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ダンジョン攻略は、予備知識で決まる。――9

 2階層へ上った俺たちは、1階層同様、マッピングとアイテム採取を行い、広間にたどり着いた。


 広間には1階層と同じく、石版が載せられた台座があり、しかし――


「扉がありませんよ!?」

「これじゃあ、先に進めないじゃん!」


 レイシーの言うとおり、金属製の扉がなかった。


 扉がないということは、階段もないということだ。現状、3階層へ進む手段はない。


 それでも俺は慌てず騒がず、石版を指さす。


「ひとまず暗号を確認しよう。悩むのはそれからだ」

「そ、そうですね!」


 狼狽していたレイシーが、暗号を読み上げた。


「『4つの石碑(せきひ)に触れ、急がば回れ』」

「『4つの石碑』は、ここに来るまでに見つけたもののことじゃないだろうか?」


 エリーゼ先輩が意見する。


 マッピングの最中(さいちゅう)、俺たちは巨大な石碑を4つ発見していた。


 エリーゼ先輩の予想は当たりだ。この暗号が示唆(しさ)する条件には、あの石碑が関わっているんだ。


「ですが、肝心(かんじん)の扉がありません。マッピング中に見つけられなかったということは、2階層のどこにもないということですし……」

「見逃したのでしょうか?」

「もしくは、どこかに隠されているとか?」


 ミスティ先輩が表情を曇らせ、レイシーとケイトが首を捻る。


 ケイトは惜しいところをついているが、正解にはわずかに届かない。


 俺はヒントを出した。


「『急がば回れ』がポイントじゃないか?」

「それって、『急いで物事を()()げようとするときは、遠回りをするほうがかえって得策』ってことわざだよね? レイシー」

「最短距離ではなく、回り道をするのでしょうか?」

「あえて、もっとも時間がかかる順番で石碑に触れてみようか?」

「ですが、階段が見つからなければ意味がありませんよ? エリーゼさん」


 ヒントを得てもなお、4人の推理は難航(なんこう)している。


 ふむ。この暗号は難しすぎたか。


 フローラに負けるわけにはいかないので、俺は答えを明かすことにした。


「一旦、1階層に戻ってみないか?」

「「「「えっ!?」」」」


 4人が目を丸くした。


「せっかく2階層まで来たのに?」

「1階層は攻略しているんだから、戻っても、2階層にはまた来られるだろ?」


 難色を示すケイトを宥め、俺は続ける。


「俺たちにとって一番回り道なのは、『1階層へ戻る』だしな」

「つまり、『2階層にある4つの石碑に触れたら、1階層に階段が出現する』ということかい?」


 エリーゼ先輩に、「ええ」と俺は首肯する。


「実際、先へ進むために一度来た道を戻らなくちゃならないダンジョンって、結構ありますからね」


 嘘は言ってない。


 この世界にあるかどうかはわからないが、ゲームにおけるダンジョンでは、一般的なギミックだし。


 俺の話を聞いて、ミスティ先輩が人差し指を立てた。


「これまでもわたくしたちは、マサラニアさんの知識に助けていただいてきました。このまま悩み続けるより、マサラニアさんを信じてみませんか?」

「「「異論なし」」」


 3人があっさり賛同する。


 俺の案は突飛(とっぴ)なものだから、もっと躊躇(とまど)うと思ったんだが……。


 俺が意外な顔をしたからか、レイシーがニッコリと笑顔を向けた。


「ロッドくんが仰ると、どんなに信じがたいお話も、本当だと思えるんですよ」

「手放しの賞賛だな」

「事実ですから」


 言い切るレイシーに、俺は苦笑を返した。

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