女性に優しくする理由は、男にはいらない。――2
「『個の力』が『ひとりの力』って意味だとしたら、俺たちはファイアードラゴンに『個の力』で挑まなかったことになる」
「なるほど! ファイアードラゴンは、ひとりで倒さなければいけないということだね?」
「おそらくはそうです」
エリーゼ先輩に頷きを返す。
さも、いま気づいたようなふりをしたが、俺ははじめから、4階層の暗号の答えを知っていた。
ファイアードラゴンに全員で挑もうとしたのに止めなかったのは、一度失敗したほうが、俺の言うことに説得力が出るからだ。
情報がほとんどない状態で正解しても、なぜ当てられたのか不審がられるかもしれないからな。
「もう一度、ファイアードラゴンの大部屋まで行こう。今度は俺ひとりで挑んでみる」
「「「「了解!」」」」
俺たちは再び通路を進み、ファイアードラゴンと対峙した。
俺は一歩踏み出し、魔石を放り投げる。
「行くぞ、クロ! ユー! マル!」
『ピィッ!』
『ムゥ!』
『キュウ!』
3体の従魔が並び立つ。
強制転移は起きなかった。
「「「「おおっ!」」」」と4人が湧く。
「ロッドくんの言うとおりですね!」
「流石だ!」
レイシーとエリーゼ先輩が歓声を上げるなか、ファイアードラゴンの双眸が俺に向けられた。
俺を敵と見なしたようだ。
『GYYYAAAAAAAAHH!!』
ファイアードラゴンの咆哮が大部屋に反響する。
俺は咆哮を真っ向から受け止めながら、背後にいる4人に話しかけた。
「俺とファイアードラゴンの戦闘から、ファイアードラゴンのスキル構成や戦い方を観察してくれ!」
「どうして? ロッド」
「この先、俺以外の4人も戦うことになるだろうからだ、ケイト」
「わたしたちも、ですか?」
「ああ」とレイシーに返事をして、俺は続ける。
「暗号には、『各々、個の力で』とあった。『各々』ってのは、『パーティーメンバー全員がそれぞれ』って意味だろうからな」
4人がはっと息をのむ音が聞こえた。
「そして、この先で待っているモンスターは、ファイアードラゴンと同系統のモンスターである可能性が高い。1階層のエイシュゴーストや、3階層のエレメントゴーレムみたいにな」
「たしかに、これまでのクリア条件は、『同系統のモンスターを倒す』ものである傾向がありましたし、エイシュゴーストのスキル構成、エレメントゴーレムのスキル構成は、それぞれがほとんど同じでしたね」
「ならば、4階層も同じ。だからこそ、ファイアードラゴンのスキル構成、戦い方を観察し、自分の戦闘に役立ててほしいということだね?」
「その通りっす」
ミスティ先輩とエリーゼ先輩に答える。
もちろん、推測でなく確信だ。
この先で待ち構えているのは、ファイアードラゴンと属性違いの、ドラゴン系モンスター。スキル構成も、攻撃スキルの属性を除いては、どれも一致している。
ちなみに、1階層でエイシュゴーストと戦わせて、レイシーとケイトに経験を積ませたのは、この階層を見据えてだ。
パーティーメンバー全員が挑まなくてはならない以上、レイシーとケイトもドラゴンとの戦いを避けられない。しかも、自らの力で倒さなくてはならない。
経験を積ませるに越したことはなかったんだ。
4人への説明を終え、こちらを睨み付けるファイアードラゴンに、俺は好戦的な笑みを向ける。
「じゃあ、いっちょう戦ろうぜ!」
『GYYYAAAAAAAAHH!!』
望むところだと言わんばかりに、ファイアードラゴンが吠えた。




