弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――15
「スゴいです! ブラックスライムでサンダービーストに勝つなんて……魔法みたいです!」
セントリア従魔士学校には、セントリア郊外から入学した学生用の寮がある。
その学生寮に戻る俺の隣を歩きながら、レイシーが興奮気味に、両腕をブンブンと振った。
カールとの模擬戦は俺の完封勝利。
思いも寄らない展開だったようで、リサ先生含め、クラスメイト全員が唖然としていた。
その一戦のあと、レイシーは俺のもとを訪れ、
「巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」
と頭を下げたのち、
「それにしても、ロッドくんはスゴいですね!」
と尊敬の眼差しを向けるようになり、いまに至る。
エメラルドの瞳をキラキラさせながら、ちょこちょことついてくるレイシーは、どこか小動物を連想させて、微笑ましい。
「あんな戦い方、想像もつきませんでした! ロッドくんは、まさに知将ですね!」
「さっきから褒めてばっかりだなあ、レイシー」
「ロッドくんがスゴすぎるからですよ! どうやったら、あれだけ巧妙な戦法を考えつけるのですか?」
レイシーに質問され、俺は口ごもった。
Wikiとか見て研究したんだよ――とは流石に言えないよなあ、意味わかんないだろうし。
異世界から転生したことを打ち明けても、頭がおかしいと思われるだけだろうしなあ……。
「昔から、従魔士の戦い方を研究してきたんだよ」
しばらく考えて、俺はそう答えた。
俺は子どものころからファイモンに熱中していたから、一応、嘘ではない。
「ロッドくんは勉強熱心なのですね!」
俺の答えを微塵も疑わないで、「ふぉおおおお……!」とレイシーが感嘆の声を上げる。
なんとも純粋な子だ。
「おい、マサラニア!」
レイシーの様子に苦笑していると、背後から乱暴な声がかけられる。
振り返ると、苦虫をかみつぶしたような顔で肩を怒らせる、カールがいた。
「おお、カールか。さっきはいい試合だったな、またやろうぜ」
「バカにしているのか! あんな戦いは無効だ!」
にこやかに片手を挙げる俺に、カールは唾を飛ばしながらイチャモンをつけてきた。
「この僕がブラックスライム如きに負けるはずがない! 不正を働いたんだろう、お前は!」
「言い掛かりはやめてください! ロッドくんは正々堂々戦ったじゃないですか!」
「はっ! 口ではなんとでも言えるだろ! 僕にはわかるんだよ、そいつが後ろ暗いことをしているってね!」
俺を庇うレイシーに、カールが不快な笑みを向ける。
その発言、完全にブーメランだぞ、カール。お前、パワーレベリングしたじゃねぇか。
心のなかで嘆息しつつ、俺はポリポリと頬を掻いた。
それにしても、ここまで往生際が悪いとは思わなかった。俺が落ちこぼれじゃないと証明すれば、カールも態度を改めるだろうと考えていたんだがなあ……。
「そこまでにするんだ、ヒルベストンくん」
どうしたものかと悩んでいると、横合いから凜とした声が聞こえた。
そちらを見ると、コツコツとブーツを鳴らしながら歩いてくる、ひとりの女子生徒が映った。
スレンダーな体型の長身美女だ。
太陽光を浴びて輝く、銀色のポニーテール。
処女雪と見紛うスノーホワイトの肌。
切れ長の翠眼に、シュッとした細面。
「ガ、ガブリエル先輩!」
イジワルそうに顔を歪ませていたカールが、慌てて姿勢を正す。
彼女の姿と『ガブリエル』の名を聞いて、俺は目を見開いた。
四天王のひとり、エリーゼ・ガブリエル! やっぱりこの世界にもいたか!
ファイモンには、四天王と呼ばれる、トップクラスの従魔士が登場する。セントリア従魔士学校の生徒のなかで、上位4名をそう呼ぶそうだ。
エリーゼ・ガブリエルは、四天王で唯一の2年生(残りの3名は3年生)。
最年少の四天王でありながら、セントリア従魔士学校の3位に君臨する才女。英雄の血を継ぐ『ガブリエル家』の跡取りだ。




