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離れていても力になれるって、案外本当。――1

 俺たちは6階層へと続く階段を駆け上っていた。


 6階層へ向かえるのは、従魔同士の戦いで勝利したほうのみだ。そのため、誰かと対戦する必要があるのだが、フローラたちが協力してくれたので解決した。


 パーティー内で戦えば、メンバーが欠けて戦力が下がってしまう。そうならないよう、疲弊(ひへい)した状態ながら、俺たちと対戦してくれたんだ。


 おかげで、誰ひとり欠けることなく6階層へたどり着ける。フローラたちにバトンを(たく)されたんだから、なんとしてもゲルドの(たくら)みを阻止(そし)しないといけない。


 しかし……不可解な点があるな。


 階段を駆けながら、俺は思案(しあん)する。


 この世界の住人は、ウェルト空間の3階層より先に進んだことがない。つまり、4階層以降になにが待っているのか、知らないはずだ。


 それなのに、ゲルドは6階層に用があると明言していた。6階層になにがあるのか、ゲルドは把握していたということだ。


 なぜ、ゲルドは知り得るはずのない知識を持っていたんだ?


 考えて、俺は(かぶり)を振った。


 いくら推測しようと答えは出ないんだ。それなら、ゲルドを打ちのめして吐かせたほうが、話が早いだろ。


 階段を上りきり、俺たちは6階層に踏み入った。


 6階層は、神殿を連想させる造りだ。左右に円柱が並び、奥には台座が設けられている。


「私を追ってきたか。6階層までたどり着くとはたいしたものだ。きみたちの評価を改めなければならないな」


 苦虫を噛みつぶしたような表情の男――ゲルドは、台座の前に立っていた。


 ゲルドの背後には、異形が控えている。


 蛇の尻尾、猛禽(もうきん)の翼、熊の胴体、狼の四肢(しし)、頭はライオンのもの。その体躯(たいく)は目測で5メートルを超える。


 ゲルドに従うように(こうべ)を垂れるそのモンスターに、俺は流石(さすが)に目を見張った。


「『ディメンジョンキマイラ』を目覚めさせたのか!」




 ディメンジョンキマイラ:200レベル




 ディメンジョンキマイラは、ウェルト空間の隠しボスだ。


 INTが非常に高く、MND、HPも高い。


 唯一(ゆいいつ)弱点と言えるのはAGIの低さだが、それ以外のステータスは文句のつけようがない、6本ものHPバーを持つ、土・闇属性のロードモンスターだ。


 俺が驚いたのは、ディメンジョンキマイラの出現条件が限られているからだ。


 ディメンジョンキマイラは、ウェルト空間の構造変化・強制転移を起こしているモンスターで、出現させるには、この6階層で手に入る『亜空間(あくうかん)(かぎ)』を、台座の前で使用しなければならない。


 ちなみにゲームの場合は、『亜空間の鍵』を入手すると同時にウェルト空間の外に戻されるため、ディメンジョンキマイラと対面できるのは、2回目の探索(たんさく)以降だ。


 当然ながら、この世界の住人が、ディメンジョンキマイラの出現条件を知っているはずがない。


 明確な目的を持って6階層を目指していたことも含め、ゲルドには謎が多いな。


 俺が(いぶか)しんでいると、ゲルドが「ほう」と感心した。


「ディメンジョンキマイラについて知っているとは……やはりきみはただ者ではないな、ロッド・マサラニア。ジェイクとアクトを捕らえただけはある」

「スペルタンの幹部に褒めていただけるとは光栄だな。ついでに、ディメンジョンキマイラをどうやって従えたのか、教えてもらえると嬉しいんだが」


 皮肉を交え、俺は尋ねる。


 ディメンジョンキマイラはロードモンスターであるため、ほかのモンスターのように従魔にすることはできない。ゲームでも、出現と同時に対戦に突入する。


 ディメンジョンキマイラは、間違っても仲間になることはないんだ。


 だが、俺たちの前にいるディメンジョンキマイラにゲルドを襲う様子はなく、(こうべ)を垂れたまま(たたず)んでいる。


 すなわち、ゲルドはなんらかの手段をもって、ディメンジョンキマイラを従えたということだ。

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