努力するときは、目標設定が大事。――3
「お父様もお母様も、変わりなく仲良しさんですね。安心しました」
「いや、仲良しってレベルじゃないと思うんすけど……」
「付き合いたてのカップルかと勘違いしてしまうよ」
「そうでしょうか? 夫婦とはこういうものではありませんか?」
俺とエリーゼ先輩は、首を傾げるミスティ先輩の返答に、ポカンと口を開ける。
断じてこういうものじゃない。どこの世界に、客人の前でイチャつく夫婦がいるというのか。
「……なんていうか、ミスティ先輩のご両親って感じですね」
「この親にしてこの子ありね……納得感がスゴいわ」
レイシーが苦笑し、フローラが疲れたように吐息する。
フローラの感想に、俺は「まったくだ」と苦笑した。
思い返せば、ミスティ先輩って初対面の俺にいきなり告ってきたもんな。愛に生きてる感じが両親と瓜二つだ。遺伝子なんだろうなあ。
生温かい目で眺めていると、俺たちの視線に気づいたランスさんがハッとして、恥ずかしそうに頬を掻く。
「待たせているのにすまないね。ついノロケてしまった」
「いえ。お二人の人となりがよくわかりました」
レイシー、エリーゼ先輩、ケイト、フローラが、「「「「うんうん」」」」と俺に同意する。
もう一度「すまないね」と謝り、ランスさんが対面にあるソファーを示した。
俺たちが座ると、ソファーのクッションが大きく沈む。人をダメにする類いのソファーだな、これは。
「改めてはじめまして。ランス・クレイドと、妻のヴィオラだ。きみたちのことも教えてくれるかな?」
「わたくしがご紹介しましょう」
人好きのする表情を見せるランスさんに、ミスティ先輩が答える。
「こちらはエリーゼ・ガブリエルさん。わたくしと同じ四天王で、セントリア従魔士学校屈指の実力者です」
エリーゼ先輩が「よろしくお願いします」と背筋を伸ばす。
「レイシー・シルヴァンさんと、ケイト・アーディーさん。わたくしの後輩で、常々仲良くしていただいてます」
レイシーとケイトが、ペコリと頭を下げた。
「フローラ・ネイブルさんは、エストワーズ従魔士学校からの転校生です」
フローラが「はじめまして」と会釈する。
「ロッド・マサラニアさん。わたくしの恋人になられる方です」
「「「「「ちょっと待った!!」」」」」
俺たちは一斉にツッコんだ。
「なんですか、その嘘だらけの紹介は!」
「抜け駆けはなしのはずです!」
「その通りよ! ちゃんと言い直してください!」
「ふふっ、おふざけがすぎましたね」
レイシー、エリーゼ先輩、フローラの猛抗議に、ミスティ先輩がお茶目に舌を出した。
「申し訳ありません、お父様、お母様。いまのは冗談です」
レイシー、エリーゼ先輩、フローラが「「「うんうん」」」と頷く。
「マサラニアさんは、わたくしの夫になられる方です」
「「「反省してない!!」」」
レイシー、エリーゼ先輩、フローラが、威嚇するネコみたいに肩を怒らせた。
そんな姦しいやり取りを眺め、なにかを察したのか、ヴィオラさんが目つきを鋭くする。
「ミスティさん? それはイバラの道ですよ? 覚悟はおありですか?」
「もちろん承知の上です。お母様がわたくしでしたら、引きますか?」
ミスティ先輩がイタズラげにウインクして、ヴィオラさんがゆっくりまぶたを閉じた。
「……血は争えないものですね」
まぶたを開け、ヴィオラさんがニコリと笑む。
「いいですか、ミスティさん? 女は攻めあるのみです。遠慮してはいけません、躊躇ってもいけません、ガンガン参りましょう。ランスさんを射止めたわたくしのように」
「お母様のお言葉、しかと心にとどめます」
「「「勝手に話を進めないでもらえません(もらえないかな)(もらえない)!?」」」
「マサラニアくん。僕のことはお義父さんと呼んでくれて構わないよ」
「ちょっとなに言ってるかわかんないっすね」
ホント、ミスティ先輩の家族はどこまでもぶっ飛んでる。
「流石はミスティ先輩のご両親だねぇ」
まったくだ、ケイト。俺もそう思う。




