プロローグ――2
「みなさん、こちらです」
中庭を訪れた、俺、レイシー、ケイト、フローラに、ベンチに腰掛けていたミスティ先輩が手を振る。
ミスティ先輩の隣にはエリーゼ先輩もいた。
「みんな、一学期おつかれさま」
「エリーゼ先輩とミスティ先輩もおつかれさまっす」
俺が答えると、エリーゼ先輩とミスティ先輩が笑顔を浮かべる。
俺たちが中庭に集まったのは、一学期終了にあたってみんなで昼食にいこうと、あらかじめ約束していたからだ。
「さて。どこで食事しようか?」
「レストにしませんか? エリーゼ先輩」
「レイシーに賛成!」
エリーゼ先輩の問いかけにレイシーが提案し、ケイトが勢いよく手を挙げて賛同する。
ちなみに『レスト』とは、レドリア学生選手権、および、イービルヴァルキリー討伐の打ち上げに用いたレストランだ。
料理もデザートもドリンクに至るまで文句なしに美味いので、俺たちは全員常連となっている。
俺、ミスティ先輩、フローラも賛成し、昼食はレストでとることにした。
中庭を出て廊下を歩いていると、俺たちに気づいた周りの生徒たちが、目を丸くしたり、コソコソ耳打ちしたり、「キャ――ッ!」と黄色い声を上げたりする。
「ど、どうしたのでしょう? みなさん、ざわついてますが……」
「あたしたち、騒ぎになるようなことしたかな?」
「騒ぎになるのも当然だろ。俺たちは結構な有名人だし」
レイシーとケイトが「「ほぇ?」」と首を傾げる。キョトンとした表情がおかしくて、自然と笑みが漏れた。
「わたくしとエリーゼさんは四天王。ロッドくんは名実ともにセントリア従魔士学校最強の従魔士」
「ネイブルくんも相当な実力者だし……あれの件もあるしね」
「「あれですね……」」
「な、なによ、その責めるような目は。あたしがロッドの許嫁なのは事実でしょ?」
エリーゼ先輩、レイシー、ミスティ先輩のジトッとした目に、フローラがたじろぎながらも言い返す。
四人に気づかれないよう、俺は溜息をついた。
許嫁云々の話が出るたび、やたら険悪なムードになるんだよなあ、この四人。こんなふうになるなら、蒸し返さなければいいのに。
「それは無理だよ、ロッド。女には譲れないときがあるのさ」
「なに言ってるかわからんが、とりあえず心を読むのはよせ、ケイト」
ふっ、とシニカルに笑うケイトに俺はツッコむ。
こいつ、時々意味深なこと言うんだよな。一体なにを知ってるのやら。
「ロッドくんたちが注目されるのはわかりますけど、わたしとケイトさんはそこまで騒がれるでしょうか?」
「たしかにあたしたち、別段スゴいことしてないよね?」
「いえいえ、お二人は有望株として有名なのですよ?」
「有望株?」
「あたしたちが、ですか?」
ミスティ先輩が人差し指を立てて指摘するも、レイシーとケイトはピンときてない様子で眉根を寄せる。
「お二人とも一年生にもかかわらず、ウェルト空間の探索に参加されたじゃありませんか」
「ウェルト空間の探索には、50レベル以上の従魔が必要となるからね。一年生の、しかも一学期で、50レベル以上の従魔を有しているのは驚愕以外のなにものでもないんだよ」
「「けど、ロッド(くん)は?」」
「「ロッドくん(マサラニアさん)は埒外の存在だよ(ですから)」」
レイシーとケイトが質問をハモらせ、エリーゼ先輩とミスティ先輩が答えをハモらせた。
フローラが親指で俺を示す。
「側にいる所為で感覚が麻痺してるわね。はっきり言ってロッドはおかしいわ。宇宙人みたいなものよ」
レイシーとケイトが、「「ああ……」」と諦めたような苦笑を浮かべた。
自分で言うのもなんだが、たしかに俺はおかしいよな、この世界の住人にとっては。ゲーム知識に加えてチート能力をふたつも持ってるんだから当然だけど。
「わたしたちが騒がれる理由はわかりましたけど……」
「なんていうか居心地が悪いね」
「こればっかりは仕方ねぇよ。有名税だと思うしかない」
むず痒そうに唇をムニャムニャ波打たせるふたりに、俺は肩をすくめてみせる。
「騒がれるのは頑張った証。レイシーとケイトが努力してきたからだ」
「わたしたち、成長できたのでしょうか?」
「もちろんだ。次期四天王候補とも言われてるんだぞ?」
「わたくしたちも、うかうかしてられませんね」
「ええ。油断していると足をすくわれてしまいます」
ミスティ先輩とエリーゼ先輩が冗談めかして言うと、実感が湧いたのか、レイシーとケイトは顔を輝かせた。




