。
「続いて行きますよ! 『シャープファング』です!」
『ワウッ!』
さらにレイシーは、直接物理攻撃スキル『シャープファング』を指示し、ピートが牙を剥いて唸りだした。
スタートダッシュを決めたのは、明らかにレイシー・ケイトだ。
しかし、フローラはこれしきでやられるようなタマじゃない。




