離れていても力になれるって、案外本当。――8
「不可解そうな顔だな。エレクトリックオーバーフローを用いる理由がわからないか?」
わたしたちの疑問を見透かしたのか、ゲルド・アヴェンディが話しかけてきた。
「さしずめ、効果に対してデメリットが大きすぎると考えているのだろう――そのようなこと、百も承知だ」
「見たまえ」と、ゲルド・アヴェンディがボルトバーサーカーの頭を指さす。
ボルトバーサーカーの頭にはバンダナが巻かれていた。黄色地に、黒の縞が入ったバンダナだ。
わたしはハッとする。
「『除雷のバンダナ』でデメリットを軽減するつもりか!」
「如何にも」
ゲルド・アヴェンディが頷いた。
『除雷のバンダナ』は、『「麻痺」状態が本来の半分の時間で治る』効果を発揮する装備品。
除雷のバンダナを装備させておけば、『麻痺』が5秒で治るため、エレクトリックオーバーフローの隙を8秒に縮めることができるのだ。
この5秒間の短縮は非常に大きい。5秒あれば大抵のスキルが一回使える。即ち、一手分、得するのだ。
「デメリットがあるからと除外するのは、思考の放棄にほかならない。デメリットがあるなら軽減してやればいいだけだ」
わたしたちの頬を汗が伝った。
ロッドくんは工夫と戦略により、デメリットだらけの従魔を最強クラスに仕立てている。ゲルド・アヴェンディも同じだ。
ゲルド・アヴェンディの考え方はロッドくんと似ている。それは、ゲルド・アヴェンディが、わたしたちの想像を遙かに超える強敵であることを示唆していた。
「こちらも攻撃させてもらおう。『チェインライトニング』だ、スリーアイズフォックス」
『キュオ……!』
スリーアイズフォックスが姿勢を低くして尻尾を上げる。パリパリと音を立て、尻尾が帯電をはじめた。
クレイド先輩が歯噛みする。
「雷属性の攻撃スキル……!!」
「驚くほどのものではない。弱点属性への対策は常識ではないか?」
火属性は水と土に弱い。本来、火属性のスリーアイズフォックスは、水属性のティアに不利だ。
しかし、雷属性は水属性に強い。スリーアイズフォックスに雷属性の攻撃スキルを修得させておけば、水属性対策になる。
先ほどゲルド・アヴェンディは、スリーアイズフォックスは修得するスキルの範囲が広いと言っていた。あの発言と、ゲルド・アヴェンディの腕前を考慮すると、もうひとつの弱点である、土属性への対策も講じている可能性が高い。
「負けっぱなしではいられません! 『シャドーヴェール』です、チェシャ!」
『ミャオ!』
自らを鼓舞するように、クレイド先輩が声を張った。
スリーアイズフォックスを、薄闇色のカーテンが覆う。『相手のDEXを30%減少させる』魔法スキル『シャドーヴェール』だ。
『ララー!』
ティアも動く。組んでいた指を解き、両手を掲げた。
イヴェンジェルの発動。ティアの体を純白のオーラが包み、INTとMNDを上昇させる。
『GOOOOOOHHHH!』
ファブニルもウェポンエンチャントを発動させた。
赤銅色のオーラがファブニルの体から立ち上り、STRとVITが増加する。
「ティア、続いて『ブルーストリーム』です!」
「ファブニルは『バレットタックル』!」
『ラー……!』
『GOOOOHH……!』
即座にわたしたちは次の指示を送った。
ティアが両の手のひらを前に突き出し、その手のひらで水が渦巻き出す。水属性魔法攻撃『ブルーストリーム』。チャージタイムは5秒、クールタイムは10秒。
ファブニルは巨体を沈ませて力を溜める。物理攻撃スキル『バレットタックル』。チャージタイムは4秒、クールタイムは10秒。
ファブニルは『物理攻撃を土属性にする』装備品『大地の腕輪』を装備しているため、バレットタックルは土属性攻撃になる。弱点属性なので、雷属性のボルトバーサーカーには威力倍増だ。
水属性のブルーストリームも、火属性のスリーアイズフォックスにとって弱点属性。
攻めて攻めて攻めて、流れを作る!




