努力するときは、目標設定が大事。――4
荷物を運び終えた頃には3時を過ぎていた。
今日できることはもうほとんどないが、ひとつ決めておきたいことがある。
俺たちはクレイド家の屋敷を出て、近くにある小高い丘を登っていた。
日差しが強く気温は高い。海が近いためか湿度も高く、屋外で活動するには不向きな気候だ。
そんな状況で傾斜を登っているため、俺の肌には汗が滲んでいる。転生前の俺なら、暑さと疲労でへばっていただろう。
だが、いまの俺は息すら上がっていない。ロッド・マサラニアは結構体力があるらしい。
「ねえ、ロッド? 丘を登ってどうするの?」
俺のあとをついてくるフローラが、肩を上下させながら尋ねてきた。その顔は汗まみれで、色濃い疲労が貼り付いている。
「合宿の目標を決めようと思ってな」
「いい考えだね」
「目標を明確にすれば、効率的に努力できますしね」
エリーゼ先輩とレイシーが賛同する。ふたりも汗を掻いているが堪えている様子はない。意外とスタミナがあるようだ。
「目標を決めるなら屋敷でもできるでしょ? なんでこんなキツい思いしないといけないのよ?」
疲れているからかフローラの機嫌は悪い。ツンデレでも行き過ぎだ。ツンの範疇を超えている。
心の片隅で「悪いな」と謝りつつ、それでも俺は足を止めなかった。
「屋敷じゃ無理なんだよ。建物に被害が及ぶかもしれないからな」
「マサラニアさん、もしかして……」
聡明なミスティ先輩は、丘を登る目的に気づいたようだ。
俺は振り返って答える。
「自分の実力がわからないと正しい目標は見つけられませんからね。従魔勝負するのが一番っすよ」
丘のてっぺんにはなにもない。従魔勝負するにはうってつけなんだ。
丘を登り終え、全員の息が整うのを待ってから、俺は訊く。
「みんなの従魔はどれくらいのレベルだ?」
5人がそれぞれメニュー画面を開き、俺に知らせた。
俺たちの従魔のレベルは、
・俺
クロ:125レベル
ユー:124レベル
マル:124レベル
・レイシー
ピート:76レベル
リーリー:80レベル
・ケイト
ガーガー:76レベル
ケロ:75レベル
・エリーゼ先輩
ゲオルギウス:118レベル
ファブニル:123レベル
・ミスティ先輩
チェシャ:116レベル
ティア:115レベル
ティターン:126レベル
となっている。
ちなみにフローラの従魔は、90レベル、87レベル、83レベルだ。
それぞれの従魔のレベルを確認して、「よし」と俺は決める。
「レベル帯の近い者同士に分かれて勝負しよう。俺・エリーゼ先輩・ミスティ先輩と、レイシー・ケイト・フローラだ」
「レベル差がありすぎると勝負にならないですしね」
「妥当な振り分けだと思うよ」
ミスティ先輩とエリーゼ先輩が賛同し、レイシー、ケイト、フローラも首肯した。
「じゃあ、まずはレイシー・ケイト・フローラからだ」
「戦力的に、あたしたちは1対2にするとよさそうね」
「ネイブルさんの従魔は3体。レベル的にも、わたしたちより格上ですしね」
「ちょっと悔しいけどね」
ケイトが頭の後ろで指を組みながら唇を尖らせて、レイシーが「そうですね」と苦笑する。
レイシーとケイトには悪いが、フローラの判断は的確だ。
模擬戦の授業でも、フローラの実力は一頭地を抜いていた。レイシーとケイトは、協力しないと敵わないだろう。
フローラとの実力差はふたりも熟知している。だからこそ、1対2の提案を受け入れたんだ。
格上のフローラ相手に、レイシーとケイトは卑屈になることなく、むしろ戦士の顔を見せていた。
「負けませんからね! ネイブルさん!」
「あたしたちのタッグプレイを見せてあげるよ!」
「全力でかかってきなさい。返り討ちにしてあげるわ」
三人が強気な笑みを浮かべ、それぞれメニュー画面を開いた。
1ヶ月以上クラスメイトとして研鑽を積んできた三人は、それぞれの手の内を把握している。扱う従魔もプレイスタイルもだ。
この場合、大切なのはスキル構成になる。
固有アビリティ・スキル構成・装備品の組み合わせで多様な戦い方を編み出せるのが、従魔の特徴であり醍醐味だ。欠点が多い俺の従魔――ブラックスライム、ゴーストナイト、スパークアルマジロが活躍できるのも、ひとえに組み合わせの妙だ。
換言すれば、スキル構成ひとつで、従魔は自由自在に戦い方を変えられるということになる。たとえ手の内を知られていようとも、相手の意表を突くスキル構成にすれば、裏を掻けるんだ。
相手の従魔・戦い方に対して強いスキル構成にするか。
自分の従魔の強みを活かすスキル構成にするか。
戦い方がガラッと変わるようなスキル構成にするか。
裏の裏を掻いてまったくスキル構成を変えないか。
レイシーとケイトは相談しながら、フローラは黙り込んで、メニュー画面を真剣な目で眺めている。
勝負はすでにはじまっているんだ。




