プロローグ――1
フローラが転校してきた当初は、とにかく騒がしくて大変だった。
女子生徒からはフローラとの関係について質問攻めにあったし、男子生徒からは冗談・本気含めやっかまれまくったし。
それもこれも、フローラが俺の許嫁だと暴露したからだ。
フローラもフローラで根掘り葉掘り聞かれたが、どこか楽しんでいるように映った。そしてなぜか、レイシーや、噂を聞いたエリーゼ先輩、ミスティ先輩は、機嫌が悪いようだった。
彼女たちの様子に首を傾げる俺を、「果報者だねぇ、ロッドは」とケイトが肘で小突いてきた。どこをどう捉えて果報者と称したのかはわからずじまいだったが。
フローラが俺の許嫁なのは事実だし、否定することはできない。おかげで俺は毎日クタクタだった。
まあ、当事者じゃなければ俺もはやし立てる側に回っていただろうから、文句は言えないけれど。
そんな騒ぎも1週間経てば収まり、ようやく平穏が戻ってきた。フローラもクラスに馴染んだらしく、クラスメイトと談笑する姿も見かけるようになった。
それからさらに1ヶ月後。
「今日で一学期は終了だ」
教壇に立つリサ先生の知らせに、生徒たちが喜びの声を上げる。
早くもお祭りムードな生徒たちに、「話は途中だぞ」とリサ先生が注意した。
生徒たちが静かになると、コホン、と仕切り直すように咳払いして、リサ先生が再び口を開く。
「入学から4ヶ月。従魔士になったばかりのきみたちには、よくも悪くも刺激的な日々だったと思う。が、学びの多い日々だったことも事実だ。これから1ヶ月半の長期休暇に入るが、学ぶことを忘れず――」
リサ先生の話が続くなか、俺はこの4ヶ月を振り返った。
『贈魔の儀』で、激レアモンスターであるクロを獲得したこと。
レイシーを馬鹿にしていたカール・ヒルベストンとの対立。
当時はレイシーのお姉さんだと知らなかったエリーゼ先輩との勝負。
レイシーを生け贄にさせないために挑んだタイラントドラゴンの討伐。
レドリア学生選手権への参加、ミスティ先輩との対決、そして優勝。
スペルタンが企んでいた、レドリア王殺害の阻止。
ウェルト空間の探索と、ディメンジョンキマイラとの激闘。
我ながら恐ろしいほど濃密な4ヶ月だったな。前世では考えられないほどイベントだらけだ。
机に肘をつきながら乾いた笑いを漏らし、俺は律儀にリサ先生の話を聞くレイシーのほうへ視線を向けた。
レイシー、ケイト、エリーゼ先輩、ミスティ先輩、フローラとの出会いは、俺にとってとても大きなものだ。
正直、転生当初は、モンスターや従魔士との対戦を楽しむことしか頭になかった。
けれどいまは、五人との時間が、モンスターや従魔士との対戦と同じくらいかけがえがないと感じる自分がいる。転生前の俺では考えられなかったことだ。
なにしろ、仕事や、食事・睡眠・トイレといった必要不可欠な時間以外、すべてゲームにあてていたからな。女性との縁なんてあるはずなかったんだ。
「人間、随分と変わるもんだよなあ」
しみじみと呟くなか、リサ先生が話を絞める。
「なにはともあれ4ヶ月よく頑張った。休みのあいだ、しっかり英気を養ってくれ」
こうして、セントリア従魔士学校の一学期は幕を閉じた。




