離れていても力になれるって、案外本当。――16
俺は『不思議なバッグ』から『魔法のスクロール』を取り出す。街案内のお礼として、フローラからもらったものだ。
「クロ! この『魔法のスクロール』を読んでくれ!」
『ピィッ!』
クロが力強く頷き、床に広げられた『魔法のスクロール』に目を通しはじめる。
「クロがスキルを修得するまで耐え抜く! 耐えきれば俺たちの勝ちだ!」
「またロッドがなんか企んでるみたいだね」
「それなら話は簡単だ」
「クロさんがスキルを修得するまで、わたしたち全員でディメンジョンキマイラを食い止めます!」
「マサラニアさんとクロさんが、きっと勝負を決めてくださいますしね」
4人が強気な笑みを見せ、それぞれの従魔に指示を出した。
「ファブニル、ウェポンエンチャントだ!」
「ティターン、グランファウンテンです! ティアはイヴェンジェル!」
「ソリッドフォームです、リーリー!」
『GOOOOHH……!』
『OOOOOOHH……!』
『ラー……!』
『リィ!』
ファブニルとリーリーが力を溜め、ティターンが床に両手をつき、ティアが祈るように指を組む。
ファブニルとティアは攻めの手始めとして、リーリーはギフトダンスによる支援を目的としての、自己強化スキル。
ティターンは、『30%の確率で相手のAGIを10%下げる』追加効果を持つ、水属性の魔法攻撃スキルの準備だ。
『GYAGYAGYA……!』
対し、ディメンジョンキマイラは4発目のエナジーバーストの準備に入る。
わずかな間が空いた。
クロが一生懸命『魔法のスクロール』を読んでいる。
『GOOOOOOHHHH!』
『リィ!』
『ララー!』
ファブニルのウェポンエンチャントと、リーリーのソリッドフォーム、ティアのイヴェンジェルが発動。ファブニルのSTRとVITが、ティアのINTとMNDが、リーリーのVITとMNDが、それぞれ上昇した。
「次はバレットタックルだ、ファブニル!」
「ティア、ブルーストリーム!」
「リーリーはエナジーアップです!」
『GOOOOHH……!』
『ラー……!』
『リィ!』
続いて、ファブニルは直接物理攻撃、ティアは水属性魔法攻撃、リーリーはSTRとINTを上げにかかる。
『ピィッ!』
そこで、クロが『魔法のスクロール』から顔を上げ、俺に目を向けた。
クロの顔は「準備万端! いけるよ!」と言うように凜々しい。
「よし! じゃあ、一丁いくか!」
俺はメニュー画面を開き、素早くクロのスキル構成を組み替える。
エナジーバーストの準備モーションで輝きを強めるディメンジョンキマイラを見据え、俺はブラックスライムの定石を打った。
「アブソーブウィスプ!」
『ピィ……ッ!』
《《この型》》の基板となるのも、アブソーブウィスプからの『分裂』だ
換言すれば、『分裂』体勢を整えるのがミソ。
『ピィッ!』
アブソーブウィスプが発動。紫色の火の玉がディメンジョンキマイラにまとわりつく。準備完了だ。
『GYAGYAGYAGYAGYAGYAGYA!!』
しかし、そうはさせないとばかりに、ディメンジョンキマイラがエナジーバーストを発動させた。
ディメンジョンキマイラが放っていた輝きが爆発的に膨れ上がり、俺たちの従魔に迫る。
「ロッドくん!」
「大丈夫だ、レイシー」
不安げに眉根を寄せるレイシーに、俺は堂々と答えた。
「みんなが助けにきてくれたおかげで、手は残ってる!」
命じる。
「マル! ガーディアンフォース!」
『キュウ!』
マルが万歳するように両手を空に伸ばし、残りの従魔の体が、白い光に包まれた。




