離れていても力になれるって、案外本当。――2
「いいだろう。冥土の土産だ」
ゲルドが表情を変えないまま答える。
「我々には、スペルタン帝国が編み出した『支配の秘法』という秘術がある――ロードモンスターを支配する術がな」
レイシー、ケイト、エリーゼ先輩、ミスティ先輩が瞠目した。
「ロードモンスターを支配する秘術!? そんなの聞いたこともありません!」
「当然だ。スペルタンのみが有する秘匿された技術だからな」
驚愕するレイシーに、ゲルドが淡々と指摘する。
なるほど。ゲーム内でスペルタンのメンバーが、ロードモンスターを操っていたことがあったが、そのからくりは『支配の秘法』だったわけだ。
「本当だとしたら、脅威以外のなにものでもないね」
「ですが、ロードモンスターを支配するなどという離れ業を、なんのデメリットもなく使用できるとは思えません」
頬に冷や汗を伝わせるエリーゼ先輩の隣で、ミスティ先輩が目つきを険しくした。
「きみも聡いようだ、ミスティ・クレイド。きみの想像通り、『支配の秘法』には相応の代償がある」
ゲルドが打ち明ける。
「『支配の秘法』を用いるには、対象となるロードモンスター以上のレベルを持つモンスターの、魔石を10個消費しなければならない」
「「「「なっ!?」」」」
レイシー、ケイト、エリーゼ先輩、ミスティ先輩が息をのんだ。
「ディメンジョンキマイラを従えるために、10体の従魔を犠牲にしたってこと!?」
「ひどい……!!」
ケイトが眉をつり上げ、レイシーが青ざめて口元を覆う。エリーゼ先輩とミスティ先輩も憤っている様子だ。
非難する4人を前にして、なおもゲルドは平然としていた。
「より強大な力が手に入るなら、安い犠牲だ」
「まあ、効率的と言えなくはない」
「ロッドくん!?」
ゲルドのやり方を肯定するような俺の発言に、エリーゼ先輩がギョッとする。
俺は続けた。
「だが、結局あんたは、ロードモンスターの威光を傘に着てるだけだ。モンスターの真価を引き出せないから、お手軽に力をつけようとしてるだけだろ」
そんなものは改造行為と大差ない。ただズルしているだけだ。
「『支配の秘法』を使うことは、自分が無能だって宣伝してるようなもんだ。あんたに、従魔士を名乗る資格はねぇよ」
「どうとでも言うがいい。私はスペルタンの一員として、力を求めるだけだ」
『GYAGYAGYAGYAGYAGYAGYA!!』
ディメンジョンキマイラが牙を剥き、主への非難に反発するかの如く吠えた。
ディメンジョンキマイラの咆哮に小揺るぎもせず、俺は魔石を構える。
「正直なところ、あんたがどんな手段をもって力を求めようと構わねぇ。俺の知ったことじゃねぇよ」
ただ、
「あんたは俺の許嫁を傷つけた――落とし前はつけてもらうぜ?」
俺は魔石を放り投げ、クロ、ユー、マルを呼びだした。
レイシー、ケイト、エリーゼ先輩、ミスティ先輩も、それぞれの従魔を繰り出す。
「望むところだ。どのみち私は、きみたちを帰すつもりなどないのだから」
ゲルドが俺たちを指さした。
「彼らを分断しろ、ディメンジョンキマイラ」
『GYAGYAGYAGYAGYAGYAGYA!!』
ディメンジョンキマイラが天を仰ぎ――タイル張りの床に、光の線が走った。
光の線は、俺たちの足元にも引かれている。
「散開!!」
咄嗟に俺は叫び、反応した4人とともに左右に飛び退った。
光の線が一層輝き、天井に向かって伸び上がる。
展開されたのは光の面だ。
6階層を左右に分断するように展開された光の面は、やがて輝きを失い、消えた。
「なんだったんだ、いまのは?」
「とにかくロッドと合流しましょう!」
エリーゼ先輩が訝しみ、右へ跳んだ俺のもとに、ケイトが歩み寄ってくる。
「あ痛っ!?」とケイトが額を抑えたのは、直後のことだ。
「どうしたんですか、ケイトさん?」
「ここに壁みたいなものがあるんです!」
疑問するミスティ先輩に、ケイトが光の面があった場所を指さす。
ミスティ先輩が手を伸ばし、目を丸くした。
「ど、どうして!? ここより先に進めません!」
残りの3人も、見えない壁に阻まれてギョッとしている。
俺は舌打ちした。
「ディメンジョンキマイラの仕業か」
「その通りだ。ディメンジョンキマイラは空間を司るモンスター。その特性を利用して、きみたちを分断させてもらった。特にきみは厄介だからな、ロッド・マサラニア」




