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弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――14

 カールが俺を指差して勝ち誇る。


『エレクトリックフィールド』は、雷属性の範囲攻撃を行う魔法スキルだ。


 カールの言うとおり、範囲攻撃は()れなく『回避不可』で、複数体のモンスターにダメージを与えることができる。


 消費MPが多く、チャージタイム、クールタイムが長いことがネックだが、複数のモンスターを相手にする際に重宝(ちょうほう)するスキルだ。


『目眩』の影響を受けることなく、分身にも本体にもまとめてダメージを与えることができる範囲攻撃は、現状を打破(だは)する有効打と言っていいだろう。


「なるほど、そう来たか」

「涼しい顔をしていられるのもいまのうちだ! エレクトリックフィールドのチャージタイムである10秒後、お前の戦法は崩れる!」


 俺が顎に指を当てていると、カールが、ククッ、と喉を鳴らした。


 カイザーのまとう電流がますます激しくなる。


 大気が爆ぜる音が音量を増し、電光が(まばゆ)くなり、電流の本数も増えていく。


『ピィッ!』


 3度目のHP吸収が行われ、また1体クロの分身が生まれた直後。


「雑魚が何匹増えようと無駄なんだよ! 終わりだ!」

『ウォオオオオンッ!』


 カイザーが咆哮(ほうこう)し、体にまとう電流が、一気に膨れ上がった。


 エレクトリックフィールドの発動だ。


 電流はドームを形成し、地面と大気を侵略するように広がっていく。


 クロと分身たちが、放たれたエレクトリックフィールドを(かわ)す手立てはない。()(すべ)もなくのみ込まれるだろう。


 俺は冷静に分析し、呟いた。




「まあ、想定の範疇(はんちゅう)だけどな」




 焦りひとつなく、クロと分身たちに指示を出す。


「『テンポラリーバリア』!」

『『『ピッ!』』』


 クロと分身たちが(おう)じ、その体が仄暗(ほのぐら)(まく)に覆われた。


 エレクトリックフィールドがクロと分身たちをのみ込む。


 その光景を目にして、カールが哄笑(こうしょう)した。


「はははははっ! 僕を愚弄した罰だ、落ちこぼれ! このままエレクトリックフィールドを連発すれば僕の勝ちだ! 無様な負け姿を(さら)すといい!」


 カールの笑い声が響くなか、電流のドームがゆっくりと消失していき、




『『『ピィッ!』』』

 クロと分身たちが、傷ひとつない姿で現れた。




「…………は?」


 カールの笑い声が途絶(とだ)える。


 驚きに瞠目(どうもく)するカールに、俺は口端を上げた。


「範囲攻撃に弱いことなんて百も承知だ、対策を施さないわけないだろ?」


 クロと分身たちが用いたのは、魔法スキル『テンポラリーバリア』。その効果は、『次に与えられるダメージを無効化する』だ。


 範囲攻撃が『回避不可』で、分身を盾にできないのならば、スキルで防いでしまえばいい。


 範囲攻撃は、チャージタイム、クールタイムともに長いから、テンポラリーバリアのクールタイムのほうが先に終わるしな。


 さーて、次はこっちの番だ!


「ガンガンいくぞ! クロの分身たちもアブソーブウィスプだ!」

『『ピィッ!』』


 分身たちが力を溜めて、アブソーブウィスプを発動した。


 浮かび上がったふたつの火の玉が、カイザーにまとわりつく。


 分身のHPは微量なので、HP吸収が行われても『分裂』の効果は発動しないが、相手を追い詰めるには申し分ない。


 カールはその(さま)を、ただ呆然と眺めていた。


「そ、そんな、バカな……」

「これが俺たちの戦い方だ」


 ガクガクと震えるカールに言い放つ。


 ブラックスライムの必須スキルであるアブソーブウィスプを用い、少しずつ相手のHPを削りながら、分身を生み出していく。


 相手の攻撃は、ヴァーティゴによる『目眩』と、分身の盾で凌ぎ、範囲攻撃が放たれた場合はテンポラリーバリア。


 ブラックスライムは屈指の耐久性を誇るので、相手のSTR、INTがよほど高くない限り、一発二発攻撃を食らっても、HPが3/4を下回ることはない。


 残された手段は逃走か交代かだが、シャドースティッチで動きを封じられた相手には不可能だ。


 これこそが、アブウィス型(アブソーブウィスプ型の略称)と呼ばれる、ブラックスライムのスキル構成の一例。


 極悪非道のハメ技仕様(しよう)だ。


『ピィッ!』


 さらに分身が出現したところで、カールの膝がガクッと崩れた。


「う、嘘だ……神に選ばれた僕が、ブラックスライム如きに負けるなんて……」


 茫然自失(ぼうぜんじしつ)とするカールに、俺は自慢げに笑う。


「どうだ? これが、お前がバカにしたクロの真価だ」

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